六話、中学生、下ネタの貯蔵は十分か
翌日、フィリアはいつものように登校をすると変わり果てた(黒幕はフィリア)神童ケイン・カーレッジがいた。
「おう! おはようリザリッド殿! あぁ~~チ〇ポッ! ブフォww」
「(やべえな、予想の斜め上いきやがった)」
ケインを数時間で解ける魔道具で部屋に閉じ込め、エロ本と共に過ごさせたのはフィリアである。その結果、ケインルートの破壊は成功した。
【ケイン:中学生ランク1072】
同時に現れた新たな項目。それが中学生ランクである。現れた時は理解できなかったが、ケインのキャラ崩壊からその意味を察した。
「(下ネタ覚えたばかりの〝中学生〟ってことか……)」
「リザリッド殿は巨乳派? 貧乳派?」
「貧乳派だ(キャラ崩壊が酷いけどルート破壊したんだ……これぐらいは覚悟してたからいいか)」
乙女ゲームのファンが見ればショック死しかねないキャラ崩壊。だがフィリア(外道)からしたら死活問題であるため、必要な犠牲と断じた。
「きゃー! ケイン様、おはy――――」
「チ〇ポチ〇ポチ〇ポッポ~~フォオオオオww」
「――――今日の一限目なんだっけ?」「魔法学」
ケインのファンである女子生徒の切り替えは音速を越えた。軽蔑すらせず、脳を切り替えた女子生徒。あまりにタフな精神力にフィリアは思わず敬礼していた。
「女の子と■■■■してえな~マ〇な子とか最高じゃんな~」
「おいケイン!! お前、ふざけてんのか!? 男なら女王様にハイヒールで踏み付けられる妄想しろよ!」
「はァ!? 綺麗な女性なら誰にでも■■■(自主規制)になる癖に何言ってやが――――」
「勘違いするな、いいか? 豚はな『女王様のために』地べたを這いつくばるんだよ。普段から騎士として女性に憧れの視線を向けられてる僕はな、軽蔑をされたくてたまらないんだ! そんな時に僕を快楽の世界に引き入れてくれた女王様に最大の誠意をもって使えたい、当然だろう!? 誰でもいい? 馬鹿抜かせ、僕は〝僕を救ってくれた女王様〟に奉仕したいんだよ! あの蔑む視線を受ける度に胸がどきどきして止まらないんだ! ああ、僕は今敬愛している女王様に豚として蔑まれている……これ以上の喜びがあるか!? いいや否、あるわけがない!! 女王様は僕の欲しがっている軽蔑を的確に与えてくれるんだ! あんな視線を向けてくれるのは――――」
結論から言えばマルクスは、この後、周囲の女子生徒に軽蔑の視線を向けられることになる。
後にマルクスはこの時のことをこう語った。
――――この世は女王様に溢れてました。
◇ ◇
その日の放課後、フィリアは図書室に来ていた。攻略対象のルート破壊を二回成功させているため、本格的な準備に取り掛かり始めたのだ。
「(まずは歴史書の辺りを漁るか……)」
この世界には設定上、何かしらの困難が訪れる。それを解決するのがフィリア(主人公)なのだ。
聖女の力を開放することで世界を救う力を持つらしいが、問題は聖女の力を開放する手段である。
「(メ〇堕ちルートとか死んでもごめんだしな)」
聖女の力は攻略対象との絆を育むことで解放される、とフィリアは予想している。だが、フィリア(ノンケ)自身は攻略対象♂と恋愛は死んでも出来なかった。
ならば答えは単純である。
「聖女に成らずに敵とやらを殺す手段を手に入れれば、何の問題もない」
だからこそ、貴族のみが通うことを許された学園の図書館は最高の情報収集場なのだ。
歴史書から情報を集め、統合して敵の規模を推測。それに見合った力を手に入れ、聖女の力を解放せず敵を殺せばいい。
簡単な話では無いものの、雌堕ちルートから逃げようとするならば、それだけの覚悟が必要なのだ。
世界を救う手段をドブに捨てるなら、同等価値の何かを以て成し遂げる。それがフィリアの行動に対する責任である。
「(ってか、そもそも見ず知らずの他人のためにどうして俺が犠牲にならなきゃいけないんだ)」
世界のために身を捧げる、なんて御大層な思想などフィリアには存在しない。
人類のためにが口癖の自称勇者くん、愛護精神に溢れた偽善者、自分らのために犠牲になれと口にする安全圏にいる屑ども――――そんなに社会が大切ならお前が死ねがいいものを。
「――――ん?」
――――今、俺は何を考えていた?
