第四十三話「椿と女神」
「お久しぶりです、椿」
たおやかな笑みを浮かべる女神に、思わず口をぽかんと開ける。
あんなに色々聞きたかった時には現れてくれず、今になって現れるなんて。
それに、先程聞こえた『馴染んだ』と言う言葉も疑問だった。
「……お久しぶりです。その、馴染んだというのは?」
矢継ぎ早に疑問をぶつけたい気持ちを抑え、冷静に問いかければ、彼女は困ったように口元へ手を当てる。
「ええ、そのままの意味ですよ? 貴女がこの世界に馴染んだのは良いことだと。……立ち話を続けるのもなんですし、上がって下さいな。黒雨」
女神がクロへ視線を投げかける。
りん、と鈴の音が聞こえた途端、クロの周りを霧状の煙が包んだ。
徐々に霧が消え始め、見知らぬ人物のシルエットが浮かび上がる。
「は……、え? クロ……?」
そこに居たのは黒い柴犬ではなく、丸い眉に黒曜石のような瞳を持つ小柄な少年だ。
少年は私と目が合うなり、焦ったように顔を反らせた。
「黒雨……いえ、貴女にとってはクロかしら? まあ、呼び名など瑣末事ですわね。黒雨、茶と菓子の用意を。神主が供えた饅頭があったはずです」
「主が強請して供えさせたやつですね? 分かりました。すぐにご用意します」
黒雨と呼ばれた少年は私へ一礼すると、颯爽と社の奥へ去って行った。
「全く黒雨ったら、強請するだなんて人聞きの悪い……ちょっとお願いしただけですのに」
「あの、女神様……。クロも術が使えたんですか?」
クロが新しい名前で呼ばれていた動揺より、人型になれたという衝撃の方が強かった。
前世ではクロを存分に撫でまわし、抱きついたりもしていたわけで……。
紫白に比べれば外見年齢は低いものの、これまでしてきたあれやそれを考えると、やはりどうにもいたたまれない。
長年純粋に動物として接していた分、ダメージも大きかった。
「ああ、貴女が考えているものとは違いますわよ。あの姿は私を手伝わせるために与えた仮の姿で、自分の意志では変われませんし……。まあ、本質は犬ですから、普段通り愛でてやればよろしいかと」
少年相手に愛でるという発言が、如何わしく聞こえた私は心が汚れているのだろうか。
懐かしい相手との再会が嬉しいはずなのに、どうにも手放しに喜べない。
けれど、私がいなくなった後、クロを世話してくれる人がいたことには安堵した。
「経緯は分かりませんけど、クロを拾ってくれてありがとうございました。女神様のところにいるなら、安心できます。あの子、野良だったから……ずっと心配してたんです」
女神は私の発言を聞き、意表を突かれたように目を丸くする。次いで肩を揺らして笑い出した。
「……ふ、ふふふふっ。今の貴女の言葉、あの子が聞いたらどんな顔をするのかしら」
「私、何かおかしなこと言いました?」
神様の庇護下にあるのなら、衣食住は安泰だと思ったのだが違うのだろうか。
女神はひとしきり笑うと、「いいえ、おかしくなど……。すみません、私室へ案内しますわね」と促した。
拝殿の横を通り抜け、本殿があるだろう場所に着くと女神はその部屋の戸を開く。
中に広がっていたのは神棚の置かれた仰々しい空間……ではなく、女性らしい家具の揃えられた可愛らしい部屋だった。
「ここはやっぱり、いつもの神社じゃないんですね」
謎の闇を抜けた先にある神社が、普通の場所だとは思っていなかったものの、様相が違いすぎて開いた口が塞がらない。
「うふふ、そうですわね。ここは神域……普通の人間には入れない、私の家のようなものですから」
女神は薄く笑い、部屋の中へと手招く。
寒色系で統一された部屋は、こちらの世界より前世の世界に近い洋風の作りだ。
ベッドにクローゼット、羽織掛け、本棚、小さなテーブル。
ぐるりと部屋を見回した中で一際異彩を放っていたのは、この世界にそぐわない近代的な機械が置かれた一角だ。
テレビ、パソコン、ゲーム機器にラジカセなど、おおよそ神様のイメージとは程遠い、俗物的なものが並んでいる。
ふと目をやれば、パソコンが起動しているらしく、モニターはデスクトップを映していた。
女神の使うパソコンの物珍しさから、つい眺めてしまう。
立ち並ぶアイコンの中には見知った名前のフォルダーがあった。
『桜花〜妖討伐恋列伝〜』
見間違いだろうか?
