第五十一話「暴露話」
「————かくして、天狐の背に乗った女神の尽力により、都は大火の難を逃れ、古今東西続く平和な日常を取り戻したのであった」
終幕を告げる甲高い木の音が打ち鳴らされ、仲睦まじ気な天狐と女神の姿を背景に目の前の舞台の幕が引く。
周囲の観客から、盛大な拍手喝采が飛び交う。
私はそれに気恥ずかしさを感じながらも、溢れんばかりの心からの拍手を送ったのだった。
人の掃けた舞台袖で、花束を片手に件の人気役者を待つ。少しして、慌てたような足取りで待ち人がやって来た。
「音次郎くん、男役の初主演おめでとう。すごくかっこよかったよ。ね、福さん!」
「そうだな、現実味のある舞台だったぞ。努力が報われたようでよかった」
音次郎ははにかみ笑いを浮かべながら感謝を述べ、花束を受け取る。
「ははっ、現実味があるって……それはそうですよ。だってモデルを知ってるんだから。それに、脚本の出来が素晴らしいんです。『これで失敗したら、それは演者が大根役者だったてことになるな』って、座長も言ってました」
「いやいや、こうまで歓声を浴びたのは、人の心に届く演技をしたお前たちが素晴らしいからさ。なあ、椿ちゃん?」
「うん、音次郎くんだけじゃない、一座の人たち本当にすごかったよ。女神役の人なんて、すっごい色気だったし……。ただね、モデルとしては、正直いたたまれない……」
そう、察しの良い方はお分かりだと思うが、この演目に出てくる天狐と女神のモデルは紫白と私である。
山神を倒した後、紫白と力を合わせて行った消火作業。
紫白は本来の巨大な妖狐姿で、私は惜しみなく水術を使い、姿を隠さず作業に勤しんだ。それを、一部の町人や商人達が見ていたらしい。
正直、あの時の私達は疲れで、考える力が落ちていたのだと思う。今なら、もっとこそこそやったね、本当に。
……あの事件から一年、噂は瞬く間に尾ひれをつけて広がり、気づけば私達は都を救った天の使いとして、人々に語られるようになっていた。
それを面白がった福兵衛が、恋愛色強めに小説を執筆。小説は爆発的にヒットし、私達の冒険譚は神格化され、今や神社まで建設される始末。
それに目を付けた音次郎くんの一座の座長が、福兵衛に脚本を依頼し、丁度、都の慰安公演で女性人気に火がついていた音次郎が主演男役の天狐——つまり紫白の役に抜擢され、現在に至る。
この舞台は、なんというか、すごく身内の力によって成り立っていた。
実際の天狐と女神が紫白と私だと知る人はごくわずかとはいえ、こうも大々的に英雄譚として美化されるのは、本当に面映ゆく、居心地が悪くてたまらない。
だいたい誰だよ、女神はボンキュッボンの美人とか初めに言い始めた奴。女神に夢見すぎだぞ。本人はこんなちんちくちんだよ?
