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 暗い。

 お薬のにおい。

 一週間に一度、あの子の部屋に向かう途中。


 長くて白い廊下は、白い光に創り出された私の影を強調して、存在をずっと監視してくるみたいで苦手だった。


 震える手を握りしめて、あの子の待つ部屋に向かう。

 途中。


『ーーーちゃん?』


 振り向く私。

 知らない男の子がこちらを見ている。

 よく、聞こえない。自然と彼の近くに足が歩み寄る。



『ーーーーー君は誰?』



 言葉を発したのは誰だったのか。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー








「誰?」


 春山がコテンと首を傾げて私に問いかけてきた。


「え?あ…」


 ハッとして言葉を発しようとするけど、喉がカラカラになって上手く音が紡ぎ出せない。


「あ、ごめん。何だっけ?」


 頭がうまく回らない。


「今、渚がこの写真に写ってるのが自分じゃないって」

「あの、これは」

「ハル」


 私の言葉を急に日浅が遮った。


「ハルは頭悪いけど、口は固いよね」

「頭悪いって何だよ!」

「俺も口軽くはない。と、思ってる。信じるのはあんたの自由だけど、こんなの見て何も聞かずにはいられないよね」


 何となく日浅が話題をそらしてくれることを期待していた。

 いつも気まずいとき、空気を読んで逸らしてくれていたから。


「えっ…と」


 だから、その予想外の射撃に心がぐらついた。


「あんたが生徒会に入ったことと、これって何か関係あんの?」

「な、んで」

「へー…」

「だから何が」

「脅されてんの?」

「え」


 違和感。


 今日の日浅に酷く違和感を覚えてしまう。

 この違和感の正体に名前を付けるならーーー


「ん?何かズレてね?」


 春山の声が疑問の隙間を通り抜ける。


「脅されてるって何だよ?この写真って別に二人が幼なじみってのが分かるだけじゃないの?」

「…まあ、そうだけど」


 珍しく言いよどむ日浅。

 そう。そうなの。

 だって日浅の話は二回り位進んでいる。前提条件が春山のそれと違う気がする。


「あれ?」


 春山が声を上げた。


「この病院って、哲の」

「ハル!!!!」


 …びっくりした。日浅って、こんな大声出せたのか。

 私だけではなく春山も驚いていた。その表情には驚きの気色が露わに出ていた。

 でも何でこんなにーーー


「何なの?」


 私の心の声は、いつの間にか漏れ出ていた。


「渚?」


 だって、もう色々訳が分からない。


「皆…誰だって、隠し事あるよね」


 何で大路がこんな写真を持っているのか、とか。


「日浅君だって、今、隠そうとした」


 何で生徒会に入ることになっているのか、とか。


「どうして?」


 何で日浅に探るような視線を向けられないといけないのか、とか。


 私はただこの高校を平和に卒業したいだけなのに。


「何で放っといてくれないの?」

「別に俺は隠してないけど」


 しれっと言う日浅にカチンとくる。


「だって春山君が何か言おうとしたら遮ったよね」

「あんたが知りたいことじゃないのに、何で教えてあげないといけないの?」


 は?


「俺は自分がされたくないことは人にしないようにしてる。俺はどうでも良い情報は聞きたくないから、だから遮った」

「えっと?」

「あんたが知りたいなら教えるけど」


 知りたい?


「困るのは、あんたなんじゃないの?」


 ジッと日浅の双眼に射抜かれ、心臓が大きく音を立て始める。


「俺の話を聞くってことは、俺があんたの話も聞いても良いって意味で理解するけど」

「それは…困る」

「でしょ」


 だって卒業したいから。

 私が卒業する前提条件は、この高校の合格水準をクリアすること以上に女であることがバレてはいけない、ということ。


 …あれ?でも待てよ。大路には、多分バレてる。いや、でも、直接聞いた訳ではないんだけど、直感なんだけど、それの確かめ方…どうしよう?!


「え?な、渚??大丈夫か?!哲、俺、話が見えないんだけど…」

「え、と」

「あんたにとっての信頼できる奴に相談してみれば?」

「え…」

「そりゃあまだ知り合って一年も経たない奴らになんて話せること知れてるだろうけど、例えばーーー」




「その写真に写ってる()とか」


 ああ、そっか。あの子ならーーー


「あ、そっか。渚は大路が幼なじみなんだっけ!」

「俺らに頼りたいなら、聞くけど。あんたの本意じゃないでしょ?」


 こんな質問はずるい。でも、バレたら卒業できないし、2人との関係もなくなってしまう。

 だけど、聞きたいことはまとまった。

 思い立ったら行動あるのみ。


 部屋の扉を開け、外の世界へ足を一歩踏み出した。



「…ごめん」



 空間を仕切る壁が二人を遠ざける。

 私達を分断する境界線が引かれたみたいに。



「聞きに行ってくる。ありがとう」





 扉が閉まる音がした。

ブックマーク、評価いつもありがとうございます。

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更新遅くなりすみません。引き続き気長にお付き合いいただけると幸いです。よろしくお願いします。

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