使えないスキルで最強冒険者になる
小さい頃から俺はいじめられていた。理由は簡単だ。生まれつき持っているスキルがクソみたいに使えないからだ。
「母さん。」
「どうしたの?」
晩御飯のシチューを口に運びながら前に座っている母さんに話しかける。わざわざ手を止めて聞く体制に入ってくれる。
「スキルって遺伝するんだよな?」
「そうよ。学校でも習うでしょ?」
「習ったよ。母さんのスキルは魔力増強だろ?」
「そうよ。魔力を1日1度だけ最大値まで回復できる。」
「父さんは植物成長だろ?」
「そうね。植物を成長させることが出来る。」
「兄さんは植物魔力化だろ?」
「そうね。魔力を植物で回復出来るわ。」
「じゃあなんで俺のスキルは全く関係ない料理化なんだ?」
「それは…わからない…けど、きっといいスキルよ…」
「料理化ってなんだよ!ふざけてるじゃん!」
「そんなことないよ!」
「女ならまだしも俺は男だ!料理化ってどこで使うんだよ…」
「...」
「もういい。明日ここを出ていく。」
「えっ?ちょっと待って!どうして?」
「こんな所にいたらいつまでも同級生に馬鹿にされる。町に行って冒険者になってやる。冒険者になってここのヤツらを見返すんだ!」
「冒険者って…そんな危ない仕事…あなたのスキルじゃ無理よ!」
「俺のスキルじゃ無理なのはわかってる。だから今まで勉強も運動も頑張ったんだ!みんながスキルレベルをあげてる時俺はわざわざ授業をサボって森でモンスターを倒して基礎体力レベルあげたんだ。」
「でも…」
「兄さんも父さんも冒険者なのに俺だけ冒険者じゃないなんて嫌だ。」
そう言って、食べ終わったシチューのお皿を台所に置いて自室に行った。
自室に入り、ベッドに座る。机の上に置いてあるリュックには明日から町に向かうための準備がしてある。リュックの隣には愛用の木刀。村の人、特に同級生に見つからないように早朝に村を出る予定だ。リュックの中身をもう一度確認して眠りについた。
ー次の日ー
日が少しだけ頭を出している時間にリュックを背負い部屋を出る。ダイニングテーブルに風呂敷に包まれたお弁当があった。お弁当の上にはメモがあり母さんの字で『頑張ってね。たまには帰ってきてね…行ってらっしゃい!』と書いてあった。母さんの部屋を除くとスースーと寝息を立てていた。多分俺より早く起きて作ってまた寝たんだろう。小声で「ありがとう。行ってきます。」と呟き、お弁当をリュックに入れ、家を出た。
村の門につくと後ろから声をかけられた。
「リュウ!」
「カラ?どうして…?」
「おばさんがリュウが出ていくって言うから…」
「母さん…」
「リュウ!私も連れて行って!」
「えっ!?で、でも…」
「私のスキルは知ってるでしょ!きっとリュウの役に立つから!」
「カラのスキルは誰の役にも立つだろ?俺みたいな無能スキルについて来るよりもっと強いスキル持ちと一緒の方が絶対いい。」
「私は…リュウと一緒がいいの!」
「どうしてそこまで…?」
「気付いてよ…リュウの鈍感!」
「えぇ…」
「私はリュウが好きなの!好きな人と一緒がいいの!だから…連れて行って…お願い…」
「…気持ちは嬉しいよ。俺も昔からカラが好きだ。」
「じゃあ!」
「でも、好きな人を自分のせいで危険にさらすのは嫌だ。だから、俺が強くなったら迎えに行く。それまで待っていてくれ。頼む。」
「…わかった。じゃあこれを持って行って!」
そう言ってカラは自分のつけていた首飾りをリュウの首にかけた。青い石のついた綺麗な首飾りだ。
「これは…カラが大事にしてる首飾りじゃないか…いいのか…?」
「これはおばあちゃんがくれた物でね…私の家系のスキルはずっと身につけている物にスキルがうつることがあるの。こういうのはほんとに大切な人にしか渡しちゃだめなんだ…」
「ありがとう。大事にする。」
カラに別れを告げると門の外へ歩き出した。
