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TS聖女は覇道を逝く。 〜サイコパスが聖女に転生しました〜  作者: サクシャンティウス
一章/善悪超越
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七話、悪いなフィリア、この部屋は雌〇ち専用なんだ


名前:アイザック・ガロウズ

属性:魔道g……何でも屋店主

 一割何でも屋、九割魔道具専門店のザックの実家は今日も右肩上がりの稼ぎとなっていた。


「おう、嬢ちゃん。今日は何が欲しいんだ?」

「アイザックさん、まずはこれを見てくれ」


 最早常連となっているフィリアは、アイザックとは軽口を叩ける程度には仲良くなっていた。


「これは……映像を記録する魔道具か……?」


 フィリアはカウンターに映像を記録する水晶――――巷では記憶結晶と呼ばれている魔道具を置いて起動した。


「こりゃ……王女殿下様か? 確か十歳ぐらいの」

「王女の映像を隠し撮りしてコレクションにしてたマニアから一つ譲ってもらった」

「へぇーこりゃ将来美人に……ん? 隠し撮り? しかもこの映像プライベートじゃね?」

「それで造ってもらいたいものがあるんだ」


 王女の隠し撮り映像を一度止め、本題に入る。


「おう、この前話に出たフィギュアか? それとも王女殿下に似合う魔道具とかか?」


 三十代のアイザックはまるで親バカのようなテンションで依頼内容の予想を始める。――そして。


「王女殿下のラ〇ドールを造ってくれ」

「―――――、―――」


 アイザックの表情が消える。王女殿下のラ〇ドール、という単語がアイザックの脳裏を駆け巡る。


 脳が理解を拒む。その影響かフリーズ状態のようになる。


「あの……え?」

「? 王女殿下のラ〇ドール、造ってくれないか?」

「ふぅー。え? ごめん、聞こえなかったよ。オジサン今は難聴系主人公なんだ」


 難聴系主人公に鞍替えしたアイザック。三十代の苦しい言い訳だった。だが、苦しい言い訳をするほどにアイザックは追い詰められていたのだ。

 現にアイザックの頭は今、ようやくフィリア(やべえ女)の言葉を理解し終えたところなのだから。


「意味が分からん、結論を簡潔に頼む」


 けれども難聴系主人公アイザックに与えられたのは無慈悲な現実だった。結論を迫るフィリア(悪魔)の声でアイザックは思考を取り戻す。


「無理だ! 造ること自体は不可能ではないが処刑される!」


 そう、造ること自体は可能である。しかし自国の王女をモデルに〇処理道具を作製など、考えるまでもなく処刑の案件だろう。


 アイザックも男である以上、そういった幼い子に興奮し人生を終わらせる人種がいることは理解している。だが、アイザックはノーマルなのだ。普通に大人の女性が好きなのだ。

 ゆえにフィリアの依頼(=死)を受けることは出来ない。


「ま、そうなるよな……八割は冗談で依頼したようなもんだし」

「逆に二割は本気のか……」


 アイザックは恐怖した。二割でもやりかねない可能性を考えられていたことにである。今まで、少なくともフィリアの前では危険な発言はしていなかったとアイザックは今までの会話を思い出す。自作魔道具から目を背けながら。


