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TS聖女は覇道を逝く。 〜サイコパスが聖女に転生しました〜  作者: サクシャンティウス
一章/善悪超越
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五話、フィリア、〇ロ本を買う

とりあえず、毎日12時に投稿する予定です。(一章の部分は)

「また来るよ!」

「……ありがとうございやした」


 ザックの実家、店主アイザック・ガロウズは満足そうに帰る客を見て嘆息を吐いた。売上は赤字なのかと思いきや、そうではない。

 赤字どころか大繁盛と言ってもいい売上を叩き出していた。


 だがアイザックには喜べない理由があった。


「(また魔道具が売れた……趣味で造ってるだけなのに)」


 アイザックは本来、武器や道具を扱う何でも屋なのだ。魔道具は本来趣味で造っているだけで、売り物ではないのだ。

 客に売って欲しいと言われて渋々売っているという感覚で店の売り物にする気は無かった。


「はあ……このままじゃいつか暗殺されるかもしれないな。魔道具師ってプライド高いって言うし……」


 そう、それこそがアイザックが魔道具を売りたがらない理由である。

 世に出回る魔道具の大半は魔道具師と呼ばれる〝専門職の人間〟が造ったものである。


 魔道具を造るにはそれ相応の知識が必要とされるため、一定以上の教養を持った人間が魔道具師になる。

 ゆえに魔道具師の中には没落した貴族や身分の低い貴族が多くいる。


「もう海外逃亡しようかな……嫌がらせとか受けるし」


 そんな魔道具師たちの目にはアイザックは目障りな存在として映っていた。

 ただの魔道具しか造れないならば、無視もされていただろう。けれどアイザックの魔道具は無視できないものなのだ。


「(なんで毎回、魔道具師の魔道具よりも性能が高い魔道具が出来ちまうんだよ……)」


 アイザックの魔道具は性能が〝専門職の人間〟のモノより高いのだ。最低でも二割増し、最高ならば三倍近くの性能すら持っていた。


 通常の魔道具作成手順を見れれば原因が分かったかもしれないが、魔道具師たちから目の敵にされているアイザックに見せる人はいなかった。


「(お、客が来たか)」


 ドアのベルで来客を知ると気を張りなおす。そして来店した客の姿を見てアイザックはぎょっとした。


「いつぞやの嬢ちゃん、だよ、な?」


 それは以前、クリームパイ50個を注文した少女フィリアの姿だった。けれど今の彼女は以前とは違う雰囲気を放っていた。


「ああ、そうだが……どうしたんだ?」

「いや……なんか、まともな女の子っぽくて」


 フィリアは至って平穏で気軽に疑問で返してくる。以前、来店した時は何か焦っていた様子だったのだ。まるで理不尽な運命を嘆いているかのような様子で店主も戸惑ってしまったことを覚えている。


