SSまとめ
以前活動報告に掲載していた「お団子」がテーマのSS3本と、紫白と椿のSS1本の計4本をまとめたものです。
※本編の時間軸とは一切関係ありません。ふんわりとお読みください。
☆紫白とお団子☆
「椿~。あ、いた!お団子頂いたんですよ。一緒に食べましょう」
遠くから紫白の声が近づいてきて、部屋の前で止まる。
すぱんと障子が開き、笑顔の紫白が見えた。
「うん。いいよー。だれからいただいたの?」
「近所の女の人ですよ」
私の質問に紫白は、何故そんなことを気にするのかと不思議そうに返した。
(あー、やっぱり……)
この狐は自分が美形で、人、特に異性から好意を向けられやすいことを理解していない。
「でも、そのひと、しはくにたべてほしくて、わたしてきたんでしょ? わたしがたべないほうがいいんじゃないかな」
そう言うと、紫白は首を傾げた。
「彼女は僕に食べて欲しいとしか言っていませんよ? 僕が誰とどう食べようが、関係ないじゃないですか」
「うーん、それはそうなんだけどね」
なんだか、相手の女性が可哀想になる。
「ほら、早く食べましょう。団子は出来立てが美味しいんです」
紫白は手早くお茶をいれると、私をちゃぶ台へ促した。
まあ、良いか。
少し気は引けるが、紫白が嬉しそうなので良しとする。
「じゃあ、たべよっか」
「はい!」
にこにこする紫白と共に食べる団子は、甘くて少しほろ苦かった。
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☆福兵衛とお団子☆
「椿ちゃんや、ちょっとおいで」
呼び止められて、不思議に思いながら福兵衛の元へ行く。
福兵衛の持つ手荷物から、甘い匂いがした。
ぱっと顔を輝かせる。
ちょうど、甘味が欲しかったところだ。
福兵衛は、そんな私の様子を見て、朗らかに笑う。
「はっはっは、最近流行りの団子屋の団子だぞ。御手洗と餡子があるから、好きな方を食べなさい」
「やった!ありがとう、福さん。じゃあ、あんこをください!」
「嗚呼、分かったよ」
福兵衛は私に餡子の団子の包みを渡すと、台所へお茶を入れに席を立った。
(まだかな)
待ちきれず、そわそわする。
しばらくすると、福兵衛が戻ってきた。
「待たせたな。 そら、お茶だ。さあ、食べようか」
福兵衛は2人分のお茶を机に置いて、自分の分の団子を取り出す。
「「いただきます」」
2人手を合わせてから、団子を頬張る。
そんな穏やかな午後だった。
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☆忍とお団子☆
「おなか空いたっすねー。ごっはっん、ごっはっん~♪ もしくは、おやつでも良いっす~♪」
忍は歌を口ずさみながら、軽やかな足取りで廊下を歩き、台所へ向かう。
冷蔵庫を開けて何かを発見すると、上機嫌でそれを口に含み、その場を立ち去った。
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「しのぶくん、ちょっとそこにせいざしてくれる?」
私は怒っていた。
「えー、どうしてっすか?」
「いいから、すわれ」
私は凄く怒っていた。
有無を言わせず、忍を床に正座させる。
そして、机の上に団子を包んでいたであろう笹の葉と団子に刺さっていたはずの串を並べた。
「ここにあるものに、なにかこころあたりはない?」
「あー……、いや? ないっすね、まったくもって」
目を泳がせる忍を見て、確信する。
私の団子を食べたのはこいつで間違いない。
「ふーん……? これは、まいにちげんてい30ぽん。ならばないと、まずかえないまぼろしのみたらしだんごの、つつみとくしだよ。ほっぺたがとろけるくらいおいしいんだって。わたしもたべたかったなぁ……」
「へえ、そんなに美味しい団子があるんすね。オイラも食べたいなあ。じゃあ、オイラ、丸薬を作らないと行けないので、これで失礼するっす」
立ち上がろうとする忍を呼び止める。
「ところで、くちのまわりについてるたれは、どうしたの?」
「え、やっべ……!」
忍は慌てて口元を拭い始めた。
「うそだよ。やっぱり、しのぶくんがはんにんだったのね。きょうというきょうはぜったいゆるさないんだから!! おもてへでなさい!」
「ごめん、もうしないっす! 許してください!」
「そのことばは、もう、なんかいもきいた! ぜんぜんはんせいしてないっ!」
「反省してるっす~! だから、水の的にはしないで下さい。あれ、冷たいんすよ~」
逃げ出す忍と、捕まえようとする私。
こうして、今日もドタバタと1日が過ぎていく。
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☆診断メーカーさんに出されて、面白かったお題です。お題の内容は最後に記載。
つつ、と身体のラインに沿って指を這わせれば、紫白が熱を帯びた吐息を漏らす。
「っん、……はぁ……っ」
それに気を良くし、くすぐるように耳裏を撫でれば、あられもない悲鳴が室内にこだました。
「つ、椿! それ以上は……っ」
「……ダメ?」
上目遣いに訊ねると、紫白は言葉を詰まらせる。
私は紫白の意見を封じ、再び彼の身体に手を伸ばした。
「あ、ちょっ、椿! そこは、その……本当に敏感なところなんです……っ!! 前にも言いましたけれどもっ!」
そうは言われても、紫白から生える滑らかな手触りの狐耳、そして魅惑のふさふさ尻尾の誘惑には耐えがたいものがある。
「ごめんなさい。でも、紫白が悪いんだよ……だって、こんなに私を誘惑するんだものっ!!」
「ひあぁっ!? 毛並みのことになると人変わりすぎですよ、貴女!!」
「はぁ……。本当に、いつ触ってもふわふわのもふもふ。最っ高……って、ん? これは……」
尻尾に頬擦りしていると、見慣れない毛の塊に気がつく。一部の毛が浮いているようだ。
そっとつまみ上げてやれば、やや硬質な短毛が束になって抜けた。
ーー間違いない。これは、抜け毛。
そういえば今は季節の変わり目だ。つまりこれは、俗にいう換毛期。
私はゆらりと姿勢を正し、紫白の毛並みを舐めるように眺めた。
ああ、あちらにもこちらにも今にも抜けそうな毛の塊が。人型獣耳形態時でこれなら、獣型時の毛はどうなっているのだろうか。
紫白は不審な気配を察知したのか、腰を浮かせながらこちらを伺っている。
「……紫白」
「は、はいっ!」
「あなた最近忙しいからって、毛の手入れ適当にやってたでしょ。今すぐ狐型になって。グルーミングをはじめます!」
「はい……って、えっ!? ぐるーみんぐ?」
聞き慣れない外来語と私の勢いに目を白黒させる紫白を横目に、変化しないなら見えるとこから片付けようと、目の前の毛を掴む。
軽く引っ張るだけで、浮き上がった毛はどんどん持ち主から離れていく。
これは予想以上に癖になりそうだ……。
「つばき、椿っ、なんか目が怖いですよ!? 後、むしっちゃ嫌です。せめて櫛を……あっ、ハゲる。そんなに引っ張ったらハゲちゃいます! やっ、やめて下さいーーイヤァァァ!!!」
狐の悲鳴は甲高く秋の夜長にこだまして、後には生気の抜けた狐と、抜け毛の山を見て満足気な笑みを浮かべる少女が残ったとか。
☆お題☆
椿と紫白の『ハゲるからやめて』という台詞を使った「ムーディーな場面」を作ってみましょう。