フィリアは自分の思考が感情的になっているのを理解し、同時に困惑する。何故、自分が殺意に溢れた考えを浮かべていたのか、全く分からないのだ。
考えても分からず、一つだけ可能性があるとすれば。
「(前世の記憶が、影響してるのか……?)」
フィリアの持つ前世の記憶は完全なモノではない。部分的に思い出したが、所々欠けている記憶もあるのだ。
「ぐッ、いってぇ……! なん、だ、これ」
そこに至るとフィリアは突然、頭痛に苦しむ。まるでまだその時ではないと諭すかのようなタイミングだ。思わず頭に手を添え、近くの長テーブルに手を置く。
そう考えているとフィリアは、彼女を発見した。
「ん……? あの子は……アメリア・ハーヴェル?」
放課後の図書館、長テーブルでうたた寝している少女の姿があった。ゲームのラスボスであり、ハーヴェル公爵家の令嬢アメリア・ハーヴェル。
亜麻色の髪の少女は穏やかそうに眠り、フィリアは気が付けば少女のことをじっと見ていた。
「(何か読んでる間に寝ちゃったのかな……?)」
頭痛のことなど忘れ、アメリアの傍に寄る。ラスボスという雰囲気は微塵も感じさせない女の子。それどころかフィリア(中身)はアメリアのことを愛おしいと感じていた。会って二度目なのにもかかわらず、懐かしささえ感じていた。
「(……これは)」
傍に寄るとアメリアの近くに置いてあったソレに気付いた。
「(――――人生ゲームやんけ)」
サイコロを振り、マスを進めるパーティゲーム。それを見てフィリアは泣きそうになっていた。
何故ならこの人生ゲーム――――駒が一人分しかないのだ。
途中まで進んでいるらしいが、駒が一つしか置いていないのだ。即ちそれは――――
「(えっ……まさか一人で人生ゲームを……?)」
一人人生ゲーム、単語を頭に浮かべるだけでも悲しさが溢れ出す。話し掛けたい衝動に駆られるが、今のフィリアにはやるべきことがあった。
やるべきことをまずは済ませるべきだろう、そう考えフィリアは歴史書をアメリアの隣で読み進める。
「…………」
◇ ◇
夕方、図書館内で亜麻色の少女は目を覚ました。
「ん……んみゅ」
目を擦り、窓から外を見て夕方になったことを悟る。一人で人生ゲームをしていると退屈で眠気に誘われた記憶から状況を理解する。
「(寝ちゃってたんだ……私)」
時間も経過したため、図書館を出ようと人生ゲームを片付けるアメリア。そこで初めて自分に掛けられていたそれに気付いた。
「カーディガン? 誰が掛けてくれたんだろう……」
眠っているアメリアには学園支給のカーディガンが毛布代わりに掛けられていた。そして上着の持ち主を探すとすぐさま隣の席にいる少女に気が付く。
「(えっと……聖女候補のフィリア・リザリッドさん、だよね?)」
口を開けながら眠っている少女――――フィリアの存在を認識するとアメリアは優しく微笑んだ。少女と言うより男の子っぽい仕草を見て何か懐かしさを感じたのだ。
「頬っぺたふにふに……かわいい」
指でフィリアの頬を触れながら、クスっと笑うアメリア。時計を見て図書館が閉まるまで時間が残っていると知り、フィリアの肩に今度は自分の上着を掛ける。
「起こしちゃ、悪いもんね」
自分に言い聞かせるように言うと、アメリアは図書館を出ていく。その表情はとても幸せそうで穏やかなもので溢れていた。
◇ ◇
私、フィリア・リザリッドは不安を抱いていた。
今日は入学して一ヶ月、魔法学の基礎を学び終えたところである。それと同時に今日から魔法の実技が開始される。
『(ちゃんと魔法が使えるか、不安だなぁ)』
私は聖女候補として、相応しい力を身に着けなくちゃいけない。だからとても不安だった。
『キミ、大丈夫?』
そんな時、私は声を掛けられた。とっても綺麗な男性で、一見してみると女性にすら思えてしまう人だった。実際、声を聞かなければ間違えていたと思うほど中性的な容姿だった。
『あ、あなたは?』
『僕かい? 僕はヒースクリフ・マーグナス、今日から実技を担当することなっている新任教師だよ。気軽にヒース先生と呼んでくれ』
ヒースクリフ・マーグナス、マーグナス伯爵家の現当主の方だ。魔法学の最先端を担う学者で、20代後半ながら当主の座についていると聞いたことがある。
こんな綺麗な人だったなんて……
1、こ、これからよろしくお願いしますっ
2、さあ調教を始めよう。
3、フィリア流心霊術奥義|清廉なる者よ、煩悩に狂え《憑依する下ネタ》
再び選択肢を強いられるフィリア(プレイヤー)はどんな答えを――――
「なんか前より選択肢が酷くなっているような気がするんだが……」