「ははは、なんだそりゃ。そうそう、アイザックさん、欲しいものがあるんだが、いいか?」


 アイザックはフィリアの様子を見て安堵の息を吐く。以前、戸惑っていたことは全て忘れ、目の前にいるのは男口調の女の子だと認識を改めた。


「何が欲しいんだい?(なんだ、男口調なだけで可愛い女の子じゃないか)」


 アイザックはフィリアを可愛い女の子だと認識し、優しい口調で語り掛ける。普段、女性と話す機会が少ないからこそデレてしまうのだろう。

 ――――そのデレが自らを傷付けるとも知らずに。


「とりあえず――――■■■■モノのエ〇本2000冊くれ」

「――――――――」


◇ ◇

「――――はッ、な、なんだ……夢か」


 アイザックは夢を見た。可愛らしい女の子(皮)の下品な単語(自主規制)を口にする悪夢である。


「エ〇本2000冊くれ」


 ――――否、現実である。フィリアは現実逃避無効の意味を込めてアイザックに注文をする。

 アイザックは顔に悲痛の色を浮かばせる。しかしそこは腐っても商売人、理想の女の子が破壊されても対応をしなければならない。


「難しいか?」

「可能っちゃ可能だが……時間と相当な金が掛かるな。紙もただじゃねえし」


 日本よりも紙の値段が高く、その上2000冊も注文すれば金の桁は計り知れない。貴族ならばまだしも、平民の、更に一個人で払える値段の域は優に超えているだろう。


「(まあ大体予想は付いてたし、冗談はこの辺にするか)」


 当然、フィリアはこうなることを予測済みである。それを理解した上でこの店に

来店したのだ。現状を解決する可能性が最も高いアイザックの店にである。


「じゃあ〝本の内容を変える魔道具〟はあるか?」


 解決する可能性が高いと考えた要素、それは〝魔道具〟である。以前この店で見た魔道具はどこの店にも置いていない魔道具――――所謂、新種の魔道具だったのだ。

 その製作者がアイザックならば新種の魔道具を生み出すことすら出来るのではないか、とフィリアは推測していた。


 そしてその推測は概ね当たっている。アイザック本人が進んで造らないだけで新種の魔道具程度ならば簡単に作成可能なのだ。


「あー、幻術の応用ならいけるかもな。効果時間は限定されるとは思うが」


 現にこうしてアイザックは〝可能〟だと言っている。最早伝説の魔道具師と言われても可笑しくないレベルの才能なのだが、悲しいことにアイザックは自覚できていない。

 ――――そもそも独学で魔道具を造れること自体が異常なのに。


「造るとしたら時間はどのくらいかかる?」

「数十分かそこらだな。以前似たようなコンセプトで造ったやつがあったから調整だけで済む」

「もう魔……それ、買い取らせてもらってもいいかな? 当然、他言無用にしとく」


 ――――もう魔道具屋になれよ、と言いたくなる欲求を抑えてフィリアは購入したいと告げる。

 本来は非売品であり、アイザックが売りたがらないことも知っていた。理由こそ知らないものの、何か不都合があると察してフィリアは他言無用にすると必要最低限の配慮をしていた。


「サービスにしといてやるよ、どうせ埃を被ってたしな」

「え。いや、そりゃ流石に悪いって」


 埃を被っていても高性能な魔道具であることは間違いなく、フィリアという客には必要なモノだった。

 だからこそ、フィリアは若干の警戒の意を込めて拒否した。

 アイザックとフィリアが会うのはこれで二度目なのだ。一度目で沢山買ったからとは言え、二度目で魔道具をサービスされれば感謝を越えて警戒するレベルである。


「嬢ちゃんのおかげで赤字抜け出せたんだ。それと未来の投資ってな」


 アイザックはフィリアの警戒を察したのか、サービスの理由を話し始めた。


「嬢ちゃんだろ? 最近噂になってるぜ。冒険者になって一週間のルーキー。単独でDランクの魔物を討伐した女の子ってな」


 そう、ここ数日のフィリアは放課後の時間を利用して冒険者をやっていたのだ。


 理由は二つある。戦闘の訓練と資金の調達である。

 一つ目は『戦闘の訓練』である。フィリア(ハイスペック主人公)の効率的な戦闘方法を身体で覚えておいた方が良いと考えたのだ。

 更にこの世界にはレベルが存在しておらず、代わりにあるのが『熟練度』である。基本的な能力値は変わらないが『スキル』や『魔法』によって戦闘を行うのだ。

 ゆえに世界を救うらしい旅に向かう前に熟練度を溜めておきたかったのだ。


 二つ目の『資金の調達』。これからも攻略対象を相手にするならば金が掛かることは必然と言えた。ゆえに冒険者という職業は『戦闘の訓練』と『資金の調達』を同時に行える理想形とも呼べるものだった。


