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真面目少女の秘密  作者: momo
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プロローグ


目が隠れるほどに長い前髪。縁が太い黒眼鏡。肩まである前下がりの髪を後ろで結んだ小さいポニーテイル。休憩時間は本を読んで過ごしている。その姿は正に「真面目」だ。名門の金持ち学校、貴城学園に特待生で入学できただけあってテストで学年5位以下になったことは無い。見た目に反して運動神経も良く美的センスも目を瞠るものがあり、あらゆ部から勧誘されているという。そんな文武両道の優等生、篠谷有紗には秘密がある。



「有紗さん、今日こそはご一緒にお茶しましょう?」


 そう声をかけてきたのは明らかに内部生のお嬢様だった。あまり関わることのない庶民が気になるのか時々こうしてお茶会とやらに誘ってくる。


「ご、ごめんなさ…じゃなくて、申し訳ございませんっ!えーと、その、今日も母が帰るのが遅くなるので、私がご飯作らなくちゃいけないので…」


 ここは期待に応えて『雲の上の存在であるご令嬢に急に声をかけられて焦る気弱な庶民』らしく振舞ってやろう。


「そう、母子家庭って大変なのね。引き留めてごめんなさい」


 ほら哀れんだ。別に大変なわけではない。ただ母が仕事大好き人間なだけだ。まあ、そうは分かっていても親孝行して少しでも負担を減らしたいとは思っているからこの学校に来たのだ。猫を100匹ぐらい被って。


「お、お気遣いありがとうございます。毎回誘ってくださっているのに申し訳ありません。では、失礼させていただきます。」


 にこりと微笑み一礼してその場を去る。



—あぁ、早く家に帰らなくちゃ。もう、限界!


ガチャ、家の鍵を開けて中に入る。扉が閉まるのを確認してから口を開く。


「クソが、めんどいから話しかけんじゃねえよ!悪いと思うなら二度と話しかけてくんなよ!…はぁ~。マジで学校行きたくねえ」


 近所迷惑にならない程度の声で愚痴りながら階段を上り自分の部屋に向かう。


「てゆうか、うなじスースーするし前髪が邪魔すぎるだろ。まあ、ダテメだってバレないのはいいがよー」


 独り言をこぼしながら髪をほどく。そして前髪をあげてピンで留め、眼鏡をはずす。


「こっちのが落ち着くわ。けどやっぱこの制服はねえな」


 全身が映る鏡の前に立つ。前髪で隠れていた目は少しツリ目で鼻立ちもしっかりしている。…気が弱そうとは言えない、逆に正反対な気が強そうな顔立ちだった。まあ、本当は性格もそうなのだが。そんな顔立ちに髪型も変えたら、お嬢様が着るようなワンピース型の白い制服は全く持って似合わない。いや、逆にそのアンバランスが…ないな。悪役令嬢って感じだし。中身は上品やのかけらもないが。


「やっぱ服はこっちだな」


 男物の制服を手に取り呟く。これは数年前に高校を卒業した従兄のお古だ。いらないと言っていたのでブレザーを一式をもらった。そして慣れた手つきでカッターシャツとブレザーのズボンをはく。凛々しい顔立ちも相まって中性的な男子中学生に見える。


「よし、一週間ぶりにでるか!」


 この一週間はテストがあったから勉強していてずっと家だったから、正直ストレスが溜まっていた。多分あと一日続いたらキレていただろう。


 そんなことを考えながら家を出る。そうして歩いてると前から小学生の集団がやってきた。


「お!あっちゃんだ~!テスト終わったの?久しぶりに遊ぼうぜ!」


 こちらに気付いた一人の少年が駆け寄ると続けて皆が集まる。1年生から6年生まで仲が良い。


「おう。てめーらも元気にしてたか。わりぃ。今日はこれから食材の買い出し~」


 周りにやってくる子供たちの頭をなでながら言う。そのうちの一人がニコニコしながら言う。


「あっちゃんって、じしょう不良なんでしょ?本当の不良は怖いってお母さんが言ってたの!」


 おっと、これは聞き捨てならん。


「俺は本当の不良だぞー、悪いことしてるやつらや喧嘩を売ってくる奴らには容赦ねえからな」


「けど自分からは手を出さないんでしょう?しかもテスト勉強キチンとするって。ぷぷぷ」


「そうだよ!見た目が怖いあっちゃんのおかげでよその不良はこないし、あっちゃんは面倒見がいいからって母さんほめてたぞ!」


「そんなのどうでもいいんだよ!俺は不良。お前らは子分。俺がしちゃいけないって言ったことはしない!おーけー?」


 皆を見て声をかけると「はーい」と返事が返ってくる。その返事に満足して「よし!」と頷く。


「じゃあ買い出し途中だからじゃあな。お前らきちんと宿題してから遊ぶんだぞ!」


 そう一言声をかけてからまた歩き出す。



 私はこの町で不良をやっている。まあ、近所のガキの相手をしたりよそから来た不良を追い返したりしてるうちに、近所の人から感謝されるようになったが。ちなみに、中学まではスカートで『私』だったが、学校にバレちゃいけないしズボンのほうが動きやすいから男物の服を着て『俺』というようにした。それに皆が大抵『あっちゃん』と呼ぶから知らない奴には男だと思われている。それに近所の奴らには遠い学校に行っているとしか言っていない。だから誰も知らない。名門校、貴城学園に通っている特待生の真面目な少女と、地域のガキどもをまとめ上げている男装の不良が同一人物だとは。



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