八話、唐突な戦闘シーン、それは読者と作者を困惑させる
名前:ヒースクリフ・家名この後もあんま出ないから忘れた
属性:薔薇、魔法少女
ランク:男だから無いよ
◇ ◇
私フィリア・リザリッドが入学してから一ヶ月と少し経ちました。様々な出会いがあった濃厚な一ヶ月でした。
『明日から連休になりますが、気を緩めないように』
先生の話が終わり、生徒たちが帰宅を始める。その顔はどこか嬉しそうで口々に『○○家のお茶会、楽しみね』『○○家も~』など、休日の過ごし方を話し合っていた。
明日からは連休になる。けれど、私は何をして過ごそうかな?
その時、後ろから声を掛けらた。その声の主は――――。
1、ジョニー! ジョニーじゃないか!
2、フィリア流ヒ〇キの棒術汝に大いなる絶望を
3、残像だ
「(――これ、どうなるんだ……)」
フィリアはゲーム画面を見て困惑する。ゲームの進行からして『好感度が一定以上のキャラとのデートイベント』の選択肢なのだろうが、選べるキャラがいないのだ(当たり前)。
ゲーム機は何故か現実とリンクしているため、これは連休の前日――つまり明日起こることなのだろう。
だがゲームには明らかにネタ選択肢しかないため、何が起こるか予測できない。つまり有り体に言えば『明日の対策を立てられない』ということである。
ゲームは選択肢より先に進んでくれないため、更なる情報は期待できない。
「(明日になってみないと分からない……ということか)」
◇ ◇
翌日の放課後、運命の時は訪れる。
「明日から連休になりますが、気を緩めないように」
担任教師の退出と同時に帰宅準備を始める生徒たち。中には休日の予定を語り合う姿もチラホラ見れる。
「(……いるな)」
そしてフィリアの背後に立つ何者かの気配。それはいったい誰なのか、フィリアには確かめる必要があった。
言うなれば、この時に背後に立っている人物こそ『現状フィリアに対する好感度が最も高い人物』ということになるのだ。
「――――リザリッドさん」
そして掛けられる声、フィリアはゆっくりと振り向き背後の人物を確認する。一体、誰が来たのかフィリアには予測は出来なかった。
豚と化した騎士、二輪の薔薇となった眼鏡と女装先生。それ以外にいるとすればまだ出てきていないキャラだが、接点がない状態でのデートは考えにくい。ゆえに相手の予想が出来ないのだった。
「(えっ、アメリアさん?)」
フィリアの背後に立っていたのはラスボスである少女、アメリア・ハーヴェルであった。アメリアは攻略対象(難易度ベリーイージーの呪い持ち)ではなかったのだ。ゆえに自然と候補から外していたのだ。
「あ、あの……明日、予定とかってありますか?」
「東の森で採取クエストをする予定があるんだ――――あっ」
ミス。フィリアは予定があると言ったが、それは間違いである。
予測はできないものの、想定をフィリアはしていた。
仮に声が掛かるとすればそれは攻略対象の誰かからであると想定して『断り文句の練習』を重ねていたのだ。
その練習のせいで予定があるか否かを聞かれて思わず反射的に『用意していた答え』を出してしまったのだ。
「い、いや! 予定は何も入ってないよ(やべッ! 攻略対象が来ること予想してたのが仇になった!!)」
訂正するも既に遅く、アメリアの目からは『自分のために予定を空けてくれようとしている』状況にしか映らなかった。
「(まずいな、アメリアさんといると心が何故か落ち着くからこんなこと言いたくなかったんだが……!)」
フィリアはアメリアに強く出れなかった。何故かアメリアを見ていると心が落ち着くのだ。同時に後悔の念が溢れ出し、懐かしささえ感じている。
ゆえに先ほどの発言は間違いなくミスだった。そしてその発言を聞いた上でアメリアは口を開く。
「予定が無いなら、明日ピクニックに行きませんか? 〝東の森〟の奥に綺麗な花畑があるって噂で聞いたことあるんです」
「(――――この子は)」
その返事はフィリアとアメリアにとっての最適解と呼べるものだった。
フィリアは断り文句として『東の森の採取クエスト』と言った後に予定は無いと言った。
