一話:ノンケ男に結婚エンドはキツすぎる。
私の小説を読んでいただきありがとうございます。とりあえず書き溜めは35話分(一章は完結済み)ありますのでご安心ください。
あとこの作品のストーリー構成はなろうの需要を完全に無視している作品です。どちらかというと公募向けみたいなストーリー構成ですので、移動時間に軽めの小説が読みたい!という方にはあまりオススメ出来ないかもしれません。
◆◇◆
――――貴方は、イケメンとS■X(自主規制)出来ますか?
皆さんは乙女ゲームというものをご存じだろうか? 主人公の女の子が魅力的なイケメンと困難を乗り越え、恋愛を行うゲームだ
ものによってはイケメンと結婚して終わるものも多いだろう。子供を作って国母となるシンデレラストーリーもある。
ここで突然だが世の男性に問い掛けたいことがある。
――――イケメンと交〇、出来るか?
勿論、TS娘至上主義者の方は出来るのだろう。知り合いにも『TSして触手に』などと言っている奴がいたので共感は出来ないがそういう人種もいると理解はしている。
なのでこの場合、ヒロイン至上主義、ノーマル、ゲイを超越した何か――――所謂〝ノンケ〟の男性に聞きたいのだ。
例えば、貴方が乙女ゲームの主人公(女)に転生したとする。
その世界でのEDでは結婚して子供が出来るものだとする。ヒロインもヒーローもプレイヤーも幸せな結末だ。
そんな結末をノンケ男性は受け入れることが出来るか?
――――否、全力で逃亡する。というのは俺の意見だ。
これが〝例えば〟の話ならどう答えたかは分からない。きっと余裕だ、などと冗談交じりに返答していたのだろう。
けれどこれは現実になってしまった。
そう、俺は乙女ゲームの主人公♀に転生してしまったのだ……
◇ ◇
剣と魔法が飛び交うフワフワなファンタジー世界を舞台として、世界を救う〝聖女〟その候補の一人に選ばれてしまった主人公。
主人公は貴族が通う王立魔道学園に特待生として入学をし、魅力的な四人の騎士と出会い物語が始まる――――これは世界と愛を天秤にかける物語だ。
と、言う文章がフィリアの持つ〝プラスチックのケース〟の裏側に書かれていた。表面を見れば四人イケメンと『終焉の聖女と救済の騎士』とい中二心を燻ぶられそうなタイトルが書かれていた。
ソフトケースは自室の机の上、窓は鍵がかかっており不審者が侵入したとは思えなかった。仮に侵入したとしても時刻は午後二時、不審者が逃げたなら騒ぐ人もいただろうし、こんな昼間に侵入者が現れるとは思えなかった。
「ええ……」
そのソフトケースを見た瞬間、彼女フィリア・リザリッドは頭に断片的な記憶が流れ込むのを感じた。
日本、乙女ゲーム、肉じゃが美味しい、様々な単語が脳裏を駆け巡り、気が付けばこんな言葉を発していた。
「――――乙女ゲームの……主人公に転生しちまった」
理解が出来なかった。いや、理解するのを頭が拒んだ。
以前、妹に『吾輩、彼氏できたからやる』押し付けられた乙女ゲームの世界に主人公として転生を果たす。
これだけならまだ何とか理解は出来た。しかし目の前にあるソレのせいで状況はカオスになっていた。
明らかにこの世界には存在しないモノなのだ。乙女ゲームに転生、という情報で思考がまとまらなくなっている状態での爆弾投下には流石に耐えきることが出来なかったのだ。
「(……なんでゲーム機がここにあるんだ)」
目の前にあるものは紛れもなくゲーム機、しかも乙女ゲーム(今いる世界)のソフトすらセットであると言うのならば理解不能になるのは当然の結果だろう。
「(いや、落ち着け俺。まずは情報を整理しよう。話はそれからだ)」
理解するにはまず情報を整理しよう、と結論付けフィリアは深呼吸を二三回行う。
ある程度の落ち着きを取り戻すことに成功したフィリアは机に向かいノートに情報をまとめる。
