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TS聖女は覇道を逝く。 〜サイコパスが聖女に転生しました〜  作者: サクシャンティウス
二章/理想
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二話、自由都市アトラスの設定とか多いからよく覚えてない

◆◇◆

「青髪のおねーさん頑張って!」

「ええ、頑張るわね。だから隙が出来たらすぐに逃げちゃいなさい」


 ――どうして、こうなったのだろう。

 今、私の目の前には盗賊が目視できる限りでも十三人いる。こちらの戦力は私一人、それに加え非戦闘員(お荷物)が三名ほどいる。


「護衛の方が逃げてしまって……本当に申し訳ない、この恩は必ず」

「気にしないでください……こちらも、少し危険なので。状況によっては――覚悟してくださいね」

「…………はい、ですがそんな状況になればせめて娘……いえ、これは望み過ぎですね」


 私は右肩に突き刺さっている弓矢に目を向ける。治癒魔法を掛けなければ右腕は使えないだろう。

 生憎と私は二刀使いであるため、最悪の状況ではない。弓矢に関しても〝護符〟を行使したため対策は済んだ。


 護符――自分を起点に結界を生み出す魔道具。これにより弓矢などの飛び道具は防げるだろう。


 けれどこの状況が危ないのは変わらない。

 既に二人は始末したけれど優位は依然変わらず相手側にある。


「気ぃ付けろよオメエら! 剣先が無い剣だからって油断すんなよ、油断してッとアイツらみてえになるぜ。コイツの護符が切れたら一斉に弓を打ち込め、それまでは無暗に手出すんじゃねえぞ!」

