四話、攻略対象一切よ、ただ安らかに破滅しろ
・前回のあらすじ
爽やか騎士マルクス、豚になる。
昨日、言ったことは撤回します。
理由はPV数を確認するのに一日を掛けるより、連続投稿した方がメリット多そうだと思ったからです。
自分の言葉の責任守れずすみませんでした。
マルクスルート破壊が成功した夜、とある貴族の屋敷に黒装束の男が訪れていた。怪しげな男の訪問に普段の警備兵ならば通すはずがない。しかしこの男はアポを取ってこの屋敷を訪れた客だと兵には伝えられていた。
「先輩、あんな怪しい奴を本当に入れてよかったんですか?」
「ああ、お前は始めてか……あの剣士をを見るのは」
「え? あの腰のって杖じゃないんですか?」
先輩警備兵と後輩警備兵は主人の客人についての会話をしていた。時々、雇い主を訪ねる怪しい男。それが彼に対する警備兵らの認識だった。
そして彼らの間では彼が通ると必ず同じ話題をするのだ。
――――彼は剣士なのか、それとも魔法使いなのか。
腰に細剣を下げていることから剣士であることが予測できる。だが、その細剣の形状を警備兵たちは見たことがなかったため長めの杖かもしれない、と意見が分かれているのだ。
「杖にしては長すぎだろう」
「いやいや、剣って言ってもあの形状だと片方にしか刃が付いてませんよ? 片方だけに刃が付く剣とか俺、聞いたことないですよ」
彼が所有する武器が剣であるならば、鞘の形状から片側のみに刃が付くものになるのだ。そんな剣を一介の警備兵である彼らは知らなかった。
「そりゃあオメエ……あれだよ、きっとどっかの国の武器なんだよ」
「先輩それテキトーですよね? どっかの国ってどこすか、まさか東の帝国の更に東とか言うわけないですよね?」
「っ、う、うるせー。黙って仕事しやがれ」
屋敷内部、件の男は屋敷の主と対峙していた。
「依頼はなんだ」
「いきなりそれか、これだから傭兵は……」
屋敷の主と件の男は清々しいほどシンプルな関係である。雇い主と傭兵、単純なビジネスの関係である。
屋敷の主は貴族であり、身分こそ平民である男の態度は失礼に値するものだ。ゆえにプライドが高い屋敷の主はこの男を嫌っており、不愉快そうに嫌味を言う。
「無いのならば、帰らせてもらうが構わないか?」
「チッ、監視だよ監視。お前にはとある女のガキを監視してもらう」
不愉快だがこの男以上に完璧に仕事が出来る傭兵はいない、と屋敷の主は理解していた。
だから腹立たしくともこの男に依頼するしかないのだ、と不愉快さを微塵も隠さずに依頼をだしていた。
「女の子? 名前は」
「フィリア・リザリッド――――聖女候補だ」
◆ ◆
~聖女様、特訓の巻~
マルクスを卑しい豚にして一週間、フィリアは森にて行動を行っていた。
「ガウッ! ガルルルルッ!」
‐糞ヤバウルフ‐
糞やばい狼。人間さんを殺しちゃうぞっ♡
糞ヤバウルフは威嚇し、とある冒険者へと迫っていた。
「ひいいいい! 誰か、誰か助けてええええ!!」
涎を垂らしたクソ狼は、冒険者を見る。そして『もうこれは餌だ』と判断を下し飛び掛かる――――刹那に、頭蓋骨に流星が叩き込まれた。
「ギャインッ!?」
怯んだ瞬間、狼の下顎が無造作に引き千切られる。
血を吹き出し、憐れな肉塊となった狼。
彼をぐちゃぐちゃに殺したのは――――一人の少女だった。
「(……世界救う系主人公というだけあって、それなりにスペックが高いな)」
「あ、あなた、は……」
「聖女候補だ、最も聖女に成ってやる気は皆目ないがな」
狼の死体を治癒魔法で回復させる。
それを見て冒険者は困惑する。
「何故、狼の死体へ治癒魔法、を……ひっ」
次の瞬間、あろうことか狼を地面に置いて頭を拳で潰し始めた。
死体への異常な攻撃欲。冒険者には化け物にしか見えなかった。
「(筋力が壊せば壊すほど上がる、か)」
狼の頭がミンチになったのを確認すると、木に吊るし始めた。そう、これは血抜き作業である。
――――ただナイフが無かったから拳でやったというだけの話だ。
※聖女です。
「(理屈は理解、できる……でも、違う。なんで、なんでそんな当たり前にやってるんだ……? この子)」
冒険者は畏怖する。