もう一度画面に目を凝らそうとして、パッと白い衣に視界を奪われた。
「いやですわ、私ったら消し忘れていたみたい。貴女もそんなまじまじと見ないで下さいな。プライバシーの侵害ですわよ?」
「えっ!? ご、ごめんなさい。女神様もパソコンなんてするんだなと思ったもので……」
女神は素早くパソコンの電源を切ると、そのままモニターへ布をかける。
「……私は縁の神ですもの、パソコンくらいします。昨今は面と向かって会わずとも縁の結べる、凄い時代になったものです」
女神はそう言った後、「さあ、お座りになって」と小さなテーブルの方へ私を急かす。
私は勧められるまま座布団の上に座り、改まって口を開いた。
「えっと、女神様。改めて、以前は助言を下さって本当にありがとうございました。おかげ様で悪夢もなくなり、会いたい人とも会うことが出来ました」
「うふふ、役に立てたのなら何よりです」
顔を綻ばせる女神の姿はまるで年頃の少女のようで、私は少しだけ格好を崩す。
「……私、女神様に訊きたいことがあったんですけど、四年も音沙汰が無かったから、もう会ってくれないものだとばかり思ってました」
気が緩んでつい恨みがましく口走れば、女神は眉をはの字に下げた。
「会ってあげたいのはやまやまだったのですけれど、私にも色々事情がございまして……。まあ、こうして話せているのですから、良いではありませんか。それで、訊きたいこととは?」
「その、私はどうしてあんな夢をみたのかなと。女神様なら何か知っていませんか?」
「……貴女はどう考えているんですの?」
女神は私の疑問に、疑問で返す。
口元こそ笑みを浮かべているものの、女神の目は笑っておらず、こちらを探るようにじっと見ていた。
私は恐る恐る自らの考えを口にする。
「……川で亡くなった人に呼ばれたのだと、思っています。どうして死ぬ夢ばかり見たのか、最後に何故私が現れたのかは分かりませんが」
女神は私の考察に対し、肯定するように微笑む。
「概ね、その通りだと思いますわよ? あの場所には様々なものたちの念が積み重なっていましたし、椿は川との縁が深いですから……忘れられないように繰り返し、繰り返し川の記憶を見せ、貴女を呼んだのでしょう」
なるほどと頷いた私に、女神は続ける。
「後は、単純に自分の中へ戻りたかったのだと思います。別れようが離れようが、魂は一つに戻りたがるものですから」
魂? 戻りたがる? 一体なんの話だろう。
先程までの話とは一変して要領を得ない言葉に、私は首を傾げた。
「つまり、どういうことですか?」
「つまりも何も、言葉通りなのですけれど……」
女神は私が理解出来ないことが、理解出来ないらしい。
彼女は退屈そうに自分の髪を弄りながら、「そんなことより」と再び口を開く。
「ねえ、椿。私、とっても気になっていることがあるんです」
「気になっていること、ですか?」
西の山での話以外に、女神に気にされるようなことは身に覚えがない。
疑問符を浮かべれば、女神はにんまりと笑った。
「今、紫白さんとの仲はどうなっているんですの?」
「っ!? ごほっ、ごほっ!」
思わず、咽せた。
なんたって、この世界の女性陣は人の色恋事情に首を突っ込みたがるのだろうか。
息を整えていると、「ご所望のものをお持ちしました。入りますよ」と声がして、クロが部屋の戸を開ける。
クロは私の表情を見るなり、女神へ苦言を呈した。
