二十一話、じゃ、ケッコンすっか! byサ〇ヤ人フィリア
ザックス・ガロウズという男がいた。
今でこそポチ、屑、下半身男、などと呼ばれている男だが彼の元を辿ればただの優し過ぎた少年ということになる。
虫一匹を殺すさえ怖くて出来ない優し過ぎた子供である。そう、彼は〝優し過ぎた〟のだ。
この世は綺麗なもので、誰もが夢を追いかけることができるのだと、本気で信じていた。
だからこそ夢を追いかけた少年は世界の現実に押し潰される。
彼には兄がいた。優しくてカッコイイ自慢の兄だったのだ。けれどある事件を境に兄とは離れ離れになってしまった。
そこから彼は公爵家に拾われる形で雇われることとなった。純粋な少年はハーヴェル家の先代当主に恩を返そうと真剣に働いていた。
その甲斐あってか、若くして先代当主の息子――――現当主ナルード・ハーヴェルの世話役にまで上り詰めていた。
ナルードは身分が低いザックスが父に信頼されているのが不愉快でたまらなかったのだ。
ゆえに事あるごとに嫌味や嫌がらせを繰り返した。次第にザックスの心は荒んでいった。
恩人である先代当主が過労死してから更にそれは加速する。ナルードの非道な違法行為である。
国の闇などを知らない純粋すぎた少年にとってそれは耐え難い現実だった。
いつしか無力な自分には彼女らを救えない。自分はなんて屑なんだ。と考えるようになり、やがて優しい少年は薄汚れた屑へと変わっていった。
◇
「今日から三日、よろしくお願いします」
「うんうん、三日と言わずに何日でも泊ってってね~」
冒険者らの襲撃があった翌日、フィリアはアメリアを実家に誘っていた。
「アメリアちゃん、少し見ない間に可愛くなったね~」
「(山羊の角を見てそう言える親父すげえよ……)」
アメリアの獣耳は可愛いだろう。垂れ耳ということもあって愛らしさを秘めている。だがレオンは角を見て可愛いと言っているため、フィリアは心の中でツッコミを入れた。
「お姉ちゃん……騎士の人に何も言わなくて良かったの?」
「それは問題ないよ、俺の方で言っておいたから」
当然、それは嘘である。フィリアは騎士に何も言わずに実家に来ていた。
現在、寮には騎士が控えている。しかしフィリアはそれを知った上でアメリアを実家に誘っているのだ。
その理由は大きく分けて二つ。
「(騎士は信用できないからな……)」
そう、昨夜は騎士がいるにも関わらず寮内に襲撃者が現れたのだ。
騎士が冒険者より弱かった、何か特殊な道具を使われた、権力で押し通した――――理由はいくらでも思い付くがどれも結果として騎士では襲撃者を止めることが出来ないということが分かったのだ。
「(さて、どんな罠を張るか……)」
もう一つの理由は襲撃されることを前提としているからである。寮で罠を設置すれば貴族やその子供が掛かり、面倒を招く可能性がある。
ゆえに罠を掛けても問題のない自室である。
自室のドアなどに仕掛けるため襲撃者以外の人間は身内か女性の部屋に入りたい冒険者ぐらいなものである。
罠には身内の魔力を感知し作動しないようにする道具も存在するため、安全対策も万全なのだ。
「フィーちゃん、泊っている間は何か予定とかあるの?」
「ん? あー、特には考えてないかな」
不意にレオンが質問をする。それに対して素直に返すフィリア。
フィリアの返答を聞き、レオンの瞳がキラーン、と光った気がした。
「なら二人に提案なんだけど、一日宿屋体験やってみない?」
「宿屋体験、ですか?」
アメリアは興味を持ったのかレオンに聞き返す。
フィリアは記憶が戻る前のことを朧気に覚えている。その中には宿屋の業務をせっせと行うものもあったが、一日宿屋体験などというものは一切なかったはずなのだ。
勿論、薄れた記憶の中にそうした情報が含まれていた可能性も否定できない。しかしレオンのニヤニヤ顔からフィリアは一日宿屋体験とは今考えたものだと確信に近い予想をしていた。
「うんうんっ、具体的には花よmゴホンゴホンっ! 料理や掃除、あとは洗濯とかの業務を体験できるイベントなんだ~」
聖リセシード王国は同性婚が認められている。
そしてレオンは『家族を守りたい』という感情以外に『家族の幸せな姿を見たい』というものも持っている。
以前からレオンは二人の様子である可能性を頭に浮かべていたのだ。これは友達を越えた関係なのではないか、というものである。
単純な話、レオンはこう先ほどからこんなことを考えているのだ。
――――アメリアちゃんとフィーちゃんのダブルウェディングドレスが見たい……!