ケインルート破壊と同時に進めるようになっていた乙女ゲームでは新キャラが登場していた。
ヒースクリフ・マーグナス、長髪の美青年、落ち着いた雰囲気、BLで受けにされそうな顔面――――所謂爽やかお兄さん系キャラ兼メス堕ち要員、それはフィリア(個人の偏見が含まれます)が下したヒースクリフの評価である。
「(さて、弱点は……っと〝年上の女性〟が苦手……?)」
ヒースクリフのキャラ説明、そこには年上の女性が苦手、と書かれていた。これに対してフィリアは頭を抱える。
理由は考えるまでもなく現十六歳であるフィリアにはどうしようもないことだからだ。ヒースクリフからの好感度を下げるために年上の女性をぶつけても、年上の女性が嫌われるだけでフィリアが嫌われるわけじゃないのだ。
当然、年を取れる手段などあるわけがない。
アイディアが思い付かない現状にフィリアは寝間着のままベットに寝転がる。何も浮かばないなら、一度頭を休めようと考えたためである。
ベットに横になり、自然を視線が部屋の壁へと移動する。
「(しかし、あのまま寝てしまうとは……)」
壁に掛けてあるのはアメリアの上着である。アメリアが隣で寝ている状態で本を読んでいる内に睡魔に襲われたのだ。
そして目を覚ますと夕方になり、アメリアの上着を肩に掛けられていたという状況だったのだ。
「(今度会った時に返さねえとな……)」
――――コンコンっ
フィリアがそう考えているとドアをノックする音が部屋に響く。
突然の来客にフィリアは警戒をする。何故ならフィリアに来客の心辺りが無いからである。
現在の時刻は午後十時を回っており、唯一知り合いである寮長が訪ねてくるとは思えない。
ならば考えられる可能性は寮に住む地方貴族による嫌がらせの類のものだろう、と予想したのだ。
「あの、リザリッドさんの部屋で間違いないですか……? アメリアです」
だがその予想は良い意味で裏切られる。来客者はアメリア・ハーヴェルであり、フィリアが丁度会いたいと思っていた人物なのだから。
「ハーヴェルさん、こんな夜遅くにどうしたの?」
フィリアは扉を開け、アメリアに要件を聞く。ある程度の予想は付いているが、確認のためである。
「リザリッドさんのカーディガンを返しに来ました。うっかり持ち帰ってしまったので、そのお詫びにお菓子とかどうぞ」
アメリアはフィリアに自分のカーディガンを掛けたが、その時にうっかりフィリアのカーディガンを持って帰ってしまったのだ。
帰ってからカーディガンの存在に気付いたアメリアは返そうと考えた。けれど友達いない歴の王であるアメリアは〝どうやって返せばいいんだろう〟と悩んだのだ。
その結果が手作り菓子の持参であり夜遅い理由は主にそれである。
「わざわざ寮まで来てくれてありがとう。寒いだろうから部屋に入らないか? お茶ぐらいは用意するよ」
「ふぇっ? じゃ、じゃあ……お言葉に甘えて、失礼します?」
会話に慣れていないのか疑問形になりながらも、部屋に上がるアメリア。フィリアは露店市場のマニアック部類の店に置いてあった日本のものに近い茶葉で緑茶を注ぐ。
「ふわぁ、良い香り……」
「気に入ってくれてよかったよ」
「はい……! この香り、とっても好きです」
お茶の香りで緊張がほぐれたのを確認すると、フィリアはアメリアが持参したお菓子を取り出す。
「折角だからお菓子も一緒に食べようぜ」
「ふふっ、夜にお菓子を食べるなんて……少しドキドキしますね」
そこからは軽く談笑を交わす。そして女子(片方は皮)同士の会話と言えば自然と恋話に流れていく。恋話を交わす中でフィリアは『そうだ』と思い出したように話題を振った。
「アメリアさん、例え話なんだけどさ、相手から恋愛感情を向けられてるとして、それを消す方法って何かないかな?」
「うーん、難しい、かな?」
それはフィリアが悩んでいる問題であり、感情に敏感な女性の意見があれば突破口が見れるかもしれないとフィリアは考えた。
だが結果は難しいという答えであり、フィリアは『そうだよなぁ』と薄々予想していた返答に同意で返す。
「でも、恋愛感情なら〝別の人を好きになれば〟消えるかもしれないよ? 好きの反対は無関心って言うし」
「別の人……か」
その後、二人は楽しく会話をして30分後に解散した。
名前:アメリア・ハーヴェル
属性:ぼっち
ランク:B+(C寄りのB)
評価を入れて頂けると幸いです。
1点や2点でも入れていただけると嬉しいです。作者の心が軋む程度ですので正直な評価をしてください。
感想で『つまらない』などのコメントをする場合は『具体的な理由』を述べていただければまだ考えていない部分(二章以降)に影響するかもしれません。