町を目指して森の中の道を歩いていると、道の先から悲鳴が聞こえた。走ってそちらへ行くと壊れた荷馬車を襲う大きな角が額から生えた2メートルほどあるクマがいた。荷馬車を引いていたであろう馬はクマに引っかかれたのかお尻辺りから血が出ている。荷馬車の持ち主らしき男は腰を抜かして動けないでいた。思わず足が動き、クマの前に木刀を構え立った。クマは怯むことなく大きな角をリュウに向けて突っ込んできた。リュウも怯むことなくクマに立ち向かう。
「グワァァァアァアァア!!!」
「オラァ!」
クマが突っ込んできたのをひらりと交わし、クマの足を木刀で叩く。よし!そう思ったが次の瞬間、クマの足の鋭い爪がリュウの腕を引っ掻き、木刀を落としてしまった。
「くそ…木刀がないと何も武器が…」
「グルルルル…」
クマは木刀で叩かれ痛めた足を気遣いつつももう一度リュウに攻撃しようと体勢を整える。
「あんた!スキルを使いな!」
横から木に隠れていた荷馬車の男にそう言われた。
「スキル…レベル1だが使うしかない…!」
決心を決め、向かってくるクマに引っかかれていない方の手を向けた。
「料理化!!!」
そう叫ぶとクマは白い泡に包まれ、次に出てきた時には肉、皮、瓶に詰まった血になり、土の上にころりと転がった。近付き、拾う。
「これは…素材…?」
「兄ちゃん!ありがとよ!」
「えっあっ大事ですか?」
「おう!大丈夫だ!」
木の後ろに隠れていた小太りのおじさんが出てきた。
「でも、荷馬車が…馬まで…」
「あー大丈夫だよ!道具でなおせる!」
そう言いながらおじさんは荷物の中からピンク色の液体が入った小瓶と修理道具を取り出した。ピンク色の液体を馬の怪我しているところへかけると、馬の怪我はみるみるうちに治った。
「凄い…!こんな早く治るなんて!」
「これはちょっと高いんだが、こういう時のために常に5本は持っておいた方がいいぜ!」
「なるほど…」
「兄ちゃんの腕は大丈夫か?」
「あっ、そう言えば!」
痛みがなく忘れていた腕の傷を見るとまるで元々何も無かったかのようにきれいさっぱり傷が消えていた。
「これは…カラのスキル…」
「はぇ〜!凄いな兄ちゃん!あっ、そうだ!兄ちゃん、取引しないか?」
「えっ?いいですけど?」
「さっきのホーンベアの素材を買わせて欲しい。金はそうだな…ホーンベアの素材はそうそう手に入らないから白銀貨3枚でどうだ?」
「えっ!?白銀貨3枚!?」
白銀貨3枚(約3万円)あれば装備1式揃うし、食料もある程度買える。
「わかりました!」
「よーし!」
おじさんはリュウに白銀貨を3枚渡し、リュウはおじさんにホーンベアの肉、皮、瓶に詰まった血を渡した。
「ありがとよ兄ちゃん!」
「はい!お気おつけて!」
「おう!」
おじさんに別れを告げ、また歩き出した。
「そう言えば…このスキルレベルあげればどうなるんだろ…」
そう思い、少し道をそれて草むらに入る。
「お、いたいた。」
そこには赤い兎がいた。レッドラビットだ。レッドラビットは火属性の兎で肉は絶品だ。皮は火属性耐性がついている。
「料理化!」
レッドラビットに手を向けそう叫ぶとレッドラビットはホーンベアの時のように白い泡に包まれ肉と皮、瓶に詰まった血になった。その時頭の中にアナウンスが鳴った。
『スキルレベルが2に上がりました。スキルを使った時に素材が今より少し多く手に入ります。レベル10でレシピが出てきます。レベル50で肉が調理され、でてきます。レベル80で素材とその素材に合う調味料が出てきます。レベル99になると完全に調理された状態で出てきます。』
そう告げるとアナウンスは聞こえなくなった。
「スキルレベルがあがると声が聞こえるとは知ってたけどこんな感じなんだ…」
道に戻り、独り言をブツブツと呟く。
「とりあえず、このスキルを使えば素材が簡単に手に入って素材を売れるからお金には困らないかな…」
この話は使えないスキルだったはずの料理化を使って最強冒険者になり、大切な人を迎えに行くという主人公リュウのお話…