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「悪いですけど俺も反対です!」

「ありゃりゃ」


 反旗の声があがった。私をそいつ呼ばわりした癖毛に眼鏡の男子生徒だ。


「いや、俺は反対ではないけどな。関わらない意思表示をしただけだ」


 巻き込むなと言わんばかりにすかさず佐摩が口を挟む。


「生徒会にいても、春山会長がやろうとしていることが先生に伝われば特権だってなくなる可能性がある!それに生徒会は今だって充分独立してるように思われます!生徒間での生徒会の存在は絶対です!二兎を追う者は一兎をも得ずですよ!」

「ん~…そっかあ。君は俺のやろうとしてることを止めたい訳だ?」

「そうです!それにその方針に8組の奴が関与する時点でおぞましいです。そもそもこの神聖な会にそんな奴が同じ空間にいることすら許せない…!」

「ふむ。じゃあ、仕方ないねえ」


 そう言うと異議を唱えた彼に近寄り、胸元に手を伸ばした。必然的に春山兄に手首を捕まれている私も彼の近くに身体が動く。二人の表情がよく見える。


「何を」

「君のことは忘れないよ~」


 ブチッという嫌な音が教室中に木霊する。


「え…」

「さようなら~」


 驚愕する生徒の顔。生徒会委員全員の目が見開かれ、固唾をのむ。

 春山兄の手が男子生徒の胸元から離れ、その手に視線を向けると小さなバッジが握られていた。何だあれ?思わず口が動く。


「それは…?」

「え?ちびちゃん知らないの?ああ。それより遅いなあ。早く来ないかな」

「遅い…?」

「あ、ごめんね~こっちの話だよ~。気にしないで?」


 余計気になるわ!

 存在を忘れていた人物の声が徐々に近付き、その存在が私達に、いや春山兄に近付いた音だと気付いた。


「かっ…返してください!」

「だーめ」


 バッジをとられた男子生徒が取り返そうと手を伸ばすが、その手は虚しく空を切った。春山兄がひょいっと上に高く持ち上げたからだ。へにゃっと笑顔を作る春山兄。その様子を見て早川先輩が大きな溜め息と共に口を開いた。


「そのバッジは生徒会委員であることを意味するものだ。周囲を見てみろ」


 周囲を見渡すと、確かに生徒会委員の人達の胸元には小さなバッジが身に付けられていた。皆同じようなデザインだが春山兄と早川先輩のものだけ少し大きくデザインも複雑だ。


「つまり、そのバッジを剥奪されることが意味することは」

「嫌です!返してください!」

「生徒会委員からの脱退を意味する」

「何の権限があってこんなことを!認められませんよ!先生に訴えます!」

「あるよ~。君は生徒会長ではないからこの特権について知らなかったんだろうけどねえ」

「そんな!!」

「生徒会の特権は生徒間に有効。君も言ってたことでしょ?あ、表現少し違ったかな~」

「…っ!」

「その生徒会のトップの権限で生徒会の子を異動することはどうでしょう?ヒント!君は生徒。俺は生徒会長。あと、君がどうやってここに入ったかは覚えてるよねえ?」


 静まり返る教室。冷たい雰囲気が漂う。

 掴まれた手首が熱い。


「ちびちゃん」


 腕が震える。


「俺のこと、こわい?」

「…………少し」

「正直だねえ。良い子」

「…」


 何だこのラスボス感…。


 先程男子生徒からむしりとった生徒会バッジを親指と人指し指で挟み、高々と顔の斜め上に持ち上げたそれを眺めながら春山兄は上機嫌そうに鼻唄を歌い始める。以前聴いたそれと同じ筈なのに、愉快な音は奇妙な音として心に響いた。


「さて、どうしようマーマ。1つ空席ができちゃったねえ」

「そうだな」

「ここで本題でーす」


 ぐいっと手首が引っ張られ、春山兄の身体の前に立つ形になる。同時に生徒会委員全員の視線を浴びる。うぎゃーーー!!!!


「革命その1。この空いた席に8組のこの子を迎え入れたい」


 は…?

 はあああああああ!? ざわっ…


 私の心の叫びと共に教室が騒がしくなる。


「…それは少し無理があるんじゃないか?いくら生徒会長の指命であっても8組の入会を学校側が許すとは思えない」


 早川先輩が意見する。


「ふむ。そこの今生徒会権限を剥奪された子って確か特別枠の子だったよねえ」

「そうだな」

「特別枠ってどういう定義だったけ~?」

「…本当にお前はこわい男だな」

「賢いって褒めてほしいな~」

「…そういうことにしといてやる」

「ありがとうねマーマ。好きよ?」

「殴るぞ」


 呆然としていた男子生徒がハッとし、春山兄にすがりつく。


「嫌です!俺は絶対生徒会をやめない!」

「えー。でももう決定したからねえ。帰って良いよ~。今までお疲れさま。ありがとうね~」


 目が笑っていないとはこのことを言うのかもしれない。いつか弟を傷付けたら許さないと言われた日を思い出す。こんな目だった気がする。


「まっ…待ってください!」

「ん?どしたのちびちゃん?」

「自分の意思はどうなるんですか?生徒会をやりたくないって言えば、そこの…生徒会を追い出されようとしてる人は戻れますよね?」


 こんな形での生徒会入りなんてまっぴらだ。絶対に恨まれる。平和に暮らしたい私にとって重荷にしかならない。


「優しいね~ちびちゃんは」

「そんなんじゃないです」


 巻き込まれたくないだけだ。だけど元生徒会の彼を憐れに思ってしまった気持ちも少しある。どちらにしろこの場で下手に発言するのは火種を生む可能性がある。口は災いの元。


「それに自分の能力で生徒会に入れるとは思ってないです。不釣り合いです。ごめんなさい。お気持ちだけ受けとります」

「いーやちびちゃんは必ず委員会に入るよ~」

「…どういう意味ですか?」

「俺もまだ分からないんだけどねえ」

「…?」


 ダメだ会話が噛み合わない。分からないのに絶対入るって矛盾してないですかね…?

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