・前世(と思われる)記憶が〝断片的に〟流れてきた。
・この世界は乙女ゲームである。
・ゲーム機とゲームソフトが何故かある。
「(意味不明だな、こりゃ〝現実的に〟考えるだけ無駄か)」
情報を並べてみても何も分からない。ならこれ以上考えても結局は憶測の域を出ないだろう。ゆえにフィリアは諦めて、別の視点から状況を把握しようとした。
「(なら仮にこの部屋に誰にも気付かれずゲーム機を置いて去れる存在がいたとして、その意図はなんだ……?)」
フィリアの目の前には明らかに何者かの意図が絡んでるゲーム機とゲームソフトである。しかもゲームソフトに至ってはこの世界そのものでもある。
誰がやったのかは知らないが、これはそういうことなのだろう。
「(このゲーム機を起動して情報を集めろってことか……?)」
乙女ゲームは押し付けられたものであり、フィリア個人の所有物ではない。その上乙女ゲームにはあまり興味が湧かなかったため、プレイはしていなかった。
それを見越しているのかは知らないが、明らかにゲーム機がある理由はそれであろう。
フィリアは情報を集めるため、ゲーム機の電源ボタンを押した。
◇ ◇
私はフィリア・リザリッド、聖リセシード王国の王都に住んでいる十六歳の女の子。父は宿屋を経営していて、私もお手伝いに頑張っています。
毎日大変だけど、幸せな暮らしをしています。
『フィーちゃん、仕入れ行ってくるね~』
『ぱぱ、いってらっしゃーい』
食材の仕入れに向かう父を元気に送り出すと、私は掃除に入った。毎日の仕事、毎日の日課、毎日の幸せ。
平和だと感じられる毎日、この生活はずっと続いていくものだとこの時の私は思っていた。
『なあ知ってるか? 最近、魔物が活発化してるらしい』
『知ってる知ってる、村の被害がちょっとずつ増えてるって話だろう?』
『元剣聖の無才剣鬼も動いてるって聞いたぜ』
ある日の朝、宿のお客さんはそんなことを噂していた。
今、世界各地で見られている現象のことだ。魔物の行動が活発になり、世界各地の村で被害が増えているというものである。
中には温厚な魔物が人を襲うケースすらあると聞いた。この騒動はいつになったら収まるのか、私はそればかりを考えてしまう。
『フィーちゃんフィーちゃん、ちょっと下に降りてきてくれなーい?』
客室のシーツ替えを行っていると、父の呼ぶ声が聞こえた。すぐさまシーツ替えを終え、父の待つロビーへと向かう。
するとそこには父と鎧を身に纏った男性がいた。鎧に刻まれた紋章は国のものであり、すぐさま国の騎士さまだと悟ると駆け足気味に階段を下りる。
『君、名前は?』
騎士の男性は優しく語りかけてきた。ふんわりとした声のように聞こえたが、芯は力強いものだった。こちらを怯えさせないようにという配慮が含まれており、不思議な魅力すら感じた。
『フィリア・リザリッド、です』
『フィリアちゃんか、うん、神託通りだ』
名前を確認すると騎士の男性は満足そうに頷く。私は何が何だが分からず困惑をしていた。
そんな様子を察してか、騎士の男性は手を差し出した。
『君は聖女候補に選ばれた、王城にご同行願えないかな?』
それが私を運命に誘う始まりの言葉だった。
◇ ◇
「――――あれ? これ以上、進めない……?」
フィリアはゲーム機の不具合に焦りの声を出した。これからの生活に影響がでる重要なことであるため、この反応は至極当然のものだろう。
「まさか、これ以上先には進めないのか……?」
フィリアの持つゲーム機のボタンを何度か押して『進めない』という結論を出した。
プロローグの状態からどのボタンを押しても先に進めないのだ。メニューなどは出せは出来るものの、先に進むことだけは何故か出来ない。
「くッ、他に何か情報は無いのか……」
