59.5
「ふんふんふーん」
鼻唄を交えて歌うこいつは俺の幼馴染み。ご機嫌だ。
「ご機嫌だな」
「うふふー欲しいものが手に入れられるチート武器を手に入れたからねえ」
今の俺にはこいつが何を考えているのか分からないことがある。
あの騒動以降こいつは少し変わってしまったのかもしれない。
「楽しいねえ」
「それは良かったな」
「ふふ」
あの騒動が起こるまでこいつがずっと固執していたあいつと、それから仲の良かったあいつ。その対象が変わったように見えるが実際は変わっていないのだろう。こいつはそういう奴だ。
「そんなに見つめられると穴が空いちゃいそうだよ?」
「悪い。考え事をしてた」
「マジレス?」
こいつは自分の行動の意味を他人に話さない。
「こわいなあ」
理解してもらうことに必要性を感じないからだ。
「あれ?本当に無視?寂しいよ~」
目的の意味については理解を求める。
「でもそれも自由で良いね~」
理解してもらうことに必要性を感じているからだ。
分かりにくいところもあるが、こいつの考え方には一貫性がある。そしてこいつの目的は周りを思っての行動であることが多い。
だから俺はこいつを信じられる。
「義人」
ふざけていたのが一変ビクッと身体が跳ねる幼馴染み。
「…その呼び方で呼ばれるの久しぶりだなあ」
すっと目を細めて笑う。踏み込んでほしくない時に見せる表情だ。やっぱりそうか。まだこいつはあいつに執着している。
「少し昔を思い出した」
「ふふ。俺もずーっと覚えてるよ。過去は忘れないよ。今も1分後には過去になる」
「そうか」
「忘れられるのは悲しいからねえ」
「……そうだな」
人間は主観的な生き物だ。
世の中には様々な形の正義がある、なんて言葉を聞いたことがある。
己の主観によって世界の善悪はいとも簡単にひっくり返る。
「いつも何も聞かずについてきてくれてありがとうねえ。マーマ」
そして俺もこいつと接していると自分も所詮『人間』なんだと気付かされる。