それに私は神じゃなく、亡霊になるかもしれなかった子供だからね。
いや、本物の女神様もどちらかといえば慎ましやかな胸だったし……。
そんな失礼なことを考えていると、外から大きく弾むような声が聞こえてきた。
「えーー、さあさあお立ちあい、御用とお急ぎでなかったら、ゆっくりと聞いておくんなせえ。手前ここに取り出したる、これなる小瓶。こちら、今や世間で話題のあの軟膏! 何に効くかと云うなれば、先ずは火傷跡に効く。他にも汗疹、あせも、爛ただれ、気触かぶれ、あかぎれ、外傷一切、痔の類等々に効果あり! さあさあ、望月――望月――、望月印の軟膏はいらんかね~!」
「買うぞ! 俺にくれ!」
「あたしも頂戴!!」
口々に軟膏を買い求める大衆の声がした。
「はいはい、毎度っす! 順番にねー」と客をさばく忍の声が聞こえて来る。買い手は、一向に止む気配がない。
きっと外は、私が思っている以上にすごい人なのだろう。
「はーー、忍くん、頑張ってるねえ」
「今が稼ぎ時だって、開演前に言ってたよ」
「そう、最近の忍くんはよく働くね」
「その分、よく食べてもおるがな」
苦笑する音次郎と、ほけほけと笑う福兵衛に同意し、私は頷いた。
望月印の軟膏、それは忍が調合し、あの火事のさ中で使用された薬剤だ。
あの火事の後、忍は村人だけでなく、都の人々の治療にも尽力した。
忍の指揮の元、望月一族総出で行われたそれは、その場の処置だけでなく、その後の経過観察や定期的な診察までと手厚く、瞬く間に世間の評判を呼んだ。
今や、都で彼らのことを知らない者は、もぐりだと言われている。
また、蘭学を取り入れた的確な医術に都の医師達が関心を寄せ、現在望月家は医療忍者の一族として敬われ、技術指南なんかも請け負っているらしい。
「一族が復興するのは有難いんすけど、最近忙しすぎて、福じいちゃんの家にただ飯食いに行けないのが辛いっす」
と先週忍が言っていた。
忍者の元締めになろうがなるまいが、彼はあまり変わらない。
「そういえば椿ちゃん、祝言の日取りは決まったのかい?」
音次郎の問いかけに、私は今朝の記憶を思い出しながら答える。
「実は、『最高の日取りで完璧な式をあげる』って紫白が意気込んでて……、まだ決まってないんだ。今日も紫白は式場の準備っていうか、新居の様子を見に行ってて」
言葉にすると段々と気恥ずかしくなり、最後の方は尻すぼみに告げる私を見て、音次郎が柔らかく笑った。
「ふふ、幸せそうでなによりだよ。でも、凄いよね、自分達の為に建てられた神社で神前式! ついでに、住む家まで手に入れちゃうなんてさ」
「嗚呼、紫白も出世したものだなあ。甲斐性なしだと、忍くんにからかわれていた頃が懐かしい」
「いや、それは福さんの妖怪仲間の方々が手回ししてくれたおかげで……。うん、その節は本当にありがとうございました」
「彼奴らも好きにやっておる故、気にせずとも良いと思うぞ」
そうは言うが、神社一つ譲られたら、気にせずにはいられない。彼らも、気にするなと言っていたけど……。
火事の大部分を消化した私達を見て、先に都の火消しをしていた妖の皆さんが、「君たちのおかげで、被害を最小に抑えた!」と大層感激し、お礼にと、どこからか買い取ったらしい、天狐神社の権利書をプレゼントしてくれたのだ。
紫白は現在、この機会に手に職をつけようと、結婚式を準備する傍ら、神職の勉強に勤しんでいた。
私も手伝えたらなと、一緒に勉強しているが、作法や儀式の種類が多く、一朝一夕でどうにか出来る内容ではない。ただまあ、時間はあるので、気長にやってみるつもりだ。
頑張ろ……と気合いを入れなおす。
