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鼓動が、早くなる。
「…何のことですか?」
「ないの?嘘つきさんだなあ」
「嘘なんて…つかない人間はいないと思いますが」
「トンチの効いた回答だねえ。嫌いじゃないよ~。怖がらないで」
いや普通にこわいわ。
「俺はね、革命を成し遂げたいだけ。君のためにも、君の大事な人達のためにも生徒会に入るべきだと思うなあ」
どこから?いつから気付かれてたんだ…。
「嫌だって言ったらどうする気ですか」
「そこは想像に任せるよ~。今はあくまで同意確認だしねえ」
「それなら」
「あぁ。そう言えば」
「はい?」
「ちびちゃんは俺のことを少しこわい人って思ってるんだよねえ?」
無言の圧力!!!!!
もし仮に私が生徒会に入ると言えばこの高校には居続けられるけど、日浅が図書委員代理で入らないといけなくなる。
私が生徒会に入らないと言えばさっき追放された生徒会委員の生徒のように…退学に追い込まれる可能性がある。
春山兄は後者だと周りに迷惑がかかるって言ってるけど、むしろ前者の方が周りに迷惑をかけてしまうんじゃないの?
「生徒会に入らないと迷惑を被るのは誰ですか?」
「え?」
きょとんとした顔をする春山兄。
「俺とか?」
お前かよ!!!!
「いや…それ自分にとっての大切な人でもないような」
「え!ちびちゃん酷い!!!!傷付いたよ~。マーマ!ちびちゃんが反抗期~」
「分かった。図書委員やるよ」
突然日浅が話に割って入ってきた。
「え」
思わず声が漏れる。
「あんたがどうしても委員会やりたくないなら断れば良いけど。俺もどうせ暇だし。暇潰しに図書室で時間潰せば良いだけでしょ?」
「いや~トール君は優しいねえ。それに頭の回転も早くて助かるなあ」
「俺はあんた苦手なんだけど」
「今日フラれまくりだあ~」
どういうこと?色々と意味がわからない。
どうして春山兄が私の秘密を知っているの?
どうして私のことをここまで執拗に委員会に入れたがるの?
どうして日浅がここにいるの?
どうして日浅が私を庇うの?
この状況は全て春山兄の計算の元で作り上げられたものなの…?
それに私の秘密を知っているのはどうして?生徒会の特権?でもこの高校から私自身に口止めしてきてるし…?
訳が分からなくなってきた!!!普段考え事する癖がないとこういう時に困る。
「さて、ちびちゃん」
ふっと力が抜け急に掴まれていた腕が解放される。
物理的に距離を置けたのに不思議と圧迫感が続く。心拍数が上がる。
「…………何でしょう」
「本題だよ~。トール君は図書委員になる。君が生徒会に入るのを遮る楔はなくなったね?どうする?」
私を守る盾がなくなった。取っ払ったのは日浅。味方だと思っていたのに急な裏切りに動揺している自分に気付く。
「…それは脅しですか」
「そう捉えるならそうなのかなあ。ちびちゃんにとっても悪い話じゃないと思うんだけどなあ。色々な意味でねえ?」
「……回答に時間を貰うことは可能ですか?」
「…んー。そうきたかあ。ケンケンに相談でもするつもりかな~?」
「だとしたら?」
「仮にちびちゃんに猶予を与えたら俺にも時間ができるよねえ?ケンケンはちびちゃんのカクシゴト知ってるのかなあ?」
「カクシゴト?」
早川先輩が口をはさんだ。
「えへへ~。何でもない気にしないで~」
「…」
分かりやすすぎる脅しだな…。
あくまで私は委員会に入るしかないみたいだ。春山兄が私の腕を離したのも私が逃げることができない状況を確信したからだろう。
ここは大人しく従うのが得策…?一番丸く収まりそう。入ったとしても佐摩みたいに関与しないように適切な距離を保てば良いわけだ。というかここで口論をして皆の印象に残って悪目立ちするのもそうそろ精神的にきつい…。日浅には本当に感謝してもしきれないな。今度おいしい明太子一年分をお礼に贈与してあげよう。
視線を感じて目を向けると、大路がこちらを見つめている。何だよ。
「…分かりました。生徒会に入ります」
「ん。決定だねえ」
そういうや否や生徒会バッチを持った右手を高々と上に上げる春山兄。
「ようこそ、生徒会へ!」
春山兄の言葉が合図となり、私と日浅、佐摩、大路、そして元生徒会の彼の5人を除く教室中の生徒が手を動かす。拍手の音が鳴り響く。
「歓迎するよ、ちびちゃん?ようこそ、生徒会へ」
にっこり笑顔で春山兄が私に右手を差し伸べる。
この手は悪魔の手か天使の手か。
まだ分からない。だけど腹を括った。受けてやる。
「こちらこそよろしくお願いします。生徒会長」