「この映像を譲ってくれた奴はやりそうだったから……」

「もうソイツに頼めよ……」


 アイザックの常識的すぎる発言である。しかしそれは不可能なのだ。

 アイザックは魔道具に関しては天才である。だが、アイザックはそれを自覚できていない節がある。


 自分が独学で魔道具を造れたのは才能ではなく、他の人がやろうとしなかったからだと、考えている。

 曰く、独学でやれば誰にでも出来たことだ。

 曰く、他の人でも簡単に出来るはずだ。

 曰く、才能があると認めたら若い頃に超節約生活を続けて全財産を使って、苦しみを何年も耐えてようやくの思いで出せた店が無駄でしたと認めることになってしまう。


 王女殿下のラ〇ドールなどを造るには型を用いるのだが、フィリアにはその伝手がない。無論、探せば見つかるだろうがそれより早い手段を見付けたのだ。


 それが魔道具である。前世の技術にも引けを取らない性能を持つ魔道具、それらを造りだしたのはアイザックである。

 逆を言えばそのレベルの魔道具を造れそうな人間はアイザックぐらいしかいないのだ。


「ま、アイザックさんだろうがロリコンさんだろうが、死ぬことが条件に含まれる依頼とか出せないしな……」

「じゃあ何で来たんだよ……」

「雑談と買い物」


 結局のところフィリアは帰った。突破口が見えているのにどうにも出来ない。そんな現状に無意識にも苛立ちを感じていたのだろう。

 有り体に言えばヤケクソ気味だったのだ。

 何故なら次の攻略対象は教師であり、授業中に何度も接触することが予測できるからだ。


 それ以上にヒースクリフとの接触まであと一日しか残されていないのだから。


 ◇ ◇

 翌日、フィリアは学園で憂鬱そうな溜息を吐く。原因は言うまでもなく次の攻略対象である。

 ケインの場合は『挨拶だけで好感度があがる』という怪奇現象が起きたため、それと同等レベルの怪奇現象が起きても何ら可笑しくないとフィリアは推測していた。


「聞いてくれリザリッド殿! 僕、最近魔道具造りの天才に弟子入りしたんだ。そして出来た作品がこの〝服スケスケ眼鏡 ~彼女のN〇R現場を目撃した編~〟だッ! このサブタイトルみたいのは師匠が付けてくれてさ~いいだろ?」

「おはようケイン、今日も下品の塊だな」


 怪しい色をした眼鏡を片手にケインが近寄ってくる。フィリアはケインの話を聞き流して、授業の準備をする。


「これを着けると~と、説明する前に着けちゃいまーすッ! うほぉ……あれ? 透けてない……?」

「おーケイン、何してるんだ? あ、一代目女王様、おはようございます」


 マルクスが制服に首輪で挨拶をしに近寄る。一代目という単語からは複数人の女王様と出会えたことが軽く予想できるが、フィリアには考える余裕はなかった。それ以前に考える必要性を感じられなかった。


「ん? ああ、マルクtgふぇybd2;t4えw」

「ど、どうしたケインーーーーーー!!」


 ケインはマルクスを視界に入れた瞬間、その場に跪き朝食(オブラート)を袋にぶちまけた。袋には新品のティッシュが入っていたがケインの朝食で使えなくなった。


「こ、れ……なんで、おとこの服だけ透ける、の」

「ケイン! しっかりしろーーーー!!」

「僕に近寄るなァァァァァァ!! 服の下に着けてるソレを捨てろオオオオォォォォォッ!!」


 教室に降臨する混沌。その中でフィリアは独り溜息を吐く。そんな時、教室にフィリア(可、愛い?)の敵が訪れた。


「キミ、大丈夫?」


 登場シーンに入る台詞をそっくりそのまま発言する――――フィリアに。目の前に絶叫しているケインがいるにも関わらずフィリアに話しかける様子は最早恐怖である。


「……俺より、ケインを心配してやってくれ。絶望してるから」

「はッ! 自分より他の生徒のことを案じるなんて……おもしろい子だ」


【ヒースクリフ:好感度12】←過去最高の上り幅


「うッ! すみません先生、早退します!!」

「え? フッ、一時間目も始まっていないのに早退なんて……おも――――」


 フィリアは逃げた、まさか一分すら立たずに好感度12になるとは思っていなかったからである。

 早急に対策を考えなくてはいけない。このままでは一日で好感度100にすら到達しかねないのだ。


【ヒースクリフ:好感度14】


「(俺に対する興味を消すにはどうすればいい!? 別の人間に移す!? 王女殿下のラ〇ドール作戦は出来ない、どうする!? 王女ではダメなら、幼い女の子では不可能なら――――)」


