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はあーーーー!?
生徒会メンバーの面々が驚きの表情を浮かべている。でも私が一番驚いてるからな!
「お前はどうしていつもこう突然…」
早川先輩が頭を抱える。
心中お察しします。私も訳がわかりません。
「まあまあ、説明するよ~。その為に今日は皆に部活まで休んでもらったし、吹奏楽部については今日は休部にして部屋貸切状態にしちゃったしね」
「いやその前に私まで通達来てないですけど!」
「え~?そうだった?ごめんごめん~」
「酷いですよ…」
「なーんて…まあちびちゃんには来てほしかったから伝えてなかったんだけどね」
職権乱用…!
来てほしかったって何で…?というか議題にされてるけどまさか男装してることがバレた…!?
「まあ半分は賭けだったけどねえ。来るか分からないし。でも最近の動向とテスト期間暫く来てなかったことを加味すると多分来るかなとは思ってたよ~良い子だね~」
頭を撫でられる。こわい。こわいよ!
「その前に春山会長、そいつ誰ですか。8組の癖にここにいるとか…」
癖毛に眼鏡の男子生徒が突っ掛かってきた。感じ悪い奴だな。こいつも生徒会の一員か?
「もぉ~春山先輩で良いよ~。会長とか照れるし?」
「よく言うな…」
副部長…早川先輩が溜め息混じりに呟く。
「ぬふふ。その子はねえ、8組だからここにいるんだよ~」
「…?どういう意味ですか?」
「長かったなあ」
「…?」
「生徒会には様々な特権が付与される」
「早川副会長…存じ上げています」
「ならば会長クラスになれば更なる特権が付与されることは容易に想像できるだろう」
生徒会長。
一般の高校は分からないけど、この高校のそれは真のヒエラルキーのトップを意味している。1年の各トップ成績を収めた二人が生徒会入りを果たした。その生徒会の中のトップ生徒会長になるためにどういうプロセスが必要なのか具体的には分からないけど、恐らくとても大変な筈。
「権利と義務が一体化してるって意味では俺はこの高校の考え方好きなんだけどね~」
フニャッと笑う春山兄。
「毒を以て毒を制す」
「…?」
「目には目を歯には歯を」
「えっと…?」
「俺はね、これが正攻法だと思ってるの」
春山兄は何を言ってるんだろう?私達を見つめて説明をしているが、更に奥に目的を隠しているようにも見えた。
「生徒間の差別意識の払拭をしたい訳じゃないから安心して~。頑張ってる人がそうじゃない人を否定したくなる気持ちはあって当然だと思うしねえ」
まさかの肯定…。春山弟の方はその考え方に猛反発してたけどね。
「俺がやりたいのは、革命」
「は?」
思わず全員同じ言葉が口から出てしまった。
「平たく言うと生徒会の独立だよ。生徒会の意義は何かな~?はーいじゃあ、大路くん」
「辞書的な意味ですか?それとも僕の見解ですか?」
「ん~どっちでも良いよ~。大きく変わらないでしょ?」
「学校の指針に収まる範囲で生徒の自由意思や尊厳が守られるように活動を行う委員会です」
「そうだね~そんな感じだよねえ」
うんうんと頷く春山兄。役者みたいな動きだ。
「でも俺はね、その学校の指針に収まる範囲をもう少し拡げたいの」
「…?」
「三権分立ってあるでしょ。あの制度を学校の中にも確立したいのでーす」
「つまり…?」
「俺達は学校のルールに則って正式な方法で生徒会入りを果たしたよねえ。生徒会には特別な権限が認められてるけど、それは学校の規則の範囲内。場合によっては学校の規則をも変える権力をここにも確立したいってこと」
「三権っていうから目指す3つの機関はどこにしたいんですか?」
大路の声は楽しそうに弾んでいる。ちなみに私の頭は混乱してきている。何かすごいややこしいことに巻き込まれてる気がするというのだけは分かる。逃げたい!今すぐ走ってこの教室を抜け出したい!酸欠になってしまう!しかし春山兄の手は私の手首をがっちりホールドしたままだ。
「まずは生徒会、教師、教育委員会って感じじゃないかなあ」
「なるほど。でもここは私立ですし教育委員会は教育内容については関与しにくいのでは?」
「そうだねえ。まあ、そこは国と学校のお偉いさんのやり取りだから俺が直接的に関与できないよね」
国…!?スケール急に大きくなった気がするんですけど…。
「ファーストステップで俺がやりたいのは生徒会の地位の確立。今の生徒会の地位は生徒に対してのみ有効。でも学校に対してももう少し対等になれても良いと思うんだよねえ。生徒会の中心にいるべきは生徒の筈。だって会員は生徒で構成されてる訳だし?だけど現状中心にいるのはそうじゃない。理由は何でか?権力が学校に偏っているから」
革命。
春山兄が先程放った言葉が浮かび出てきた。
「皆に言いたいのは目的を…生徒会の独立に協力してほしいってこと。だけど俺はその目的を叶えるためにどういう手段を踏むか分からない。もしかすると皆が嫌がる手段を選択することもあるかもしれない。だけどその過程は全て目的のために存在している。そこを理解した上でついてこれる人はついてきてほしいんだ~」
「断った場合は?」
佐摩が興味のなさそうなトーンで口を開いた。
「勿論生徒会の特権を享受したいけど俺の考えに反対の人もいるだろうし、その場合は参加してくれなくて大丈夫だよ~。ただし先生にリークしたりした時点で俺の敵とみなすからそこは覚悟してね~。俺としてはついてくるか、関与しないかどちらかの選択肢で動いてくれると嬉しいなあ」
「分かりました。では申し訳ありませんが、俺は関与しません。頑張って下さい」
「えー大地もやろうよ」
「…涼介お前まさか参加する気か…?」
「え?だって面白そうじゃない?それに乗りかかった船だよ」
「いやまだ乗ってないだろ」
「ふふふ。それに…その子が議題ってことは、その子を利…えーっとその子が今からやる過程に関与してくるんですよね?」
生徒会委員一同の視線が私に集中した。え!?私!!?
「流石大路くん~鋭いなあ。そ。ちびちゃんを利用するんだよ」
「あはは。聞き逃してくださいよ」
「大路くんにしては珍しいミスだったからねえ。思わず。てへっ」
笑顔の会話に挟まれてる筈なのに寒気を感じた。こわいっ!本日何度目かの恐怖心に震えた。寿命の縮まりを感じる…。