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5月下旬。
高校入学初めての中間テストが全て終わり、用紙が回収され教室は賑やかさを取り戻した。と言っても8組は学力以外の成績優秀者の集まりだけあって、そこまでピリついた雰囲気もなかったし、部活動も普通に行っていた生徒が大半だった。
私も人並みには勉強した。だってできるなら良い成績とりたいし。
「終わった~」
「何でそんな疲れてんの?どうせ勉強してないでしょ」
「したよ!!」
「ふうん」
相変わらず失礼だな。日浅め。
テストも終わり、回答用紙を後ろから前に回すタイミングで小声で話しかけられた。
「一応、テストの結果次第で色々優遇処置もあるみたいだからね。可能性がある限りは頑張るよ」
「………なに。マル1組にいきたい訳?」
「というよりは」
「ええっ!!?」
日浅と会話していたら急に矢田くんがこちらを凝視しながら大きな声をあげた。表情は驚きで満ちている。こっちが驚かされたんですけど…。
「うるせえよ矢田」
「あっ…すみません」
鳥木先生が矢田くんを睨む。こわっ!
こちらの会話には気付いていなかったようで私も日浅もしれっとした顔で前を向いている。悪い奴でごめんね矢田くん…。でも鳥木先生怒るとこわいんだよ。許して。
「中間テストは今日で全日終了だ。お前らにはあんまり関係ねえかもしんねえけど技術がなくなったときのために備えとくことも必要だ。備えあれば憂いなしってことわざもあるしな。ってお前らには分かんねえか」
「…どういう意味だっけ?まいっか」
隣の生徒がぼそっと一人言を呟く。まじか!?
「さて。じゃあ終わりだ。あっ。言い忘れてた。このクラスには関係ねえと思うけどカンニングは退学だからな」
「停学とか再試験じゃなくて退学なんですかー?」
「挙手しろっつってんだろ村上。当たり前だ。ドーピングとか盗作と同じ行為だと思えよ」
このクラスの人物に分かりやすすぎる喩えだ。皆納得したように頷いている。
「おーしひとまず終わりだ。ホームルームも今日はなしだ。疲れもたまってるしな。私が。じゃあ解散」
適当すぎる…。
………
「日浅くんっ!日向くんっ!」
ホームルームが強制終了され、放課後になった瞬間矢田くんが私と日浅の机に一目散に走ってきた。
「なに」
少し鬱陶しそうな声で返事をする日浅。分かりやすいな。
「さっきのってやっぱり…」
「さっきの?」
「あっ…あのマルって」
「うん」
「あの、その、マルって誰のことかなって…」
「そこに座ってる人のことだけど」
「特別な呼び名…」
遠いところを見つめながらぼんやりとした瞳で呟く矢田くん。大丈夫か…?
「やっぱり二人は…そっか…距離が縮まったんだね」
やっぱりって何が?
でも春山のお陰で少し近付けた気はするしここは自信をもって答えてしまおう。
「お陰さまで」
「ああっ!ぼ、僕部活行かなきゃ!じゃあねっ!」
そう言うとあっという間に駆けていった。速い。矢田くんって陸上部とかなのかな。今度聞いてみよう。
「なんか早いよね」
「なにが」
「入学して、中間テストが終わって、また期末テストがきたら今度は」
「何なのあんた。婆さんみたいだよ」
「…!っ失礼だな!」
一瞬ドキッとしたけどふっと冷静になる。
婆さんって…。でもそっか。女の子同士でもおじさんくさいよ~とか言い合ったりするし、男子もそういうのあるのかな?心臓に悪い冗談ばっかり言うのはやめろ日浅。
「…ねえ。あんたさ」
「ん?」
「双子の妹がいるって言ってたけど」
「………そうだっけ?」
「露骨」
「えっ」
「目泳ぎすぎ。誤魔化し方下手すぎ」
「!!!」
「…もしかして」
「哲ーーー!!部活いこー!」
春山がどどーんと入ってきた。
6組もホームルームなかったのか?ここの先生たち職務放棄しすぎだろ。
「…分かったけどうざい」
「いっこいっこいっこー!じゃあな渚!また来週!」
そう言うと日浅の腕を組んでルンルンと連行していった。
日浅何か言いかけてたけど何だったんだろう?気になるけどまあ良いか。
私も久しぶりに部活にいこう。テスト勉強で1週間位行ってなかったし少しだけ楽しみだなあ。




