第6話 邂逅
「いや~久々の休みだな、美味い物食いに行こうぜ」
「良いね~」
今日は竜騎士候補生の休日、週に1日の訓練の無い日。竜騎士候補生は日頃の厳しい訓練から開放されて街にやって来ていた。と言っても実家が王都に有る竜騎士団長の息子のジョナサンと実家が貴族のミラーは実家に帰って居るのでここに居るのは平民上がりのソルトとレイン、そしてシュガーの3人で有る。
「ソルトは何食べたいんだ?」
「甘いもの、宿舎じゃ肉ばかりで甘いもの全然出ないもの」
「そう言えば、肉ばかり出るよな。それも硬い肉」
「肉を食べると攻撃的になるんだ、だから兵士の食事は肉が多めなんだよ」
「「マジか~、そんな理由が有ったのか。でもシュガーが言うと嘘臭いな」」
「アハハハ~」
日頃の行いのせいか、生まれつきの人徳の無さなのかシュガーは仲間に信用されていなかった。勿論仲間もシュガーのサバイバル能力の高さと、戦闘力には信頼を置いてるのだが事学業においてはシュガーは壊滅的な成績だったのだ。
「服も欲しいわね、もう直ぐ寒くなるわ。コートか何か無いと寒いわよね」
「それもそうだな、手袋なんか貰えるけど。軍用だから丈夫なだけで暖かく無いしな」
「僕は丈夫な大工道具が欲しいな、軍用のナイフは小さいからね」
「大工道具で何するつもりだよ? 軍用ナイフで十分だろ刃渡り20cmだぞ」
「木が切れる道具が欲しいな、サバイバルで役に立つんだ」
「そう言えば、サバイバルの時に木を切るのには苦労したな」
「今度はサバイバルでもログハウスを造れる様に頑張るよ」
「「お・おう・・・・・・」」
彼等は衣食住すべてタダ、だから毎月の給料は全部自分の小遣いだった。週に1度しかない休みの日に好きなものを食べて、好きなものを買うお金は十分に持っていたのだ。彼等の給料は一般の兵士と同額、節約すれば3人家族が暮らせる程の給金を貰っていたのだ。
そして3人で街をブラブラ歩いている時にその事は起こってしまった。
「キャ~!!!!」
「「「何だ!?」」」
繁華街を歩いている時に女性の悲鳴が聞こえた、彼等竜騎士は正義感が強い。国を守る仕事に就くうえに、龍を得れば騎士になる人間だから。
「助けに行くぞ!!」
「「おう!」」
3人が悲鳴の方向へ走って行くと屋台が多数出ている広場の様な所に着いた。そして辺りを見回して見ると一人の女性にチャライ男3人が言い寄っている所を発見した。
「あれは従者候補生じゃないか? あの制服には見覚えが有る」
「あのメイド服は多分候補生だわ、スカートが普通のメイド服より短いもの」
「従者候補生って何?」
竜騎士候補生は普通は従者候補生を非常に意識している、彼女や彼等は将来自分の従者になる人間だからだ。だから普通は情報収集をして候補生同士で情報交換したり、合コンをして仲良くなったりしているのだった。だがシュガーは自分の従者になるかも知れない候補生について何も知らない様だった、唯我独尊のシュガーらしいと言えばらしいのだが、そもそもシュガーは世の中の事に関心が無いのだった。
「このアマ大人しくしろ!」
「ギャアギャア喚くな!」
「キャ~! みなさ~ん、超絶美人のコアが襲われてマス~! 腕に自身の有る人は助けて下さ~い!」
確かに女性が襲われているのだが、襲われている女性はかなり余裕が有る様で、3人の男の腕を軽々と掻い潜りヒラヒラと身を躱していた。
「大丈夫そうだな、余裕で男3人をあしらってるぞ、あの候補生」
「そう言えば従者候補生って私達並みに強いのよね、あの程度の連中なら楽勝でしょうね」
「え~、そうかな。悲鳴を上げて逃げてるよ。助けた方が良いんじゃ無いかな?」
「きゃあ~!! 襲われる~! 犯される~!! 超絶美人の幼気な少女のピンチですよ~!!」
「うるせ~!! このあま、ちょろちょろ逃げやがって!」
「クソ~! 全然追いつけね~。この女足が早すぎ!」
「待ちやがれ! クソ女!」
襲われている割に余裕の有る候補生は、こちらをチラチラ見ながら大声を上げていたのだが。こちらの動きが無いことを確認するとこちらの方向へと凄い勢いで走って来た。
「助けて下さい、竜騎士候補生様! 超絶美人候補生のピンチですわ!」
「うん、良いよ」
「「うへ~、なんか胡散臭え~」」
「クソ餓鬼共! 殺る気か!」
シュガーが美少女をかばう様に前に出ると、チャラ男3人が殴り掛かってきた。コアがチョロチョロと逃げ回るのと、大声で喚くので頭に血が上って居る様だった。彼等が幾らバカでも竜騎士候補生に普段なら喧嘩を売ったりしない、竜騎士が強いことは龍の帝国の民なら皆知っているのだ。
そして勝負は一瞬でついた、勿論シュガーの圧勝である。戦闘教官を秒殺する程の強者のシュガーに平民のチャラ男3人が勝てるハズは無い、3人とも腹を抑えて血反吐を吐いて地面を転げまわっていた。
「竜騎士候補生様、有難うございました。超絶美人の私の危機を救って頂きまして、私怖かったですわ!」
「もう大丈夫、悪は倒したよ」
「つきましては、お礼に私があなた様の従者になりますね、宜しくお願いします。私コアと申します」
「そうなの? 宜しく、僕シュガー」
「「え~!! そんな簡単に従者を決めて良いのかよ! シュガー」」
「僕は別に良いよ」
「「え~!! でも・・・・・・」」
シュガーの友人である2人はシュガーの軽率な行動と、コアの胡散臭さを警戒したのだが。その時の物凄い殺気をはらんだコアの眼光を見て口を閉じた。反対するとコアに殺されると思ったのだ、彼女の強さは分からないが、殺気の質は2人を怯えさせるに十分なものを持っていた。
「さてシュガー様、お礼にお昼をご馳走しますわ。良い店を知っているんですの」
「え~嬉しいな、僕は何でも食べるから何処でも良いよ」
こうしてシュガーはコアに連れ去られてしまった、2人は怖くてシュガー達に着いて行けなかったのだ。そして何となくシュガーとコアは仲良くなった。この後、事あるごとにコアがシュガーを誘って街の中を一緒に歩く姿が見られる様になった。シュガー以外の男には無表情で怖い感じのコアだが、シュガー相手の時だけは嬉しそうな顔をするのだった。そんなわけでシュガーはコアが自分の従者になると自然に思っていた。そして既成事実を積み上げられコアとシュガーがカップルに成る事は周りも当然と思い始めたのだった、つまりコアの作戦勝ちである。