アプリ 弟シリーズ3
非倫理的なため、R15作品です。
色々な調整で2週間かかったが、冬子は弟AIアプリを完成させた。
もともとスマホに入っていたAIと連携させることで、弟AIの言葉をそのままスマホのAIが話してくれるシステムだ。
容量を半分もっていかれたが、これで目的を果たせるなら満足だった。
冬子はスマホに向かい、弟AIに話しかける。
「ミキヒコ君。君のオリジナルの死因を特定しよう。」
冬子が探す死因とは転落死や脊椎損傷ではない。
幹彦が何故落ちたのか、誰かに落とされたのか。事故なのか。自殺なのか。自殺なら、なぜ自殺しなければならなかったのか。
そういう死因だ。
まずは弟AIに事情を聞いてみる。
脳が一部壊れていたとはいえ、本人を元にしているのだから知っている可能性は高いと考えた。
「ミキヒコ君。君はオリジナルの状況的な死因を教えてくれますか?他殺とか、自殺とか。」
「わかりません。」
「何故?」
「わかりません。」
何故答えないのだろう。
うまく連動できていないのだろうか。
「いま何時ですか。」
「10時11分です。」
「君のオリジナルはなんという名前ですか。」
「幹彦です。」
「君のオリジナルはコーヒーが好きですか。」
「はい、好きです。」
連動できている。
少なくとも、嗜好についての記憶はある。
冬子は答えられない理由を考えた。
一つ目は父がAIに何かの制限をかけている可能性がある。
二つ目はその記憶が脳内に保管される前に死んだか破壊された為にAIには記録がない。
三つ目は本人も理由がわからないうちに転落した。
一つ目だけは解決ができる。
父に聞けば良い。
父は今研究室に泊まりっぱなしだが、着替えがなくなるのでそろそろまた家にくる。
とりあえず今は外出して現場を確認しに行こう。
「あけましておめでとう!」
ミサキと城崎に道端で声をかけられた。
和服とジャケットスタイルのコンビとかけられた言葉を一瞬不思議に思い、今が正月であることを思い出す。
「あけましておめでとう、和服も似合うね。」
「でしょー。和服美人サイコーでしょー!」
あの後冬休みに入って、少し懸念していたミサキとの関係だが、全くいつも通りの様子だった。
「七尾もお参り?」
親指で背後の神社を指して城崎が問う。
冬子の目的地は全く違ったが、具体的に教えるわけにはいかない。
「冬休みの自由研究の最中なんだ。」
ショップが並ぶビルの隣にある駐車場。
その8階が事故現場だった。
過去に車が渋滞を起こすほど走っていた名残だが、今は移動は電車、モノレール、バスが主流だ。
世界的には環境変化による洪水、台風、熱波、寒波、内戦、戦乱、大規模テロ、電力不足による医療の停止、病気の蔓延で人が減っていた。
環境にやさしい水力発電施設や風力発電機やソーラーパネルが無残にも環境変化に伴う災害で壊されていく様子は、皮肉なものだった。
日本はもともと災害に慣れており、内戦も大規模なテロも起きなかったが、少子化で自然に人が減り残った人々の多くは都市部に移り住んでいる。
過疎地域は今では多くのコストがかかる上、社会的なサービスも受けづらく、余裕のある金持ちか土地に愛着がある人しか住んでいない。
車を持っていたとしてもわざわざ8階に停める人間はいないため、冬子以外に人影はなかった。
現場はここですよなんて親切な看板はないので、冬子はそれらしい場所を探す。
駐車場の端に事故を受けてか、2メートルほどの金網がつけられていた。
金網越しに下を見る。
コンクリートの打ちっぱなし。
ここから落ちれば8割がたの人間が即死するだろう。
裏通りに面しているため、通行人も少ない。
自殺でも他殺でも都合が良さそうだ。
写真を撮って、アプリを起動する。
「ミキヒコ君。この写真の場所は記録していますか?」
「はい。ここは駐車場です。」
「オリジナルはここで何かしましたか?」
「落ちました。」
冬子はスマホを見た。
このAI、事故当時の記録を持っているじゃないか。
「なんで、落ちたんですか?」
「答えられません。」
「なぜですか?」
「答えられません。」
「いや、ミキヒコ君記録持ってるよね?」
「答えられません。」
冬子は答えはそこにあるのに引き出せないもどかしさに歯噛みする。
これは機能を制限されていると考えるのが妥当か。
冬子はすぐに佐之助の勤務先の住所を検索した。
閲覧ありがとうございました。