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目覚めた先は森でした  作者: 七星
第一章 目覚めた先は森でした
7/28

7 独白

今回ちょっと短いです

 眠りに落ちたハルを手元に抱えて家の中に入ると、意志を持つこの家はひとりでに扉の開閉を行ってくれた。礼を言いつつ自分の部屋に向かい、そおっと彼女の体を横たえる。

 安らかな眠り顔に和やかな気分になり、さて、と扉のほうを向く。


 彼女の魔力が回復するまで、この部屋には堅固な守りをかけておかなくてはならない。主にファルカン対策だ。

 扉に向かって手をかざす。水の姫と竜巻の騎士によって守られた宝の話を思い出し、扉は堅牢な盾に、鍵穴は鋭利な槍に。


 魔法をかけながら、ぼんやりと後ろの少女のことを考えた。

 元々ここの世界の住人ではない、そういう人間がこの世界に落ちてくることはままあった。石畳でできた広場はひずみの出口になっていて、だから俺は毎回彼らを返すための魔法をあの場所にかけていたのだ。

 なのに。


「こいつは……予想外だったんだよなあ」


 苦笑せざるを得ない。結構強力な魔法だったはずなのに、元の世界に返されることなく留まった少女が後ろで眠っている。

 魔法に不備があったのではない。そんなことは絶対にないと宣言できる。毎週点検しているのだから間違いない。

 彼女は単純に魔力量が桁違いに多く、ひどいくらいに魔法適性が高かった。つまり、この世界に馴染みやすすぎたのだ。


 いくら俺でも世界が認めてしまった存在を弾き出すことは不可能に近い。魔力同士がぶつかり合うと反発も強いので、彼女はそのままこの世界に留まってしまったのだ。

 魔法をかけ終えてひと心地つく。彼女は相変わらず綺麗な顔で眠っていた。



 ぐっと手を握りしめると同時に後悔が胸を満たした。


 また怖がらせた。怯えさせた。

 あんな顔をさせるつもりじゃなかった。心配だったというのが一番の理由だし、自分の言いつけを積極的に破るようには見えなかったから驚いて、焦って。

 なんて、誰に対しての言い訳なのだろう。


 知らなかったから? 父親にそんなことをされていたとは思えないほど明るかったから? 元の世界を恋しがって泣いていたから、きっと幸せだったのだろうとでも思っていたのか、俺は。

 だから、あんなトラウマを思い起こさせたことを許してほしいとでも思っているのか。


 そんなのは、言い訳にすらならない。辛い経験をした者がそれを忘れて生きていることを言い訳になど出来るものか。

 簡単な話だ。自分が、間違えたのだ。

 ぎりりと歯を噛み締めた。もしこれがファルカンだったら、笑顔で諭すくらいですんだのだろうか。あんな顔をさせることもなく、あんな思いをさせることもなく。

 溌剌とした笑顔が崩れることもなかったのだろうか。


「分からねえなあ……」


 から笑いが喉から零れる。どうしてこうも上手くいかない。彼女のために怒って、それでこんなことになっていたら世話ない。

 いや、そもそも自分は本当に、彼女のために行動しているのだろうか? 自分のためじゃなく彼女のために、彼女が元の世界に帰るために行動しているのか?



 ハルの父親がしていたことを聞いて、この世界にいたほうがいいんじゃないかと、そう考えはしなかったか?


 醜悪な考えに吐き気がした。


「忘れたのか? 俺は、この世界で一番危険なんだぞ」


 俺と一緒にいるくらいなら、暴力を振るう父親の方がまだマシだ。

 忘れたならば思い出せ。俺が朝に怯える理由を。俺がここにいる理由を。

 唐突に路地裏の男達の化物という声が頭の中で蘇った。すぐ側で眠る少女の安らかな顔に、これのどこが化物なのだと可笑しくなる。


 化物というのなら、俺の方がよっぽど化物だ。



 そこにいるだけで害悪。呼吸いきをしていることが罪。存在を許しているのは誰かの慈悲などではなく、自身にあるほんの少しの利用価値のみ。


「俺は……」


 何度も言い聞かされた言葉を繰り返す。それしか知らない幼子のように。神に祈りを捧げるように。


「俺は、ただの兵器だ」


 ロイ、という透き通った声が鼓膜を揺らした気がした。

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