「じゃあ、式の日取りが決まったら教えてね! 式後の宴会の準備は、俺と忍くんがばっちりやるからさ。余興も、楽しみにしてて!」
音次郎と忍プロデュースの宴会? どんなものになるんだろう。
楽しみだがちょっと不安なような、心配なような、そんな気持ちになりながら、私は「ありがとう」と笑顔を浮かべた。
「椿ちゃんや、時間は大丈夫か? 車がそろそろこの辺りを通る頃だと思うが……」
「えっ、あっ、そうだった! ごめんね、音次郎くん、私この後行くところがあって」
「全然! 今晩は福さんの家に帰るつもりだから、その時ゆっくり話そう。忍くんにも声をかけておくよ」
「わかった、楽しみにしてる! じゃあ、福さんも、また後で」
「嗚呼、気を付けて行っておいで」
二人にしばしの別れを告げ、人々の隙間をぬって大通りへ出る。
そして、人力車を捕まえ、目的地に向けて出発した。
******
車夫に礼を告げ、馴染みのある参道を進み、石段を上れば、いつもの神社の境内だ。
私は参拝の後、心の中で「女神様、レイさん、椿です。姿を見せてくれませんか?」と、件の女神の名を呼んだ。
リィンと簪に結ばれた鈴が震え、辺りに神聖な空気が満ちる。
瞬きすれば、目に入るのは現世の神社ではなく、神の住まう神域のそれだ。
女神の姿を探し辺りを見回せば、彼女は私から少し離れた拝殿の奥に居た。
「お久しぶりです、女神様」
「ええ、お久しぶりです、椿。貴女がここへ来たのは……、訊きたいことがあるからですわよね?」
女神は私が何を求めてここへ来たのか、既に察しがついているようだ。
私が「はい」と肯定すれば、女神は一つ息を吐き、自嘲気味な笑みを浮かべる。
「分かりました、知りたいと言うなら教えましょう。貴女には知る権利があります」
いつかのように手招かれ、私は女神の私室へと足を踏み入れた。
女神の私室は、相変わらず趣味の良い可愛らしい部屋だ。
以前と違うのは、今回は既にテーブルの上に紅茶と茶菓子が用意されていることだろうか。
もしかすると女神は、私が今日ここへ来ることを知っていたのかもしれない。
促されるまま敷かれた座布団の上に座り、神妙な顔の女神へ語り掛ける。
「女神様は、全部知ってたんですか?」
『全てが終わったら、またいらして』とあの日、女神は言った。
もし、クロ経由で渡された鈴がなければ、山神を倒すことは出来なかっただろう。
もし、私が桜華に会いたいと願った時、女神が助言に現れなければ、私達は桜華に接触できないまま、山神の意志を受け取った彼女に一方的に殺される可能性もあった。
全てを見透かしたような、的確な助言。
それに……あの日一瞬見えたパソコン内のゲームデータがずっと頭に引っかかっている。
私の問いに、女神が困ったように微笑んだ。
「難しい質問ですわね。肯定するのは、語弊があります。ですが、否定すると私は噓つきになってしまう。上手く説明できるか分かりませんが、少しお話に付き合って頂いても?」
「かまいません、お願いします」
真剣な顔で先を促せば、女神は「分かりましたわ」と一言いい、言葉を選びながら話し始めた。
「貴女は、パラレルワールドというものをご存知?」
「パラレルワールド、ですか……?」
聞いたことはある。確か、自分のいる世界と似ているようで違う、異世界……のことだったはずだ。異世界というと、私から見たこの世界もそうだが。
「ええ、誰かの取った選択肢の数だけ無数に広がる、並行世界をそう呼びます。私は、それが見えるのです」
見えるって、どういうことだろう……?
首を捻る私を見て、女神はくすりと笑う。
「正確には、並行世界にいる別の私と意識を繋げることが出来る、と言った方が正しいですわね」
「そんなことって、あり得るんですか」
神様チートすぎでは?