 その経緯で高い報酬の依頼を受けていると期待の新人であるソロ冒険者として有名になったのだ。


「嬢ちゃんがうちの魔道具を使ってくれたおかげで何でも屋なのに魔道具目当ての客が来て大繁盛……さ、本当に……何でも屋とか、もう畳もうかな……」


 後半に近づくにつれて声が小さくなっていくアイザック。魔道具が売れるのに他の道具は一切売れないという現状に思うところがあるのだ。


「まあ、便利だったからな。魔物避けテントが一瞬で出せる〝瞬間テントさん〟とか泥水を一瞬で飲み水変える〝飲み水ちゃん〟とか」

「〝瞬間テントさん ~防音でお楽しみでしたね編~〟と〝飲み水ちゃん ~恋人の■■も飲めるぜ編~〟だぞ」

「このネーミングセンスさえどうにかなればもう少し売れると思うんだけどなあ……」


 魔道具のネーミングセンスが毎度のように酷いアイザック。それさえなければ周囲の目も気にしないで済み、幅広い層の冒険者が購入に来るはずだろう。


「まあ、細身オーガ、顔面詐欺、女装男子説――――色々な二つ名で噂になってるから、今のうちに投資しとこうかなって思ってよ」

「アイザックさん、噂流した奴の情報はいくらだ?」


 だが、その二つ名も案外間違っていないのだ。フィリアはDランクの魔物――――ハウンドを相手にスキルの練習をしていた。

 隠密スキルなどを獣相手を騙せるほどに成長させるためである。その過程で体術や武器スキルを上げたところを他の冒険者に見られていたのだ。


『ひッ! は、ハウンドを殴り殺した……ありゃオーガだ! 細身だから細身オーガだ!』

『あんな可愛い子が化け物なんて嘘だあり得ない。顔面詐欺顔面詐欺顔面詐欺顔面詐欺顔面詐欺顔面詐欺……』

『いい加減にしろよお前らッ! こんな可愛い子が女の子なわけないだろ! だから今すぐスカートをめくってくれるかな(キリッ』


 ――――以上のことからフィリアは噂になっていたのだ。


「情報は一人1000ディルだな。で、将来有望のルーキーに投資ってわけだ。返してくれる時に二倍にしてくれたらいいぜ」

「(……ここまで配慮されたら断れないな)」


 アイザックの挙げた理由のうち、後者がオマケのようなものだろう。とフィリアは推測した。

 理由は二倍、という点である。魔道具は安いものではないが、決して買えないものではない。ゆえに二倍程度ならばフィリアは今すぐにでも払えるのだ。


 だが『二倍』というのはアイザックなりの配慮だろうとフィリアは推測した。赤字から抜け出せた〝感謝〟こそがアイザックの本音であるが、フィリアが納得しないと察したのだろう。

 だから後者に『二倍で返せ』という文字だけならば欲深そうな条件を提示したのだ。フィリア自身が納得できるように、だ。


「そういうことなら有難く受け取るよ。大物になったら返してやるさ、いつになるかは分からんが」

「おう! 期待して待っててやるよ」


 そうしてフィリアは魔道具専門店ザックの実家を出ていった。


 ◇ ◇

 ケイン・カーレッジは神童である。幼少の時から本を読むことが好きで、様々な本を読むうちに知識欲が膨れ上がった。

 結果、様々な種類の本を読むようになり、八歳の時には大人顔負けの知識を持つことになった。


 十歳の誕生日に魔法書を貰い、才能を開花させる。父親の仕事すら手伝えるようになり、十二歳で宮廷魔導士の称号を手に入れると同時に神童と呼ばれるようになった。


「(出席は取ったし、部屋にでも籠るか)」


 それらの経歴があるケインは特例で授業免除が許されていた。更に専用の個室を用意され、ケインの所有物である魔法書2000冊が収納されていた。


「さて、今日はこの魔法書を読むか」


 栞の挟まれた魔法書を手に取り、中を開く。とある魔法が掛けられている……その本を。


「――――?」


 フリーズするケイン。目の前に広がる■■■■、それはケインの歩んだ人生にはない輝き(怪しい)を放っていた。


「………………」


 本を閉じる。深呼吸をする。目を開ける。覚醒を始めるマイケル(仮称)

 本を閉じる。深呼吸をする。目を開ける。覚醒を果たすマイケル(息子)

 その動作を繰り返し、ケインは本棚に無言でしまう。


 そして別の本を開ける。


「………………………………」


 本を閉じる。深呼吸をする。目を開ける。踊り始めたマイケル(名前)

 本を閉じる。深呼吸をする。目を開ける。自己主張が激しいマイケル(我が子)

 ケインは本棚に無言でしまう。深呼吸をして、無言で部屋の退出する。


「…………あれ」


 ――――否、部屋の扉は開かなかった。外から何かの魔法で止められているのだろうか、鍵は掛かっていないのにも関わらず開いてくれなかった。


「ま、まさか……閉じ込められ、た?」


 ケインは現状を理解すると、部屋に溢れる2000冊の魔法書(意味深)を見て頬を引き攣らせた。



【ケイン:好………………】

【ケイン:中学生ランク0721】


名前:マイケル

属性:下品


 評価を入れて頂けると幸いです。

 1点や2点でも入れていただけると嬉しいです。作者の心が軋む程度ですので正直な評価をしてください。


 感想で『つまらない』などのコメントをする場合は『具体的な理由』を述べていただければまだ考えていない部分(二章以降)に影響するかもしれません。



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