アメリアは『東の森の採取クエスト』が断り文句であると察したのかもしれない。その上でフィリアの配慮を尊重しピクニックに誘い、場所を東の森に指定したのだろう。
しかも仮に断り文句ではなかったとしても〝噂を聞いた〟と言っているため森の中を一緒に探そう、という意図も含まれていた。
花畑を探す道中で採取クエストの品を〝偶然〟見付けても構わないという意図も込めてあった。
何故そんな意図があると分かったか。それはアメリアの言う花畑は割と有名な場所であるからだ。フィリアも何度か見付けており、採取クエストの品もその花畑でよく発見できると冒険者ギルドではオススメされている場所なのだ。
「うん、いいよ。明日は東の森でデートだね」
ならばとフィリアもアメリアの配慮を尊重し、ピクニックの誘いを受ける。
「? でぇ、と……?」
デートという単語を聞いた瞬間、アメリアは硬直する。デート、という単語を呟いて意味を思い出しているようだ。
「ん? デート、じゃないの……? あっ」
そこでようやくフィリアも気が付いた。そう、フィリアは今、女の子なのだ。女の子が女の子と遊びに行くのをデートと称するならばそっちの気があると勘違いされても仕方ない。
「あぅ」
「い、いや! その、今のは」
「えと……明日は、よろしくお願いしまひゅ」
顔を真っ赤にして噛むアメリア。そして噛んだことが余程恥ずかしかったのか、顔から湯気を放ち『そ、それではまた明日っ!』と言い残して帰宅した。
「ご、誤解を……弁解する機会を……」
フィリアの声は虚しく消える。フィリアが追いかける時には姿も見えなくなっていた。
◇ ◇
コボルト、それは人型の魔物であり討伐対象として扱われた存在である。背丈は平均で150センチとやや小柄だが恐るべきは身体能力と統率力である。
身体は犬の体毛で覆われており、人間の約1、5倍の身体能力を持つ。人間の持つ武器を奪い、自在に扱う個体もおり、スリーマンセルでの行動が多く確認されている。
「……大盾、剣、弓か。かなりバランスが良いな」
「殺す? 殺さない?」
「様子を見る限り街道を歩く行商人狙いってところだし、放置は出来ないね」
コボルトのスリーマンセルを発見する女子二人組の冒険者は、奇襲を仕掛けようとしていた。コボルトの身体能力は人間の男の1、5倍と言われているため、奇襲が最も効率良い方法と言えるだろう。
現状コボルトらは剣と弓が森の中にある街道を警戒し、大盾は数メートル離れ背後からの奇襲に警戒していた。
女子二人組は大盾側の更に奥の茂みに隠れていた。
「殺す順番は? 私はどれを殺していい?」
「先ず大盾から潰そう。失敗しても注意が俺に引き付けられるから、アメリアはその間に弓を殺ってくれ」
女子二人組――――フィリアとアメリアはコボルトを殺る作戦について話し合う。
フィリアに関しては冷静だが、アメリアは明らかにいつもとは異なる雰囲気を漂わせていた。まるで血に飢えた獣の眼光を放ち、他冒険者に見られでもすれば新たな伝説が生まれるだろう。
最優先に討伐するのは遠距離攻撃を持つ弓コボルト。弓コボルトを無理に殺ろうとすると傍にいる剣が気付き、数秒後には大盾と剣に挟まれる形になる。
では安全位置にいる弓コボルトを潰すには何が必要か? 答えは単純、不意である。そのため最も近接戦闘になれているフィリア(本当は支援回復)が奇襲を掛け不意を作るのだ。
「じゃあ今から30秒後に奇襲しかけるから移動お願い。出るタイミングはこっちで指示する」
「うん、早く血の噴水を作ろうねっ♪――――アンチノイズ」
「…………(戦闘狂って本当にいるんだなぁ)」
アメリアは魔法で物音を消し、弓コボルトのいる右側の草むらに移動する。そしてフィリアは左腰に下げている片手剣を右手で掴み――――奇襲する。
「ガウッ!?」
大盾はフィリアの接近に気付き大盾を構える。フィリアはそれを見た上で突進し――――盾に飛び蹴りを入れる。
「崩れたな」
「グルゥ……ッ」
態勢が崩れるのを確認し、フィリアは片手剣でコボルトの首を横薙ぎに振るう――――刹那に。
「ッ!?」
