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「それ、何入ってるんだ?」
興味津々といった表情を隠しきれてない春山が覗き込んでくる。
「さあ?大路くんがくれるんだから録なものじゃないことだけは分かるけど」
「えー?大路悪いやつじゃなさそうだけどなー」
何を根拠に言ってるのか分からないぞ春山。
「何でそう思うの?」
「直感」
ほら見ろ。
「まあ相性ってあるからね」
「俺は?!渚と俺の相性は?!」
「………悪くはないと思ってるよ」
「そっか!良かった!俺は渚との相性すごい良いと思ってるよ!」
普通にこういう言葉を面前で吐き出せる春山はすごいと思う。…素直に嬉しい。
「そう言えば渚さ、兄貴のこと気にしてたけどさ」
「え?ああ、うん」
「渚も兄弟とかいるの」
「え」
「何かさ、俺、渚のことどっかで見たことある気がするんだよ」
!!!?
「…そりゃあ、毎日顔を合わせてるからね」
喉の渇きを悟られないかびくびくしながら音を発する。
「うーん。というか…なんだろうなー?哲と並んでるの見たときに既視感があるような気がして…」
「それは彼と同じクラスだからじゃないかな」
「なんかデジャヴみたいな」
「それはすごいね。予知夢を見れるなら卒業後の進路の選択肢も増えて良いこと尽くしだ」
「え!まじか!確かにそうかも!バスケの予知夢とかってどうやってみるのかな!?」
「知らないから」
そんな能力があればバスケは楽しくなくなってしまいそうだけど。
「えーつめたいよ渚~」
「いつも通りだよ」
私は元々ホットな人間ではない。
「それはそうと哲が戻るまで何しようかって案なんだけどさ」
「うん」
「さっき質問して気付いたんだけど」
「………うん」
「俺、渚のこと実はあんまり知らないなって」
「そうだっけ?」
「昔バスケやってて、俺と哲の友達で良い奴で、明太子好きってことしか知らないなって」
「それだけ知ってれば充分じゃない?」
「ドライ!!!!!!」
いや、普通でしょ。
…普通だよね?
「良いじゃん!俺が知りたいの!」
「君のことも知らないから、ここは穏便にお互い知らないままで良いんじゃないかな」
「穏便に、の使い方なんか間違ってない!?」
…ちっ。意外と頭が良かったか。
「じゃあ他己紹介ゲームしよ!」
「タコ…?タコの紹介ってそんなにタコについて詳しくないよ」
「どんな雑なボケだよ!違うよ!他者が自己を紹介すること!」
「えー…良いよそれ。いらない。面倒くさい」
「ひどっ!」
「酷くはない」
拗ねた顔になる春山。なんだよ。
「渚ってさ、何でバスケやらなくなったんだよ。すごい楽しいじゃん」
どきりと心臓が跳ねる。
「…別に君には関係ないよね」
「バスケは嫌いじゃないんだろ?」
「…まあ」
「俺、バスケすごい好きでさ、大好きな仲間と大好きなバスケできたら猛烈に嬉しいと思うんだ」
「……………ドクターストップ」
「え?」
「ドクターストップがかかってて激しい運動は禁じられてる」
「え!!!!それってどういう」
「もういいでしょ。ごめん、察して。これ以上この話題は踏み込まれたくない」
「あ…ごめん」
しゅんとする春山が視界に入り、自分でも驚く。何でこんなこと口走っちゃったんだろ、って。
珍しく気まずい雰囲気に耐えきれなくなったその時、部屋のドアが開いた。
「お待たせ」