やや引き気味に驚けば、女神は苦笑した。
「ええ、その反応も無理はありません。私にも、何故そんなことが出来るのか、よくわかっていないのです。強いて言えば、縁を司る神だから……もしくは、どの世界でも多くの方に信仰されているからかも知れませんね」
「えっと、じゃあ、もしかして女神様はその力でこの世界に近い世界を見て、私に助言してたってことですか? でも……それで未来予知みたいなことするってめちゃくちゃ大変なんじゃ」
女神の説明を聞く限り、並行世界は誰かが何らかの選択肢を選べば、無数に増える。
なら、この世界に近い世界にいる別の私を見つけ出し、その行動選択の結果どうなったかを調べれば、良い結果に導くことは可能だろう。
ただ、それはどれだけの世界と選択肢なのだろうか……。
「ええ、それはもう。けっこうな労力でしたわ」
「……女神様は、どうしてそこまで私を助けてくれるんですか?」
純粋な疑問をぶつければ、女神は瞼を伏せた。そして、カップを手に取り、紅茶をすする。
一拍間を開けてから、女神が再び口を開いた。
「平たく言えば、私の願いを叶えるため……ですわね」
「女神様の願い?」
女神はカップをテーブルに戻しながら頷く。
「私にはそういった能力があるというのは、今話した通りですわ。普段はそんなものは使いません、疲れますし……。ただ、それは時折、勝手にこちらへ伝わることがあるんですのよ。特に人々の強い願いの声というものは……」
女神は少し声の調子を落とし、誰かの声をまねるように告げた。
「『助けて、苦しい、熱い……水をくれ』『嫌だ、嫌だ、死にたくない、助けて……助けて、神様』助けを求め苦しみもがく、無数の人々の声です。それが一つの世界だけでは無く、幾多の並行世界から聞こえてきました」
女神は話を続ける。
「四六時中聞こえるそれに、気が触れてしまいそうでした。あまりに長く続くものだから、その声のある世界を見に行ったのです。するとね、私が司る川へ水を求め、焼け爛れた人々が絶え間なく飛び込んでいたんですの。原因は都の火災。それも、術による大火でした」
「それはもしかして、山神が……?」
これまでの事件を振り返りながらそう口にすれば、女神は頷き、熱のこもった声で続きを話してくれた。
女神の話をまとめると、こうだ。
人為的なものを疑った女神は、火災の原因を徹底的に調べ、あることを突き止めた。
一つは、火災発生のトリガーが“西の山に住む妖狐が死ぬこと”であるということ。
二つ目は、いつも妖狐殺害に関わる人物は“桜華”という娘と、彼女と懇意な複数の男性であるということ。
そして最後に、その桜華が信仰していたのが、人を食し堕落した神——山神であり、火災はこの神によるものだということ。
「火災の起きている世界は、ここと近似値にある世界です。このままでは、私の世界もそうなりかねませんでした」
女神が憂いを帯びた目で、ふうと息を吐く。
「私は火災を回避するため、思考錯誤を繰り返しました。けれど、私が出来ることは確立の操作と縁を結ぶことくらい。神が直接現世へ干渉するのは禁忌にあたり……一人では、どうにも上手くいかなかったのです」
「あ、じゃあもしかして山神がわざわざ桜華ちゃんを操ろうとしたのは、禁忌に触れない為ですか?」
「ええ、あの卑しい神は、あくまで桜華を動かす形で現世へ干渉していました。ですから、私としても、桜華へ対抗する人間の駒が欲しかったのです」
「それが私、ですか」
女神が静かに頷く。
「どうして、私だったんですか? 他にもっと適任がいたんじゃ」
なにも幼女にそんな大役を任せなくても、もっと強くて確実に桜華を止められる人間がいただろうに。
「いいえ、言ったはずですわ。私、色々試しましたのよ? それはもう、沢山の事を。けれど、誰もなしえなかったのです。何故だか分かります?」
「……いいえ」
しばし考えたものの、思い当たる節がない。
自分が特別劣っているとは思わないが、特別優秀だとも思えなかった。
戦闘センスでいえば、私より忍くんとかの方がすごいし。
「貴女と彼らの違いはですね、妖狐に特別な感情を抱いていたかどうかです」
「は……?」
斜め上すぎる回答に、思わず気の抜けた声が出る。
いやいや、いくら何でも、それはないだろう。
確かに紫白を助けたい一心で行動していたけど、気持ちの強さだけじゃどうにもならない場面もあった。自分でも、よく生き延びられたなと思うし。
「『は?』ではありませんわ! あの妖狐はとっても扱いの難しい生き物ですのよ!」