「主、この子をあまり困らせないであげて下さい」
「なんですの黒雨。私、困らせてなどいませんわ! 私達は今、乙女だけの楽しい話をしている最中なのです。無粋な殿方は早く出ていって下さいな!」
「乙女って……はいはい、分かりました。では、ボクは仕事に戻ります」
むう、と子供のようにむくれる女神を、クロが軽くあしらう。
クロは湯呑みと茶菓子の乗った盆をテーブルに置き、一瞬だけ私を見て、そそくさと部屋から出て行った。
お茶請けのお饅頭を口に運べば、上品な餡子の甘さが舌の上で転がる。
湯呑みに注がれた緑茶を一口飲み込み、心を落ち着かせから、私は先程の話の続きを口にした。
「女神様は、なんでそんなこと訊くんですか?」
「なんでと言われましても……。私、人の恋路を眺めるのが好きなのです。仕事の延長線上ではありますが、こればかりは神としての性分なので変えられません」
傍迷惑な性分だな。
「神様って、皆そうなんですか?」
「ええ、基本的に私達は人々にそうあれと望まれ、生まれたもの。決められた性質は己では変えようがありません。その点だけで言えば、神も妖もそう大差が無いのです」
女神は饅頭を一つ掴んで口に入れ、もごもごと動かす。彼女は更に二つ目の饅頭を口へ運ぼうとし、途中で手を止め、私を見た。
「良くも悪くも、我々は人の望む姿に変わります。その事を、どうか忘れないで下さいね」
忠告のような警告のような言葉に頷けば、女神はぽいと饅頭を口の中へ放り込み、茶を飲み下してから、うふふと笑う。
「話が逸れましたわね。それで、紫白さんとはどうなんですの?」
「どうもこうも、紫白は私の保護者で……、家族みたいなものですし……」
視線を泳がせながら告げれば、咎めるようにピシャリとはね付けられる。
「椿、曲がりなりにも神の前で、嘘は良くないですわよ。正直に仰いなさいな」
私は何度か躊躇い口を噤んだものの、女神からの無言の圧力に負け、口を開く。
「……紫白のことは好きです。でも、これが恋なのかどうか、私には分かりません」
女神は残念な子を見るような目を私に向け、盛大に溜息を吐いた。
「貴女、恋愛ゲームはお好きでしょう?」
「それは、……はい」
その通りではあるが、断定するような口調に少し違和感を覚える。
女神に趣味の話なんて、したことないはずなのだが。
「なら、どうして分からないのかしら……? 恋のきっかけなんて、ドラマティックじゃなくてもかまいませんのよ。顔が良い、優しい、ちょっと強引でかっこいいですとか。とにかく、胸が高鳴って好きだと思い、相手を意識するあまり普段と同じ言動が取れなくなったりする……それが恋です」
ゲームに漫画、ドラマや映画に小説。前世では色んな恋愛模様を見た。
知識としては分かる。
だが、自分に照らし合わせるとどうにも分からなくなってしまうのだ。
反応の薄い私へ、女神が苛立たしげに告げる。
「もうっ、ニブチンですわね! なら、具体的例を挙げてみましょう。紫白さんが他の女性に笑いかけているのを見て、胸が痛んだことはありませんか? 側に居てくれなくて無性に寂しさを覚えたり、もやもやとした気持ちなったことは?」
謎の胸の痛み、もやもやとした気持ち。
それは、どうにも身に覚えのある感情だ。
「……見てきたように言うんですね」
「見ていなくても、想像出来ますわよ」
私の心を見透かしたように、女神の口元がゆっくりと弧を描く。