スタート画面を開いて上から項目を一つずつ見ていく。進めないなら別のことに目を向けて情報を集めたかったからだろう。
今は少しでも情報が欲しかったため、フィリアは焦りを隠せなかった。
しかしそんな焦りもすぐに解消されることになる。
「ギャラリー……?」
それはゲームの一シーンやキャラクターの設定をまとめた項目だった。ギャラリーを開いて解放されてるスチルを一つずつ見ていき、最後の絵に絶句した。
「こ、子供できとるやんけ……」
それはハッピーエンドのものだった。ハッピーエンドでは子供を愛おしそうに眺めているフィリア(清楚)がいた。
「……よし」
ハッピーエンドのスチルを見てとりあえずの目標が決まった、とフィリアは頷く。
「絶対に逃げ切ってやる……!」
――――こんなエンディング、認めてやるか。ふざけるな、冗談じゃない。俺はノンケだ。
様々な言葉が浮かんだものの、全てが一つの思想から直結していた。
それこそがフィリア・リザリッド(ノンケ)であるとでも言わんばかりに。俺の未来は俺が掴む、と決意を心に掲げ叫んだ。
「ハッピーエンドなんざ糞喰らえ、俺はノンケだッ!!」
TS娘? なんだそれは、知らぬ存ぜぬ、俺は俺。メス〇ちルートから逃げてみせると、今ここにフィリア・リザリッド(汚い)は目標を掲げた。
「フィーちゃんフィーちゃん、ちょっと下に降りてきてくれなーい?」
「おう親父! 今行くぜ!」
「親父!? フィーちゃん反抗期!? やべえ自殺するしかねえ!」
自室を出てロビーへ向かい敵と対峙する。
傷が少ない鎧を身に纏った男はゲームと同じように語り掛ける。
「君、名前は?」
フィリアは敵を補足した。赤いウルフショートの男は爽やかな笑みを浮かべてこちらを見ている。
警戒すら見せないウルフショートの男は隙だらけだ。目潰し、スネ蹴り、筋肉バ〇ター、色々な選択があるものの女の筋力では致命傷には至らない。足止めが出来れば上等だろう。
「フィリア・リザリッドだ、何の用だ男」
しかし逃げたところで生きる手段がないため、結局は無意味に終わるだろう。ならば今は力を蓄える時期だ。生きる手段が整い次第、逃亡を図るのが最も良い策だろう。
「フィリアちゃんか、うん、神託通りだ」
「おい貴様、フィリアちゃん、だと? 随分と馴れ馴れしいな小童」
「えっ、あ、その、すみませんリザリッドさん。今後は気を付けます」
ウルフショート男は困惑するとつい謝る癖があるのか、さん付けで呼び始めた。しかしすぐに自分の職務を思い出したのか咳払いをして爽やかな表情に戻った。
「あなたは聖女候補に選ばれました、どうか王城にご同行願えないでしょうか?」
「相分かった、支度をするので待ってもらえるか?」
「あ、はい。わかりやした」
王城に向かうのみなのだが、最低限の武装が欲しかったフィリアは部屋にある護身用ナイフを取りに戻る。
身を翻すと『ああ、そういえば』とフィリアは敵の名前を聞き忘れていたことを思い出す。
「聞いておきたいことがある。あなた、名前は?」
「名乗るのが遅れてたね、僕はマルクス。マルクス・ラグナード。騎士団長オルクスの実子さ」
「そうか、よろしくなマルクス」
――――敵の名はマルクス、よし覚えたぞ。
フィリアは部屋に向かい、準備を探した。
この時のフィリアは知らなかった。この世界の運命の力がどれだけ強力なのかを。
きっと軽く見ていたのだろう。好感度を溜めに行かなければ大丈夫、などと高を括っていたのだろう。だからこの言葉にも気付くことが出来なかった……
「ふっ、僕に溜口を聞くなんて……! おもしれー女」
【マルクス:好感度2】
この後フィリアは、難易度ベリーイージーという単語を心の底から憎むことになる。
この作品、乙女ゲーってタイトルにあるけど恋愛要素皆無だからぶっちゃけタイトル詐欺よなぁ……
評価を入れて頂けると幸いです。