フィリアは片手剣を大盾コボルトが持っていた〝もう一つの武器〟の防御に使う。
その武器は槍、大盾によりコボルトの全体が確認できずその武器の存在に気付かなかったのだ。
大盾で攻撃を耐え、その瞬間に中距離攻撃手段である槍で敵を突く。それが大盾コボルトの基本戦闘スタイルである。
「ちッ! 仲間と数メートル離れてたのは油断を誘うためか……ッ」
「グルゥ……!」
大盾コボルトは不愉快そうに喉を鳴らす、それは想定通りに事が進まなかったためである。大盾コボルトの中ではフィリアの心臓を突き殺していたはずなのだ。
だがフィリアの反射神経により槍先をずらされ、皮鎧を掠める程度の成果で終わっていた。
「一撃で殺せなかったことを後悔しろ、二度は喰らわん」
そう宣告するとフィリアは先ほどと同じように突進を始める。その様子に大盾コボルトは嘲笑う。
先ほどは奇襲で態勢を崩した大盾コボルトだが、今度はそうはいかない。次こそは槍で殺す、と言わんばかりに喉を鳴らす。
「ガァッ!」
突進してきたフィリアに槍を突く。しかし悲しいかな、コボルトに人語を介する知性があればその行動も取らなかっただろうに。
「ガウ!?」
大盾コボルトは自分の槍先を見て唖然とする。何故ならば、大盾コボルトの槍先が破壊されているからだ。木の部分が折れ、金属部分が破損しているそれは最早ただの棒である。
「お前が武器を隠してたように、こっちも隠してんだよ」
フィリアの手に握られていたものは武器破壊を目的として造られたナイフ――――ソードブレイカーである。
フィリアは片手剣とは別に腰にナイフを装備しているのだ。動き重視の戦闘スタイルであるフィリアの言わば盾のような役割をさせている。
そして武器が破壊された大盾コボルトは動揺を隠せずにいた。それを見逃すフィリアではなく、片手剣により大盾コボルトは斬首された。
ここまでで既に弓と剣の注意は十分すぎるほどの引き付けられている。
「アメリアッ!」
「エンチャント・アンチブラッド」
即興パーティーであるため、細かい指示は打ち合わせしていない。だからこそ一番反応しやすい名前による合図。
それを察したアメリアは対生物属性をエンチャントした武器で弓コボルトを斬殺。
あと残るは剣コボルトだが。
「お前は詰みだ」
スリーマンセルで行動していたコボルトたちは、統率力により戦闘面の自信を持っていた。
所謂群れの強さである。ゆえ逆説的に単体になれば本来の戦闘力は自信と共に消え去ってしまう。だからこそ剣コボルトには逃げるという選択しか残されておらず、それを予測していないフィリアではない。
前後で挟まれている剣コボルトは逃亡すら許されず、フィリアの片手剣により絶命した。
「あぁぁぁ、綺麗……とても、綺麗な光景――――ってフィリアちゃん怪我してるよ!?」
「槍が確認できなかったのが欠点だな……武装見破りが可能なスキルとかあるかなぁ……」
「そういう問題じゃないよ!!」
戦闘終了と共にアメリアが駆け寄る。その表情は心配で焦っているように見えた。すぐさま治癒薬を取り出しているが、それを手で制する。
皮鎧と共にフィリアは軽傷を負っていた。だが、フィリアは支援と治癒が得意な身であるため、すぐさま治療が出来る。
「今度はもっと警戒してから奇襲しかけようよ! 圧倒的な惨殺ができるように!」
「わかったよ、相手の武装はもっと念入りに観察してから行動するさ。可能な限り戦闘も避ける」
「約束だよ? じゃあ速く次を殺しにいこっ♪」
「(……これが、バーサーカーか)」
そんな反省と雑談を交えながら、フィリアは空を見上げる。そして。
「(……なんでアメリアが戦闘に参加することになったんだっけ)」
現状に至った経緯を思い出す。
読み直したら、唐突に戦闘が始まり困惑していた作者
評価を入れて頂けると幸いです。
1点や2点でも入れていただけると嬉しいです。作者の心が軋む程度ですので正直な評価をしてください。
感想で『つまらない』などのコメントをする場合は『具体的な理由』を述べていただければまだ考えていない部分(二章以降)に影響するかもしれません。