 ◇ ◇

「おう嬢ちゃん、今日は何の用だ?」

「今すぐBL本を錬成しろッ! さもなくば貴様を殺す!!」

「ふぁッ!? お、落ち着け何があった!!」


 アイザックの店に直行、そしてフィリアはBL本の錬成を要求した。幼い女の子ではダメ=男なら可能?という、支離滅裂なフィリア流方程式が脳内を暴れまわっていた。


「――――要するに嬢ちゃんへの興味を消したくて、その手段が『教師と誰かが恋仲になればいい』ってことか?」

「そういうことだ」


 お茶を貰い、ある程度の余裕を手に入れたフィリアは事情を掻い摘まんで説明する。アイザックは状況をまとめると、少し唸って問いかける。


「その教師はどんな容姿だ? それによっては力になれるかもしれん」

「おおまじか! ええっとな……美形だな、中性的な容姿で女性に間違えそうになる(とゲームで説明されていた)」


 話を聞くとアイザックは『少し待ってろ』と言い残し、店の奥から一つの魔道具を取りに戻る。

 杖の形状だが、先端がハートになっている魔道具だった。魔法少女アニメに出てくるステッキと言われても違和感がない。


「あらよっと」


 ステッキを振りかざすと先端のハートからビームが出る。そのビームがフィリアに直撃するとポワンっという音と共に煙を放つ。


「……ん? なんか服が変わってる……?」


 煙が消えるとフィリアの服は制服から金曜日夜の男になっていた。下にはトランクス、上にはダボダボのシャツに皴が目立つワイシャツ。靴は何故かサンダルである。


「エッッッ」

「……アイザックさん、これ効果時間は?」

「……一時間くらい、です」


 アイザックの反応でフィリアは自分の姿を悟る。恰好のみならば帰宅と同時にズボンを脱いで酒を飲む男だが、腐っても見た目は美少女。

 シャツも男物であり、まるで彼シャツ状態なのだ。


「ええと、最近できた弟子の作品なんだけどよ。ちょっと失敗作でな。本来の効果は『女性に使うと可愛い女の子の服になる』ってものなんだが、何故か『男に使うと可愛い服、女に使うとランダムで男の服になる』って効果になってるんだよ」

「致命的すぎるだろ……時間経過で治るなら構わないが」


 可愛い服を着ている女の子が見たいという目的なのに、男に可愛い服を着せる魔道具を造るなど致命的にも程がある。

 だが、この魔道具を出したことでフィリアはある程度アイザックが言いたいことを察した。


「解体すれば原因は分かるんだが、初作品だって喜んでる弟子を見たら出来なくてなぁ……」

「親バカみたいになってるぞ」


 フィリアはアイザックの様子を軽く微笑ましく思いながら、弟子の初作品の魔道具を貸してくれたことに感謝をする。


「つまりこれを使えばマーグナス先生を女装させることが可能と言うことか」


 だが、問題はヒースが『誰かと恋仲になってくれるか否か』なのだ。女装させても恋仲になるかは分からないのだ。BLゲームの世界ならまだしも、乙女ゲームでは更に可能性が低いと言えるだろう。


「人によってはそれで好意を示すんじゃないか? 俺の弟子が以前『男でも可愛ければ可! 余裕で息子のマイケルが進化しますわ~ww』って言ってたからな」

「ああ、そういう類なら知り合いに心当たりがある」


 フィリアは脳裏に下ネタ叫んで爆笑している中学生を思い浮かべた。逆を言えばソイツ以外の心当たりが無いのだが、いないよりはいた方がマシであり、可能性が少しでもあるのなら賭けてみる価値はある。とフィリアは考える。


