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息苦しくなり手をバシバシ叩くと口元が解放された。
「ぶはっ!!!!」
「ごめんね。苦しかった?」
「分かってたならもっと早く離してよ!窒息するかと思ったよ!」
「酷いな。これでも君のために動いたつもりなんだけど」
「どういうこと?」
「君が余計なことを言いそうだっからね」
余計なこと?
「入って」
「え…」
そこは大路の部屋だった。
「お断りします」
「警戒してる?」
だってなんか。嫌な予感がする。
「君のためだよ」
「わっ」
急に引っ張られ、引き込まれてしまった。
ドアが閉まる音が聞こえ、掌に脂汗が滲む。
「緊張してる?」
「離して」
意図が見えない。
「酷い顔」
こいつ自分が美形だからって酷い言いぐさだな。
「失礼すぎます」
「ふふ。僕もすごく嫌われたな」
「何でわざわざ君の部屋?」
大路の表情が意味ありげな笑顔に変わる。
「ひなたちゃん、元気?」
…え?
「な…に言ってるの?」
突然の緊張感で喉が渇く。
「もう身体は…退院してるけど大丈夫なの?完治した?」
「だから、なに、言って」
「ごめんね。思い出してほしくて意地悪しちゃった」
思い出す?何を?
「本題は、生徒会の知識教育…と見せかけてさっきの春山先輩の発言についてだね」
「あ、え?」
「君にカマをかけてたでしょ」
「…カマって何のこと? 」
「入試の手応えはどうだった?」
突然何なの?
「正直割と手応えあったけど」
「なるほど」
少し考える素振りをみせる大路。
「入試のテストの採点をね、毎年生徒会が手伝うことになってるんだって。先生だけだと間に合わないくらい志願者がいるからね」
「ええ…雑用…」
「そうだね。ここからは僕の予想だけど、そこで君の入試の点数を採点したのがおそらく春山生徒会長」
「え」
「僕の想定だと、テストの点数が比較的良かったにも関わらず、8組になってる君を見て疑問に感じた生徒会長が動いた」
「疑問…」
「何か秘密がある筈だ、ってね」
つまり女であることにはまだ気付いていないってこと?
「僕ならそこから学校と君の間に何か確執があるのか調べ回って、学校側の弱味を握って権力を牛耳るよね」
こわっ!
「嫌だなあ。可能性の話だよ。春山生徒会長は革命を起こしたいって言ってたよね。そのためには学校側の弱味を握りたいんじゃないかな」
「…なるほど」
「生徒会長の権限、選出方法は僕もまだ網羅してないから教えてあげられないんだ」
大路が回収できてない情報なんて本当に秘密主義を徹底してるんだろうな。
「ここから先は、武器として知っておいた方が良い知識を教えてあげる。生徒会に入っていることで君は様々な恩恵を受けられるよ」
「例えば?」
「義務と権力は表裏一体で、任される事項としては大きく言うと生徒に係る事務手続きの補佐に立ち会える。いや、新入生の内情を知る権利があるってところかな」
それってやばくない?!
「あ、いや流石にそんな深い部分じゃなくて外面的な情報ね。身長がいくつ、とか」
それも人によってはコンプレックスになるだろうに…。
「新入生の入学手続き全般補助、在校生の生活管理、卒業生の卒業準備。雑用に聞こえるけど端々で色々な生徒の個人情報をリサーチできる。それを雑用ととるか情報収集の要ととるか、捉え方次第で物事の見方は変わってくるからね」
完全に雑用だと認知してました。
「だから、春山生徒会長には気を付けて」
「あ、うん?」
「あの人も何をどこまで把握してるのか分からない」
「むー…」
「それと、今の生徒会委員としての特権も生徒会長の鶴の一声がかかれば全て霧消化する」
なんという王さま…。
「現にほら。生徒会から追い出された人いたでしょ」
「あー…」
最後の最後まで私を憎々しげに睨み付けていた。春山兄に恨みをぶつける訳ではなく私に対して。完全にとばっちり状態だった。
「あの人も春山先輩のこと盲信してたからね」
「もうしん?」
「春山先輩は面白いけどこわい人だからね。まあ生徒の会を束ねる長だもんなあ。僕もいつかなってみたいけど」
それはこわいからやめて下さい。