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本来の目的を思い出し久々の吹奏楽部へ向かうことにした。
部室には珍しく人がおらず、一人の生徒しかいなかった。
「ちびちゃん久しぶり~」
「あ、お久しぶりです春山先輩」
「なーんか表情硬いけど何かあった?」
ありまくりだよ!
しかし私も大人だ。人の事情に首を突っ込んではいけない。
「…何でもないです」
「ほほーう」
「……」
「……」
「……」
気になるっ!!!
三嶋先輩…バスケ部で春山兄の愛する弟が所属する部活の部長ともあればこのヤンデレ兄貴は絶対リサーチ済の筈…。
「今何か失礼なこと考えたでしょ~?」
「!!!!」
いや、でも事実だし失礼なことには該当しないよね?
「誰かに何か言われたの?」
「私が言われた訳ではないので」
「ふむふむ?じゃあ誰かが何かを言われてるのを目の当たりにしてショックを受けちゃってる?」
「鳥木先生と三嶋先輩ってさく…あっ!違う!」
危ないところだった!
誘導尋問!これは立派な誘導尋問だ!
「あ~…」
春山兄の目が細められる。あまり見たことのない表情。
「えーっと…?」
「何を見たのかな、ちびちゃん」
「え?」
にこーっと笑顔でこちらを見る春山兄。何だろう目が笑ってない。そして疑問系ではなく有無を言わず答えろという圧力を感じる。こわいよ!
「なにも」
「三嶋はね、ちょっとした知り合いなんだよね~」
まただ。
この感覚に名前をつけるなら違和感、だ。
「あの…」
「なあに」
「春山先輩って3年1組…ですよね」
「ええ?どうしたの突然?」
否定しない。
「初めの自己紹介の時に副部長が1組で春山先輩と同じクラスたいなこと言ってたので」
「もぉーマーマ勝手にネタバラシしちゃって~」
「それでその…春山先輩はバスケ部ではないんですよね?」
「んー?その質問今答える必要ある?」
「はい」
「違うねえ。ケンケンがバスケを始めたのも俺がやってないからだった位だし。反抗期でしょ~?」
春山…。ヤンデレ兄貴の愛は向けられると重いものなのか?
…ってそうじゃなかった!うっかり流されるところだった。危ない危ない。
「三嶋先輩も」
「待ってちびちゃん。俺ばっかり質問に答えて狡くない?俺のにもそろそろ答えてよ」
「私のは質問じゃなくて確認です」
「ふむ。じゃあ俺の確認にも答えてくれるってことだよね?」
足下を掬われたーーー!
「あー…」
「三嶋と誰かのやりとりを目撃した?」
それもそうなんだけど…。
思わず佐久間さんと鳥木先生の濃厚なキスシーンと鳥木先生を想う三嶋先輩の表情を思い出す。
「あはは、ちびちゃん顔真っ赤だよ。本当何見たの?気になるな~」
「いや…鳥木先生ってモテモテなんだなって」
「ちびちゃんも鳥木先生好きなの?」
「も!?えっ!あ、いや」
「三嶋ね~分かりやすいもんねえ」
「ええええ!?」
そうなの!?
あれ分かりやすいのか…全然気付かなかった…。
「でもね、三嶋のあれは愛じゃないよ。崇拝に似たものを愛と勘違いしてるだけ」
愛について語り始める春山兄。弟に対するあの愛の深さを見ればどの愛情も浅く感じるのかもしれない。
「あの…」
「昔々あるところにとっても仲良しの二人の男子小学生がいました」
「え…」
「二人はとあることがきっかけで教師を目指すことに。しかし運命は哀しきかな。高校生になった二人の生徒は別々の方法で革命を起こそうと躍起になるのでした~おしまい」
「突然何言って…」
「俺と三嶋の昔話だよ」
革命…?
「ちびちゃんは俺の部活居心地良い?」
「…はい?」
急な質問に驚き語尾が上がってしまう。
「えー疑問系?」
「え、いやこの高校とは思えない雰囲気ですごく居心地が良いというか」
「あははー正直だね~。でもそうだよね俺もそう思うよ。すごく封建的」
「そう…ですね」
でも1組の春山兄からするとこの高校の制度は好ましいものの筈。深く言及しないでおこう。
「ちびちゃんさえ良ければ」
音楽室のドアが音をたて、夕陽に作られた黒い影が足音と共に中に入ってくる。
「春山先輩」
「あ、来たね~おつおつ」
大路!?
何でこいつがここに!?まさか吹奏楽部だったの!?
「あれ?どうして日向くんがこんなところにいるの?」
いやいやこっちのセリフだわ!!!
大路に続いてぞろぞろと生徒が入ってくる。見覚えのある顔があと二人いる。吹奏楽部副部長の早川先輩と佐摩だ。でも他の生徒は普段よくいる吹奏楽部のメンバーではない。幽霊部員の人達か…?
「んふふ~驚かせちゃったかな」
「今更」
「全くです」
「いつも通りですよ」
「それで何なんですか臨時委員会って」
……………ん?
「その名の通りだよ~」
「お前を補佐する俺の身にもなれ」
「マーマ頼りにしてるっ」
「それで?臨時委員会ってどういった議題なんですか、春山生徒会長」
………え?
ええええええええええええええええ!?
まって!春山兄が生徒会の生徒会長…!!?
というかそもそも何でこんなとこで…いやその前に私ここにいたら邪魔だろ!早く出ないと!
急いで身を翻そうとすると春山兄に手首を掴まれた。何で!?
「今から話すよ。皆適当に座って~。それでは改めてお集まりいただきありがとうございます~。それでは臨時委員会を始めます。今回の議題はこの子、1年8組日向渚についてです」