「(花嫁修業~♪ 妻がいないから僕がすることになるけど、二人のためならお父さん頑張るぞ~)」
一日宿屋体験と言ったのはレオンなりの配慮である。
レオンには花嫁修業と言って照れる二人(片方は絶対照れない)を見たい気持ちもあったが、あえてそれを言わずに青春風景をみたいという欲望の方が強かったのだ。
「やることも無いし、俺は構わないよ。アメリアは?」
「お、お姉ちゃんがやるなら私もします!」
「お姉ちゃん、呼び……!?」
◇
料理、それは基本レシピに沿って作るものだ。けれどレシピを使わない場合はどうだろうか。
仮に『美味しければ何でもいいよ』という旦那の言葉を想定された花嫁修業を行った場合……それはどうなるのだろうか?
「ふむふむ……アメリアちゃんは魚の煮付けをメインにバランスよく出来てるね……煮付けを作る合間での作業は手際が良かったし満点でもいいぐらいだ」
アメリアには修業させる必要がない、そう判断をレオンは下す。対してフィリアは……
「Oh……ワイルド。娘、ワイルド……」
フィリアの料理は濃い目の肉野菜炒めをメインとして、肉、肉、そして肉を挟んだパンである。
悪くはない。決して悪くはない。だが野菜が若干不足して濃い目のものが多くなっていた。
「……美味しければ何でもいいとか絶対言わねえようにするわ」
「お……お父さんはフィーちゃんの成長が見れて嬉しいよ!」
◇
洗濯とは日本であれば洗濯機にいれて干すものだろう。他にやるべきことは畳む、仕舞う、などの整頓になるのだろうか。
この世界には洗濯機のような魔道具が既に少数だが存在し(ザックの実家より)、既に宿屋では導入していた。
「アメリアちゃんは……うん、完璧だ。お嬢様のはずなのに何故か何年もやり続けてきた熟練の技とすら思えるよ」
レオンはアメリアに洗濯関連の修業は必要ないと判断を下す。それほどまでに完璧だったのだ。まるで家事のプロに一から教わってきたかのようにすら思えるのだ。
そして――――。
「上手だよ、うん、フィーちゃんはちゃんと出来てるよ!」
フィリアもしっかりと出来ていた。一人暮らしにも全然困らないほどの技術があった。
しかしアメリアの精密な動きと比べるとやはり劣って見えてしまう。
「アメリア、やっぱり上手いな。嫁にしたい」
「え!? そ、その……不束者ですが、よろしくお願いします……?」
唐突なプロポーズが行われレオンは涙した。
「素直に他の子を褒めれる娘に育ってお父さんは嬉しいよ!」
◇
掃除とは様々な方法があるだろう。人によってはどこまで掃除するかは変わるものだし、ほとんど掃除しない人も中に入るだろう。
「アメリアちゃん……本当に凄いね。埃一つ落ちてない……式はいつですか? ――じゃなくて家で雇ってもいい?」
レオンは全てにおいて最早修業する必要は無いと判断を下す。公爵家のお嬢様であるため、家事などやったことないかと思えば熟練の技術を持っていたのだ。
「まさか掃除する箇所が無くなるとは……」
「ごめんなしゃい……」
「いやいや! 全然気にしないで、確かに場所は指定してなかったからね、うん、これは僕が悪い!」
そう、レオンは掃除する場所を特に指定しなかったのだ。ゆえにアメリアは全ての部屋を掃除してしまったのだ。
「大丈夫だよフィーちゃん! フィーちゃんも一通り家事できてたからね!」
時として優しさは人を傷付ける。けれどフィリアも一通り家事が出来ていたのは事実なのだ。花嫁修業も満点は行かずとも合格は出されるほどに。
ゆえにレオンは困ってしまったのだ。
家事はしっかり出来ている、しかし圧倒的な家事ガチ勢がいたため、どうしても劣ってしまう。
レオンは比べる気は毛頭ない、けれどフィリアが気にするかは別の問題なのだ。
「(やっぱり凄えな……前世でも献身的な子だったし、俺が男だったら結婚申し込んでるなぁ。でもアメリアは自分の体調とか無視するところがあるから気を付けないと……)」
だがフィリアの精神は男であり、そんなことは気にするどころか支えようとすら考えていた。
今フィリアが〝リセシードでは同性婚が認められてる〟と知れば即座に婚約指輪を買っていたところだろう。
「二人ともお疲れ様~。今日は助かったよ~、お小遣いをあげよう!」
契約書を交わして雇っているわけではないため、お給料と言えばアメリアは断るだろう。
レオンはアメリアの謙虚さをある程度理解していた。ゆえにお小遣いと称したのだ。
「私も楽しかったです。おにいさん、ありがとうございました」
「どういたしまして~。お義父さんの歳で義兄さんなんて呼んでくれるのはアメリアちゃんだけだよ~」
一日宿屋体験はこうして終了する。そしてこの日、二人を結婚させようとする勢力(メンバーは一人)が生まれたのだった。
シリアスなんて……初めから無かったんです。