当然だがこの世には『必要だが出来ないこと』が存在する。倫理的に、宗教的に、精神的に、必要だと分かっていても出来ないことなどそれこそ無数にあるのだ。
だが、目の前の少女は違う。この子は『必要ならやる精神』を持っていた。
「怪我はありませんか?」
「あ、ありま、せん。……あの、もう一度、貴女のことを伺っても……?」
「はい、聖女候補です」
「(違う、これは聖女とかじゃない。絶対違う。)」
冒険者の祈りは届かなかった。
◇ ◇
私はフィリア・リザリッド、聖女候補に選ばれて大変な日々を送っています。私が転入してから二週間、このところ頻繁に聞く名前があります。
「ねえ聞いた? あのケイン様が転入してくるそうよ」
「ええっ? 二年前に13歳にして宮廷魔導士の称号を手に入れた神童のケイン・カーレッジ様が!? あのカーレッジ侯爵家で現当主は宰相として名を馳せている~」
「説明乙」
ケイン・カーレッジ様、どんな人なのか私には想像が付かなかった。だが予測する必要もない。何故なら――――
1、私には世界を救う役目があるのだから
2、誰であろうと仲良くできる自信があるから
3、誰であろうと豚に堕としてしまえばいいのだから。
三つの選択肢が浮かび、どれを選ぶかはフィリア(プレイヤー)の手に委ねられた――――
「……なんかおかしくね」
謎が多いゲーム機を手にフィリアは浮かんだ疑問を思わず口に出してしまう。だがそれも当然だろう。
選択肢の中に明らかに可笑しなものが混ざっているのだ。まるでフィリアの以前の行動(M豚錬成)がそのまま反映されていると言っても過言ではないほど露骨な選択肢である。
「(まあ、疑問を覚えても結局は同じ結論になるし考えるだけ無駄か)」
――――どの仮説も結局は憶測の域を出ない。それが以前にフィリアが下した結論である。
何らかの意図があるゲーム機、しかし圧倒的な情報不足により仮説を立てても検証する術がない。ゆえに全てが憶測の域に留まってしまうのだ。
ゲーム機のエネルギーが何故か魔力で補えたり、行動がゲームに反映されている、そんな不可解な現象よりもまずは目の前の問題である。
「(ケイン・カーレッジ……か)」
ゲーム機のキャラクター説明欄には眼鏡キャラがいた。
眼鏡キャラとは遥か昔より冷静知的キャラ、魔法が得意なキャラ、陰湿糞眼鏡クタバレ塵――――などと様々なイメージが付けられている。
ケイン・カーレッジの説明もそれと同じ類のものであった。
ケイン・カーレッジ、15歳。13歳で宮廷魔導士の称号を得た神童。文官としても現役で働いている。国の法で王立魔道学園に通う必要があったため、出席日数のために登校している。
学園の許可を得て個室を借りて、彼の私物である『魔法書2000冊』を収納して授業時間に読んでいる。
下ネタや下品な話が大嫌い。童顔で中等部の生徒に間違えられやすい。
「下ネタや下品な話……か、余裕だな」
M豚錬成の要領で下ネタを振れば、好感度を下げることが出来るだろう。ならば恐れることなど何もないだろう、とフィリアは予測する。
「転入してから二週間、ということは明日か」
そう、フィリアがマルクスルート破壊を成功してから一週間以上の時が立っていたのだ。
◇ ◇
翌日の朝、まだ通学生徒の姿がほとんど見られない早朝である。フィリアは校門前の草むらにて隠れ張り込みをしていた。当然ターゲットであるケイン・カーレッジとの接触を図るためである。
ケイン・カーレッジは人付き合いが苦手で朝早くから登校しているのだ。ゲームの初登場シーンで言っていたのだ、これを利用しない手は無い。
「(青い髪、眼鏡、合法ショタ……間違いない、ケイン・カーレッジだな)」
鞄片手に本を読んでいる少年をフィリアは補足した。すぐさま移動を開始、ケイン・カーレッジの後ろに移動し草むらを出る。
そして丁度通学が被った幼馴染キャラの如き態度で背後に忍び寄る。
「やァァ、おはよう」
「うおっ、びっくりした」
ケイン・カーレッジは背後からの声に驚き振り返る。突然『やァァ(ニチャァ)』などと声を掛けられれば誰だって驚くはずだ。人によっては恐怖すら覚えるだろう。
「き、君は? なんかいきなり気配が現れたのだが……」
「本を読んでいるから気付かなかったのだろう、気にするな」