「ほー、俺の弟子以外にもそんな奴がいるんだな」


 アイザック自身も自分の弟子は一般的に少数派に属すると知っていた。ゆえに自分の弟子以外に同じような人がいると聞き、若干の興味を示した。


「アイザックさん、今日はありがとう。希望が見えたぜ」

「おう! 機会があったら俺の弟子にも会わせたいからまた来いよ!」


 フィリアは女装ステッキ(仮称)を手にザックの実家を出る。

 アイザックはまだ知らない、フィリアの言う『心当たり』とは誰のことか。そしてこの数日後にそれが誰だったのかを理解することになる。絶望を添えて。


「嬢ちゃん、あの格好のまま帰るのか……」


 ◇ ◇


「(今年も筋が良い子が多いですね)」


 その日の午後、ヒースは記録を付けていた。記録とは一年生の実技の授業に関するものであり、その結果にヒースは満足そうに微笑する。


「(これを資料室にしまえば今日の仕事はひと段落ですかね)」


 ヒースは記録帳を片手に資料室へと向かう。そこへヒースの担当しているクラスの生徒が近付く。


「ヒース先生、今よろしいですか?」

「質問ですか? 歩きながらでも良いなら受けますよ(この子は……ケイン・カーレッジ君か)」


 ノートを手に近付くケインの姿で質問をしに来たと察する。ケインはヒースの返答を聞くと『では』とノートを開いて質問をする。




 魔法学に関する質問をいくつか答えていると資料室に到着する。生徒に見られても特に困るものは置かれていないためケインも共に入室した。


「にしても勉強熱心ですね、魔道具にここまで熱心な生徒がいるとは少し驚きました」

「造りたいものがあるんです。今はスク水の香り製z――――香水を造れる魔道具を考えているんです!」


 全ての質問を終えて軽く雑談をするケインとヒース。そして資料室での用事を済ませ退出しようとする――――しかし。


「あ、あれ……? 開かない……?」


 扉に鍵が掛かっていないのにも関わらず、開けなくなっているのだ。まるで何かの魔道具を使っているかのようであり、腕力ではびくともしなかった。


「どうしたんですか? ヒース先s――――可愛っ」


 ヒースの様子を不審に思ったのか、ケインは何があったのかを不安そうに問い掛ける。しかしヒースを視界にいれてコンマ一秒で不安は消滅した。


「……え? な、なんですかこの格好!?」


 ヒースは女性用の水着を着用していた。

 いつ着替えたんだっけ、女性用の水着とか持ってたっけ、やばいドキドキしてきた――――様々な感想が頭を駆け巡る中、ただ一つ言えることはヒースは困惑しているということである。


「きゃっ、け、ケイン君! こっち見ないでくださいっ」

「す、すみません! でも、そっち見ないと僕の服を掛けられないので……」

「えっ(やだ……この子、紳士)」


 咄嗟に服を脱いでヒースに掛けるケイン。その姿にヒースは自分の胸がきゅんっと鳴ったことに気付く。



 一方その頃、資料室扉前。実行犯は中の会話を聞いて歪な笑みを浮かべた。


「(これ以上ここにいるのは無粋だな)」


 実行犯とは当然フィリアであり、会話を聞いて中での雰囲気を察する。このままいけば三十分で何か起こるだろう。

 ゆえにここから先は薔薇の領域。フィリア(生物的には女)には出る幕は無いだろう。フィリアはクールにその場を去った。


【ヒースクリフ:好……】

【ヒースクリフ:薔薇ランク801】

ケイン「僕に近寄るなァァァァァ!!」

???「オレの側に近寄るなあああーーーーーーッ」


 ……ごめんなさい。


 評価を入れて頂けると幸いです。

 1点や2点でも入れていただけると嬉しいです。作者の心が軋む程度ですので正直な評価をしてください。


 感想で『つまらない』などのコメントをする場合は『具体的な理由』を述べていただければまだ考えていない部分(二章以降)に影響するかもしれません。



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