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「三嶋…」

「鳥木先生!大丈夫ですか!離れろ佐久間!」


 叫びながら走ってくる三嶋先輩…確かバスケ部のキャプテンだった気がする。


「良いよ。終わったらね」


 そう言うと佐久間さんが鳥木先生の唇に口付けた。

 鳥木先生の目が驚きで見開かれる。

 体を引き離そうとしているのか手が少し動いているが、男子高校生の力は男の力としてかなり発達している。抵抗も虚しく全く動じずといった感じだ。

 二人のキスする様子が視界に入り、私の目も三嶋先輩の目も見開かれた。


「…!!お前…っ!!!!」


 ガンッと大きな音がした。同時に佐久間さんがよろける。

 三嶋先輩が佐久間さんを殴った音だった。

 そのまま三嶋先輩が鳥木先生を庇うように佐久間さんの前に立ちはだかった。

 佐久間さんの殴られた口元は鬱血し、血が滲んでいる。


「いった…狂暴だね」

「お前何したか分かってるのか!!」

「キスしただけだけど?」

「だから何してんだって聞いている!」

「キスくらいで騒がないでよ。羨ましいならお口直しに君もしてあげれば良いんじゃない?」

「お前…!!」

「良いじゃん。先生もキス気持ち良かったですよね?」

「…!!!!もう1回殴られたいのかお前!!!」

「俺は君じゃなくて鳥木先生に聞いてるんだけどなあ」

「佐久間!!!」


「もういい三嶋!」


 鳥木先生が制した。


「でも!!」

「佐久間。お前の要望は分かった。今度説明してやる」

「今してほしいなあ」

「今度だ」

「約束ですよ」

「…分かった。その代わり私の言うことも聞けよ」

「それはお話が成立した後に考えますね。ひとまず今は引きます」

「待て佐久間!」

「三嶋!構うな!」

「でも!!」

「忠犬をお持ちで羨ましいです。今度は逃げないで下さいね、鳥木先生」

「おい佐久間!」

「それではまた」


 すっと目を細めて微笑みながら立ち去っていった佐久間さん。

 三嶋先輩と鳥木先生は佐久間さんと顔見知りっぽかったけどどういう関係なんだろう。良い関係には見えなかったけど…。

 あまり近寄ると危険な人という印象は元々あったけど、色々と謎が多い人だ。


「鳥木先生。大丈夫ですか?」

「…私の心配なんてしてんじゃねえよ。何様になったつもりだ三嶋」

「…すみません。つい…」

「それより何でここにいる?」

「今日は顔を出される予定だったのに部活に中々いらっしゃらなかったので」

「…そうだったな。悪い」

「…いえ。俺は…俺こそすみません」

「はあ?何に対する謝罪だよ」

「………すみません」

「もういい。日向忘れんなよ。お前が言ったことは半分正解だ。それだけ答えとく」

「あ…?はい???」


 繰り広げられたドラマのようなシーンが頭の中を反芻し、何を言われたのか上手く入ってこなかった。


「あと三嶋。着替えてからすぐ行くから先に戻って部員に指示出し頼む。じゃあ、あとでな」

「…………はい」


 立ち去る鳥木先生を苦しそうな表情で見つめながら三嶋先輩が小さな声でぽつりと呟いた。


「すみません…鳥木先生。あなたのことが守れなくて。守りたいと思ってしまって」


 その声色には先生に気付いてほしいと感じている気持ちと、絶対に気付かれないように制御しようとする理性が混沌としている悲痛な叫び声が込められていた。


「…………すみません。あなたのことを…好きになってしまって」


 ………………………ん?

 …好き!!?

 なんと!生徒と教師の禁断の愛だと!!!

 いや、佐久間さんと保健室の…名前忘れたけど保健室の先生もそういう関係だった気がするんだけど何か違うというか。

 三嶋先輩の目には鳥木先生だけが映っていて。一言でいうと純愛なんて表現がぴったりと言うか。あああっ切ない!


「うわっ!!お前いつの間に!?」


 一人悶えていた私に気付いた三嶋先輩。

 あ、やっぱり私のことは視界に入ってなかったのか。


「あ、はは。どうも?」

「……お前さっきの聞いてないだろうな」


 さっきのって鳥木先生への愛の告白のこと?届かぬ愛の告白のこと!!?

 何故か私の方が赤面してしまう。

 いや、だって仕方ないよね?あんなの自分に対して言われたらって想像するだけで切なすぎるし。何よりドストライクすぎて。


「ええっ!?聞こえてないですけど!何も!!」

「…思いっきり目が泳いでるぞ」

「…!!」

「あーくそっ。はあ。もういい。俺のミスだ。聞かなかったことにしろ。いや、違った。お前は今俺の質問に対して何も聞こえてなかったと答えた。そうだな?」

「はい」


 この流れは面倒事を回避できそうな雰囲気だ。良かった。


「…?お前の顔…見覚えがあると思ったら体験の時に春山と日浅と一緒に来てた…?」

「あ、はい。行きましたけど」

「…ん?待てよ…」


 何かが引っ掛かったのか顎に手をあて、何かを考え込む三嶋先輩。


「…あの。何か?」

「…いや違うか。それにしても似てる気が…」


 ぶつぶつと呟く三嶋先輩。さっきも思ったけどこの人集中するとその一点以外五感全てが反応しなくなる性質なのかな。ある意味アスリート向け…?

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