女神が机を叩いた。
「普通の人間はそもそも妖を怖がって近づきたがりませんし、歩み寄る者を差し向けても、今度は妖狐の方がそれを拒んでしまう。殺されかければ抵抗しても、もう駄目だと分かるとあっさり死を選ぶ……。他人に心を開かず、自ら生きようとしない者を生かすのが、どんなに大変か解りますか!?」
試行錯誤の期間を思い出したのが、興奮する女神へお茶を進めれば、彼女はクッキーを力強く咀嚼した。
そして、紅茶を飲み下してから、長めの息を吐く。
「とにかく、色んな意味で愛の力は無限大ということですわね」
女神は乾いた笑いを浮かべ、カップをテーブルへ乱暴に置いた。
なんというか、お疲れさまです。
「女神様が私を助けてくれた理由は分かりました。でも、それならそうと言ってくれれば、良かったのに。隠す必要、ありましたか?」
教えてくれれば、より早く山神を撃退し、被害を抑えられたかも知れない。
紫白だって、大けがせずに済んだかも知れないのに。
やや、不満げに告げれば、女神はゆるりと首を振った。
「いくら予想がついていようと、伝えることは出来ないのです。言霊という言葉がありますでしょう?」
「言霊ですか」
「ええ、まして、確立を操る神の言霊です。私が口に出すことで、悪い事象が確定してしまうリスクがありました。ですが、話せなかった代わりに、ヒントは与えたでしょう?」
女神はすっと立ち上がり部屋にある電子機器の方へと向かうと、パソコンのカバーを外して見せた。
モニターに映し出されるのは、いつか見たものと同じ。
デスクトップには“桜花~妖討伐恋列伝~”のアイコンが並んでいる。
「もう予想はついていると思いますが、このゲームは私が作ったものなのです」
「え……ええ!?」
「これは、この世界線から遠く離れた世界の者へ、平行世界の情報を与え、縁を結び、妖狐の為に自ら動いてくれる者を探すことを目的に作ったソフトで……」
「ま、まって、ちょっとまって下さい。でも、このゲームはコンシューマーで、ちゃんとしたあの世界のゲーム会社が作っていたはずで」
混乱しながらそう口走れば、女神は笑った。
「そこはあれです、そちらの世界でこれをネットに流したところ、運よくゲーム会社にお話を持ちかけられて。なかなか面白かったでしょう?」
「いや、確かに面白かったけれども!」
思わず語尾が強くなる。
だいたい、世界を超えてゲームを販売するなんてこと、できるか普通!?
それに、女神の話が本当だとすれば、私はあの世界にいた時から、目をつけられていたということで……。
「あの、もしかして……いや、もしかしなくてもこの世界に私が転生したのって、女神様の力なんですか?」
「生まれたというか……まあ、そうですわね。ついでにいうと、目的の為に貴女を死へ追いやったのも私です」
話は終わったとばかりに、クッキーを頬張り始めた女神を横目に、私は今の彼女の言葉を頭の中で反芻した。
死へ、追いやった……?
まだ情報を処理しきれない私を見て、女神が淡々と言葉を重ねる。
「貴女が黒雨を助けて川で死んだのは、私が仕組んだことだという話です。恨んでくれてもかまいませんわ。私は多くの民を守る代わりに、貴女を殺したのですから」
空になったカップへ注がれる琥珀色。
静かな水音に耳を傾けながら、私は少し考えて、自分の想いを口にする。
「……女神様、私は確かにクロを助けて死にました。ですが、それを誰かの所為にする気はありません。もし、仕組まれていたことだとしても、あの場でクロを見捨てるという選択も私にはできた。それをしなかったのは、私です」
私はそう一気に言い切り、女神へ新たな言葉を投げかける。
「むしろ、女神様には感謝しているんです」
「感謝、ですの?」
女神が目を丸くした。
「だって、あなたがこの世界へ私を生まれ変わらせてくれなかったら、私が紫白と結ばれることはなかったんですから」
「それは、そうかもしれませんが……」
なんとも言えない微妙そうな顔をした女神へ、私はある提案を持ちかける。
「もし、女神様が私へ同情してくれるなら、一つだけ叶えてもらいたいお願いがあるんですけど、かまいませんか?」
「ええ、どういうものかにもよりますけれど、可能な限り手は尽くしましょう。で、願いというのは?」
「実はですね————」
私はいたずらっ子のような笑みを浮かべながら、女神へそっと願いを耳打ちしたのだった。
※一部忍の台詞は『ガマの油売り』を参考にしています