「嫉妬と執着。それだけでも、充分恋たる証拠でしょう。あなたは難しく考え過ぎなのです。ほら、よく言いますでしょう? 恋はするものではなく、落ちるものだって」
女神はとん、と指で私の心臓の上辺りを叩いた。
「戻ったら、ちゃんと自分の心に素直になるのですよ?」
私は「はい」とも「いいえ」とも答えられなかった。
しかし、女神はそんな私の様子を見て満足気に微笑むと、「黒雨」とクロを呼ぶ。
鈴の音が聞こえ、一拍間を置いてクロが部屋の中に現れた。
「……お帰りですか?」
「ええ、送って差しあげて。お土産も忘れずにね」
「承知しました」
クロは私の方に向き直ると、そっと手を差し伸べる。
「早く行こう。ここは、あまりきみの身体に良くない」
「あら、まるで私の神域が悪いみたいに言いますのね」
「……生身の生き物に良くない場所なのは確かです。ここの時間は曖昧だから……」
急かすように伸ばされたクロの手を取り、立ち上がる。
部屋を出る直前、女神に呼び止められた。
「ああ、そうですわ。椿、今度私に会いに来る時は"女神様"ではなく、"レイ"と呼んでくださいな。そしたら、気付けます。全てが終わったら、是非またいらしてね」
「それは、どういう……」
投げかけられた意味深な言葉を訊き返すが、女神はそれには何も答えず、ただ微笑んだだけだった。
クロに手を引かれながら、境内の中を歩いて行く。
部屋を出てから、クロは黙りを決め込んでいた。
犬型の時とは随分と違う態度に、実は嫌われていたのだろうかと不安になる。
けれど、その気持ちを打ち消すように、繋がれた手は優しく温かかった。
だから少し勇気を出して、こちらから話しかけてみることにする。
「クロ。私ね、ずっとあなたに会いたかったんだ。人型になったのは驚いたけど、こっちの世界でも会えるなんて思ってなかったから、本当に嬉しい」
少しだけ、握る手の力が強まった気がした。
けれど返事は無く、また無言の時間が続く。
鳥居を潜り階段を下れば、来た時とは違い、足元に道標のような一本の光の道が出来ていた。
次第に前方が明るくなり、闇が薄らいでいく。
その眩さに目を瞬かせた頃、クロが立ち止まりこちらを振り返った。
そして、私の簪へと手を伸ばす。
「クロ……?」
しゃんしゃんと音を鳴らしながら簪へ結ばれたのは、小振りの鈴だ。
「これは……?」
「主が渡すように言ってたお守りです。あんな人でも一応神様だし、きみを守る気はあるみたいだから……」
クロはそれだけ告げると、私の背を軽く押す。
「ここから先はきみだけで。大丈夫、通って来た路だもん。真っ直ぐに進めばちゃんと帰れるよ」
クロは私を安心させるためか、少しだけ口調を崩した。
見た目相応な話し方に、私も力を抜いて頷く。
「わかった。ありがとう、クロ。今日は全然話せなかったけど、今度会う時はゆっくり話そう。あ、後、もし嫌でなければ、また犬の姿で撫でさせてほしいな」
「……うん、もちろん」
少しの間を置いて、クロは嬉しそうに微笑んだ。
それは人型になった彼が、始めて見せる表情だった。
私はそれに気を良くして、「ありがとう。大好きだよ、クロ! またね!」と手を振りながら光の中へ飛び込む。
最後に見えたクロの顔は、何故か喜びと悲しみが混ざり合ったような複雑な色を映していた。
******
目を開けば、そこには見慣れた天井があった。
私、さっきまで北の山にいたはずじゃ?