「(判断が早いわね……対人戦に慣れてるのかしら)」


 盗賊のリーダーらしき男の言葉に思わず歯嚙みする。思ったより手強い相手なのだと認識を上方修正する。


「(魔力残量は、少し厳しいわね……護符を維持したまま治癒魔法の行使できるほど残ってるとは思えないし……ここで取れる手段は……)」


 ――見捨てる。

 仮にここで商人らを見捨てても私にはお咎めは無いだろう。そもそも偶然居合わせただけなのだから。

 お咎めがあるとすれば護衛として雇われていた冒険者らだろう。私は商人の死亡を然るべき場所に連絡すれば十分すぎる対応と言えるだろう。


 ――戦う。

 勝機はある。しかしリスクが大きすぎる上にメリットがあまりない。

 右腕が使えないため多少の負傷は止む得ない、それに加え左腕も負傷すれば死ぬ可能性すらあり得る。

 メリットに関しては少なすぎる。商人との縁、というものも私にとってはそこまで欲しいものではない。


 現実的に考えれば間違いなく〝見捨てる〟という選択がまともな状況だ。

 過去の私なら間違いなくその選択を取っていただろう――だが。


「……私が突破口を開くので、その隙に逃げてください。追っ手はこのキャロル・ファーストの名において始末します」

「……キャロル、ファースト……? まさか南方の……!? …………ご武運を、騎士様」

「……ふふ、もう騎士じゃないんだけどなぁ」


 私は〝処刑者の剣〟を霞の構えに持つ。負傷した肩から血が溢れるがこの状況だ、胆力で無視する。その動作に盗賊も警戒を強める。

 そして今、戦闘は開始する――刹那に。


「〝そこの人、助太刀は必要ですか?〟」


 ――――化け物が、君臨した。

 とても気軽で穏やかなのに、その声に不思議と冷や汗が止まらない。

 見た目は華奢な少女であるというのに、その少女がとても大きい存在に見えてしまう。まるで神話の竜と対峙しているような圧力(プレッシャー)を感じる。


 彼女には戦乙女や勇者という称号は似合わない。

 傍にいるだけで分かる――この子はイカれている人間だ。

 人として大事なナニカが欠落している。そんな印象を抱けたのはこの場で第六感に長けた私ぐらいなものだろう――彼女は、ナニカがおかしい。


「は、はいッ! 助太刀が必要です。指示を!」


 だが気が付けば私は初めて会ったはずの少女に指示を求めていた。

 客観的に見れば異常な状況だと分かる。一種の催眠とすら言える現象が起きていた。


 何によって? 彼女の纏う異質な力?――違う。私は彼女に畏怖している。あろうことが自分を助けようとしてくれている彼女に恐怖してしまっている。

 それは本能だろうか。知性を宿した結果、野生の勘を失った人間だろうが彼女の前では関係ない。問答無用で〝こっちを見ろ〟と語り掛けてくるような幻覚まで見えた。


「分かりました。じゃあ現状を維持しつつ可能ならば攻勢に移ってください」


 次の瞬間、衝撃波が飛ぶ。それは彼女の攻撃だろう。魔力を込めた固めて飛ばしただけのもの。

 けれどそれは地面ごと盗賊を吹っ飛ばし、周囲に砂煙を立ち昇らせた。


「(凄い……じゃなくて護符解除しないと! こっちが丸見えになってる)」


 私はすぐさま〝護符〟を解除して布を口に当てる。砂煙を吸わないためだ。


「ギャアアアアああアアアアア」


 気が付けば目の前にいたリーダー格の男が悲鳴を上げていた。

 ガシャン、と何か重い金属塊が地面に落ちた音がする。同時に微かに漂う鉄の匂い――恐らくリーダーの男が持っていた大斧が()()()()斬り落とされたのだろう。

 彼女が砂埃が舞った瞬間に中心まで移動したのだろうか。


「――ザックス、首尾を報告してくれ」

「弓使い三名、全員戦闘不能しました」

「ご苦労様、上出来だ。時間は問わないから非戦闘員の避難を頼む」

「了解です」


 視界もまともに回復しない中、そんな会話が聞こえた。

 恐らく初めの指示はフェイク。少し考えてみれば盗賊の目の前で作戦を話すなど愚行にも程があるとすぐに分かることだ。

 状況が状況だったため、まともに思考できていなかった。


 そこから先は語るに及ばず、私の出る幕もなく戦闘はあっと言う間に終了していた。

◆◇◆

 戦闘を終了してフィリアは武器をしまう。そして未だに目の前で困惑している女性に挨拶をする。


「こんにちは。危ないところでしたね。治癒は必要でしょうか?」

「い、いえ。治癒魔法は得意ですので自分一人で……ええと、貴方は……?」


「申し遅れました。私はフィリア・リザリッド。西にあるリセシード王国の聖女です」

「……? 聖女……? 聖女……せーじょ、せいじお、せいじおう……?」


 キャロルは聖女、という単語の意味が理解できずひたすら繰り返す。そして――。


「……武神?」

「待て、なんでそうなった」


「覇王?」

「聖女」


「セイクリッド?」

「違う」


「私は?」

「初対面の人」


 キャルが困惑するのも無理はないだろう。聖女とは治癒や浄化、果ては慈愛という概念の極致とも呼べる役職の代表だ。

 一般的な聖女とフィリアは余りにも違い過ぎる。


「ゴホン、ええと。失礼しました。私はキャロル・ファースト。自分探しの旅をしています」


 そこから軽い会話を交わして、自然な流れで事後処理へと移る。


「(盗賊、か……捕まえたら近くの街の衛兵に引き渡すのが普通だと聞いたが……確か討伐報酬が出るんだったか)」


 フィリアは身体の一部を欠損させた盗賊らに目を向ける。そして彼女は脳裏で思考する――――こいつらをどうしようか、と。


「(【状況】捕まえた重傷者の盗賊がいる。

【目的】何かしらの対処を決める。

【手段】案1・近くの街に引き渡す方向性。

    案2・この場で殺して死体を持ってく方向性。

【結果】案1のデメリット:連れてくことの費用が掛かる。

             街に入る際、目立つ可能性がある。

        メリット:奴隷として引き渡して報酬を得る。

             だが四肢欠損により報酬は多く期待できない

    案2のデメリット:聖女として倫理的に面倒になるリスク。

        メリット:費用は必要なく、案1よりはマシ


【手段の再構築】案2の派生:ファーストさんに協力を求める。

            案3:全てを放棄し全権をファーストさんに渡す。

【結果】案2の派生のデメリット:ファーストさんに口止めが必要。

           メリット:聖女としての体裁が条件付きで守られる。

        案3のデメリット:特になし

            メリット――――――――――――)」


 その酷く現実的な思考回路はラプラスの後継者(レオンの子供)としての片鱗とも呼べるのだろう。

 場合によっては〝この場のいる全員の殺害〟という選択肢すら視野に入れているほどの現実主義(リアリズム)、その機械的な思考回路により、フィリアが最もメリットが多い選択を選ぶ。


「――私は仕事の一環として助太刀したまでですので、報酬はファーストさんに全て差し上げますよ」


 これが最良手である。特にフィリアが金銭面で困っているわけではない。それに聖女というのは偶像(アイドル)としての体裁を保つ必要がある。

 よってここは報酬(リスク)を全て放棄する、という選択が最も賢いものだろう。


「え……でも、そんな」

「――その代わり、一つ〝借り〟ということにして頂けないでしょうか?

 私は()()として旅する身です。次に会った時、私が困っていたら協力して頂けると助かります」

「……! はい、ではリザリッドさんが困っていたら全力で手助けをしましょう」


 聖女、という単語を強調したことで彼女も理解したのだろう。そこから先はとんとん拍子で事が進み。五分後には盗賊の持ち物を検めていた。


「(……この斧)」

「それはリーダーの男が所持していた大斧ですね」


 フィリアは戦闘開始前から斧に一番の警戒を示していた。


 本来、振り下ろすという使い方をする斧は対人戦においては不利な武器だ。

 だがその上で対人戦が前提となっている盗賊が持っている、という点にフィリアは違和感を抱いていた。


「(やっぱり……魔道具だったか。いや、武器の場合は魔道武具、というだったか)」


 盗賊が対人戦で不利な斧をあえて選んだ理由。それは実に単純――――この斧は普通の斧ではない。ということだったのだ。


「(他の連中も盗賊にしては装備が良いな……覚えておいた方がよさそうだ)」


 その後、事後処理も終わり友好的な雰囲気のまま二人は別れた。


「ザックス、お疲れ様。ほれ、水だ」

「ありがとうございます…………お嬢、あの盗賊について、調べますか?」


 フィリアは馬車の方角に歩きながらザックスと今後の行動についての話を進める。

 それは先ほど倒した盗賊についてだ。ザックスも盗賊について違和感を抱いていたのだろう。


「ああ、頼む。理由が第六感でもいいから危険を感じたら手を引いてくれて構わない」

「了解です」


 フィリアは振り返る。目的地である自由都市アトラスが悠然とそこにあった。

 女盗賊とか可愛い。短パンとニーソ履いてそう。


 私のような若輩者の作品を読んでくださり有難うございます。

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