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息抜きシリーズ  作者: 江菓
3/4

たい焼き

いい話を書きたかった…

学校からの帰り道にあるたい焼き屋。お金がある時気付けば足を止めている。お店に入ると褐色の肌に白いあごひげを付けた店主が笑顔で出迎えてくれる。

「おじさん、小倉と抹茶ひとつずつ。」

「おっ、久しぶりだな!小倉と抹茶で280円だ!」

財布を漁って280円を取り出し、店主の手に乗せる。

「ピッタリだな!じゃあ、6分待ってな!」

「はい。」

店内にある椅子に座る。窓からオレンジ色の日が差し込んでいた。ここに来るのは何週間ぶりだろうか。制服をきっちりと着て、カバンを持って、帰宅ラッシュの満員電車でもみくちゃにされ、重い足取りでふと気づくとこの店に来ている。ぼーっと窓の外を見ていると塀の上を歩く猫と目が合った。猫は真っ黒で目は綺麗な黄色だった。

『黒猫はね、餡子猫って言われてて大きな福をもたらしてくれるんだって!大福の元だったりするかな〜』

頭の中に笑顔で黒猫の頭を撫でながら話しかけてくれるさきが出てきた。

「さき…」

「小倉、抹茶のたい焼き!出来たぞ!」

「えっ、あっありがとうございます。」

「毎度あり!」

ガラガラと引き戸を開きたい焼き屋を出る。たい焼きの入った紙袋をカバンに入れ、疲れてクタクタの足を動かし、さきの元へ走った。

「さき…さき…さき…!!」


ウィーンと自動ドアが開く。そのままカウンターに突っ込むように走っていく。

「あ、あの!西倉さきの部屋はどこですか…!」

「西倉さんなら202号室ですよ。面会ですか?」

「はい!ありがとうございます。」

そう告げて、また走って202号室のさきの元へ走る。エレベーターには目もくれず、階段を駆け上がり、202号室の前に行く。一度息を整え、扉をノックする。返事はない。白い引き戸の扉についている取手に手をかけた。

中に入ると、白で統一された簡素な部屋のベッドにさきは横たわっていた。頭に包帯を巻き、深い眠りについていた。ベッドの隣にある棚には花瓶が置いてあり、色とりどりの花がバランスよくいけられている。ベッドの隣にある小さな椅子に腰掛けた。カバンを床に置き、たい焼きを取り出した。紙袋から、抹茶のたい焼きを取り出す。

「さき…さきの好きな小倉のたい焼き買ってきたよ。寝てるから一緒に食べれないのは残念だけど、冷めないうちに食べるね…」

いただきます。と小さく呟き、抹茶のたい焼きにかぶりつく。抹茶の味が口に広がる。パクパクと全部食べる。食べ終わるとさきに話しかけた。

「さき…今日ね、1ヶ月ぶりに学校に行ったんだ…勉強、なんにもわかんなくってすごく困ったよ…長期間学校は休んじゃダメだね!さきも早く学校行けるようにならないと追いつけなくなっちゃうよ!」

明るく話しかける。でも、返事はない。それもそうだ、相手は眠っている。返事なんて出来ない。

「さき…どうして…さきがこんなことに…」

さきの手を両手で包み込むように持ち、ぎゅっと握る。

「さき…さき…俺が…俺がこうなれば良かったのに…どうして…!さき…!」

さきは何も言わない。1ヶ月前の事故から目を覚まさず、ずっと眠っている。こうなる前のさきにあったのは事故の1週間前、一緒にたい焼きを食べに行ったのだ。久しぶりに話せてとても楽しかった。それから、何も変わらないと思った。思いたかった。さきはその1週間後に飲酒運転の車に跳ねられた。それから意識不明でずっと眠っている。さきがそうなってから僕は全てがどうでも良くなった。幼なじみで優しいさき。いつの頃かそんなさきに恋をしていた。高校も同じところへ入り、たまに話すくらいだったがそれでも良かった。さきがこうなってからは毎日学校にも行かず、ずっと病院で出来ることはなんでもした。

「さき…好きだって君に伝えたい…頑張って…目を覚まして欲しい…神様…お願いします…さきを…俺の命と引き換えにでも…助けて…」

涙が頬を流れ、さきの手に落ちる。

たい焼きは徐々に冷めてゆく。

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