不思議に思いながら辺りを見渡せば、私が寝かされている布団に寄りかかる形で、紫白が突っ伏している。
「紫白……?」
手を伸ばそうとした時、聞き慣れた人物の声が耳に入った。
「あ、椿ちゃん! 良かった、目を覚ましたんだね」
障子の間から表れたのは音次郎だ。
「音次郎くん。私、一体……? お祭はどうしたの?」
「覚えてないの? 椿ちゃん、祭り会場の外れで倒れてたんだよ。何しても起きなくて、今日で三日目」
「私、三日も寝てたの!?」
女神様のところにいた時間は、体感で一時間程だったはずだ。クロが言っていたのは、こういうことだったのか。
困惑する私に、音次郎は一から説明してくれた。
あの後、集合場所から居なくなった私を皆で探すと、川辺で倒れている所を発見したらしい。
外傷は無く、医者に見せてもただ眠っているだけだという。
けれど、揺さぶっても話しかけても全く目を覚まさない私に、紫白は取り乱し、忍は目を離した自分を責め、福兵衛は宴会を取り止める等々、大混乱だったのだとか。
「……ご心配をお掛けしました」
「俺は全然。むしろ、元々別行動になった元凶は俺だし、こっちが謝らせて欲しいくらいだよ。本当にごめんね」
「いや、私の方こそ無断でいなくなっちゃったから……」
音次郎はもう一度謝罪しようとした私を制した。
「俺はね、君に以前見た白いもやが着いているのが見えたから、また女神様と会ってるのかなって予想が着いてて……そこまで心配はしてなかったんだ。だから俺に謝るより、紫白さんを労ってあげて」
音次郎の視線が、すやすやと眠る紫白へ注がれる。
「紫白さん、ここ三日ずっと君に付きっ切りだったんだ。……本当は昼食に呼びに来たんだけど、寝かせておいてあげよう」
音次郎はそう言うと、私に視線を戻し柔らかく目元をゆるめた。
「椿ちゃんは、食べられそう?」
私が答えるより先に、ぐぅと雄弁な腹の音が主張する。
……自重して、私のお腹!
恥ずかしくて俯けば、音次郎はくすりと笑った。
「ふふ、健康な証拠だね。すぐに用意するよ、待っていて。ああ、皆に椿ちゃんが目覚めたことも伝えないとだね」
「うぅ……、ありがとう」
音次郎が居なくなり、部屋に静寂が戻る。
規則的な寝息の先には、目元に深い隈を刻んだ紫白の顔。
三日三晩寝ずに看病してくれていたのだろう。
よほど疲れているのか、私が手を伸ばしても紫白は身動ぎ一つせず眠り続けている。
「……紫白は私を優先しすぎだよ。私なんか放って、ちゃんと部屋で休んでくれて良かったのに」
労わるように紫白の髪を梳けば、彼はへにゃりと幸せそうな笑みを浮かべた。
その表情に、私の胸もじんわりと暖かくなる。
ふと、脳裏に女神の言葉が過ぎった。
『ーーあなたは難しく考え過ぎなのです。ほら、よく言いますでしょう? 恋はするものではなく、落ちるものだって。戻ったら、ちゃんと自分の心に素直になるのですよ?』
「自分の心に、素直に……」
もう一度、二度、紫白の頭を撫でながら考える。
彼の幸福そうな表情は、私の心も暖かく包み込む。
ーーああ、嗚呼。本当は薄々気がついていたのだ。この、じわじわと湧き上がる感情の名前に。
ただ、答えを出したら後には引けなくなるから、気づかないふりをしていただけだ。
万が一ゲーム通り紫白が殺されてしまったら? 両想いになって、今と関係が変わったその後は?
先を考える程に、確約のない未来が怖くなる。
不幸になるくらいなら、初めから手に入れなければ良いと、自分の気持ちに見て見ぬふりをした。
そのくせ愛されたがりで、紫白を手放すのも嫌だなんて、私はとんでもない駄々っ子の臆病者だ。
「私は……紫白が、好き」
そう口にしてしまえば、その言葉は驚くほどすとんと胸に落ちた。
今まで溜め込んだもやもやしたものが、形を授り昇華された気がする。
今日この日、私はようやく自分の恋心を自覚した。
〈余談〉
三日間、紫白は椿につききっきりだったため、まともに家事を回せるものがおらず、音次郎が仕事の合間を縫って手伝いに来ていました。
この後、音次郎から報せを受けた福兵衛と忍が椿の部屋に雪崩れ込み、大謝罪大会が開催されました。