それは無い、ケイン・カーレッジは魔法の申し子と呼ばれるほどなのだ。習得している魔法には気配を感じる五感強化のものだってある。
神童ゆえ、何かと疎まれるケインはその魔法を常に使っている。
フィリアも事前の情報収集でそれは知っていた。だからどれほどなのかを試したのだ。そして結果は予想を下回る能力であった。
「(この身体(主人公)のスペックが高すぎるせいなのか、ケインの精度が低すぎるのか……比較対象が無いから分からんな)」
フィリアはここ数日の〝練習〟で気配を消せるようになっていた。数日で気配を消せるようになるなど本来ならば難しいだろう。
だが、それは案外呆気なく習得できたのだ。フィリア(雄)は身体のハイスペックなのだ原因だと推測をしている。
フィリア(肉体)は世界を救う系主人公なのだ。つまりそれ相応のスペックを与えられているのではないかと考えられた。
冷静に考えてみれば平凡なただ女の子に世界を救う偉業が果たせるわけがない。だとすればこのハイスペックは必然なものなのだと推測できる。
「そ、そうか、僕の余所見か……しかし僕に朝の挨拶をするとは……面白い女だ」
【ケイン:好感度2】←挨拶しただけで好感度2アップ
「おい待てこの野郎」
「?」
「(いくら何でもおかしいだろ!! 挨拶しただけだぞ!)」
フィリアはチョロさを超越した何かに戦慄した。挨拶をしただけで好感度が上がる、ちょっとしたホラーである。
この調子だと深呼吸しただけ好感度が上がりかねない。そう判断したフィリアは作戦を実行に移す。
「君はケイン君だね、カーセッ〇ス侯爵家の」
「…………ふぁ?」
下ネタが苦手、ならば下ネタをくれてやる。とフィリアは見紛う事なき下種な笑み――――下種マイルを浮かべた。
間違いなく好感度が下がったとフィリアはほくそ笑む。この上なく下品な家名への侮辱に、この上ない下品な笑み。これでケインルートも破壊成功だとフィリアは心の中で舞い上がる。
「す、すまない……耳の調子がおかしくなっていたようだ。それと僕は用事があるので失礼するよ」
「(よし、作戦は効いているようだ)」
用事があるので失礼する、というのは間違いなくその場を去るための嘘だろう。と推測する。だが、フィリアはその好感度を見てしまう。
【ケイン:好感度2】←好感度減ってない。
「なん……だと……!?」
フィリアは戸惑っていた。マルクスならば破壊できていた方法を試したのに何故、という疑問が浮かぶがすぐに違いに気付いた。
「(マルクスの場合は甘いものを食べさせる強制力(女王さま)がいたから好感度が下がったのか……?)」
そう、それこそがケインとマルクスの違いである。ならばケインも豚にしてしまえばいい、と考えるがそれは難しいのだ。
「(マルクスは最初からMの才能があったからいけたが……ケインは難しいな)」
マルクスは間違えなくMの才能があった。そうでなければ醜い豚と言われてすぐさま『女王様』という単語が出てくることに説明が付かない。
フィリアが『女王様とお呼び!』と命令したならば理解できるが、素で女王様が出てきたのだ。これでMじゃないと説明するほうが難しい。
フィリアの予測では難易度ベリーイージーは『好感度が上がり易くなる』という効果なのだ。
キャラの本質は変わらない。仮に変わったのならば難易度ベリーイージーとは別の力によるものだろう。
「強制力……か」
フィリアは微笑む、それはまるで慈愛溢れるシスターのような笑みだった――――目元を除けば。
フィリアは理解してしまった強制的に下ネタをぶつける方法を。その肥溜めの糞にも勝るとも劣らぬ下種思考回路により思いついてしまったのだ。
「あ、女王様おはようござ――――ひッ」
マルクスはこの時のことを後にこう語っている。
――――滅茶苦茶興奮した。
名前:ケイン・カー〇ックス
属性:合法ショタ眼鏡
特徴:挨拶するだけで落ちる
評価を入れて頂けると幸いです。
1点や2点でも入れていただけると嬉しいです。作者の心が軋む程度ですので正直な評価をしてください。
感想で『つまらない』などのコメントをする場合は『具体的な理由』を述べていただければまだ考えていない部分(二章以降)に影響するかもしれません。