7話『自分勝手な告白』
彼女は髪を切った。
「はい、これあげる」
「え? ごめん、ちょっとよくわからないんだけど……、……なにそれ?」
「髪の毛、いらない? いらないなら捨てるけど」
彼女はどうやら伸びてウザいと髪を切ってもらったらしい。確かに髪は長かったけど……。ゴミ箱の上で待機している束ねられた黒髪。ずしりと重たかった。「なんだか呪いの人形とか作るときに使えそうだね」、と彼女は冗談を言う。確かに彼女を感じる何かをずっと留めたいと思ったけど、そうじゃない気がする。やはり艶の少ない髪だ。けれどまだシャンプーの香りが新しい、微かに彼女の香りがある。
「どう? 似合ってる?」
「うん、似合ってる、とてもね」
「ほんと? 意外と軽くて気に入ってるんだぁ」
にへへと彼女は内側に緩く向いた毛先を手のひらに乗せながら照れ笑い。そんな顔をされるたびに僕の鼓動は早くなり苦しく締め付けられた。幸せな顔をするたびに生きてほしいと願ってしまう。吐き出さないとずっとつらい想い。
言ってはいけない言葉。数ある彼女を傷つける言葉の中で最も残酷な一言。
けれど、僕はこの想いを口にして伝えなければきっと、一生後悔する。伝えたら、後少しの時間を楽しく過ごせるようになるかもしれない……僕はつくづく自分勝手だ……。
体の力を抜いて、震える手をズボンに押し付けて。
「僕は……好きだよ」
「え? あ、髪型が? ……まって――」
「美里が、僕は美里が好きなんだ……」
心が熱く、すっと軽くなる。
きっとそうなのだ。だから死んでほしくないなんて無駄な願いをして、泣いてしまって、どうしようもなく苛ついて、悔しかった。好きだから。大切だから。死ぬなんてそもそも考えていなかった。何度も言われてようやく受け止めた。まだ受け止めきれないけど。
「ダメだよ、そういうこと言うの」
「なんで……なんで」
彼女は泣いていた。堰を切ってなき叫び。強く全力で彼女はいろいろな管を引っ張って、僕を抱き寄せた。耳が痛くなるほど大きな声で、ようやく泣いてくれた。いつも、僕が帰った後、彼女はひとりで泣いていた。僕が一緒に居て優しくして楽しさを与えるたびに彼女はますます生きたくなった。治療すらしないの出来ないのに、そんな感情を抱かせた僕が嫌いだと、彼女は泣きながら言葉の原型を崩しながらそう言った。
それから面会終了時間いっぱいまで抱き合ってお互いを確かめ合っていた。
始めて見せた姿に僕は、もう、残りがわずかだと。どうしようもない怒りと後悔を共に改めて強く抱いて、前を向いた。