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私の初図書委員カウンターのお仕事は八木先輩と一緒だった。
門倉先生は基本的におらず、司書の先生が基本的に一緒に担当してくれるらしいのだが、急用で早退してしまったらしい(矢田くん談)。矢田くん何で知ってたんだろう…謎だ。
それにしても八木先輩には正直苦手意識があるから二人きりは避けたかったんだけどなあ…。八木先輩って3年生でしかも1組で受験もあるのにカウンター担当を請け負うなんて少し変わり者なのかもしれない。私だったら多分とんずらかいてると思う。
「日向」
「はい!?」
いかん。邪推がばれたのかと思い変に緊張する。
「そこの本棚に返却された本を戻す。ついてこい。戻し方を教えてやる」
「分かりました。ありがとうございます」
…あれ?意外と良い先輩なのかも?
本を数冊持ち、先輩について行く。
「この本はそこだ」
…高い。
高身長とは言えない私には指差された本棚の位置は少し高かった。意地悪な人だな。
「…」
「どうした早く戻せ。本は落とすなよ」
いや届かないから。
「さっさとやれ」
指示はくれるがすべて自分でやれとのご命令みたいだ。
パワハラだ!
「お前やる気はないのか」
「まあ」
そう回答するや否や持っていた本を数冊無理矢理奪い取られた。
「何するんですか!」
「お前が遅いからだろう。嫌なら早く戻せよ」
「…」
先輩の腕にある本を数冊奪い返し、イラッとしつつも本棚に戻していく。
「お前本当に背が低いな」
「はあ」
「顔も女みたいだ」
静止。
心臓に悪い。
「…コンプレックスなので」
男に間違われることが、なんだけど。
「そうか。気に障ったか?」
「はいって言えば謝ってくれるんですか?」
後ろを振り向き睨み付ける。
…近っ!!
いつの間にか先程よりも至近距離に近付いてきており驚き、思わず距離をとろうと後退すると肩が本棚にあたった。
「どうした?続けろ」
「…近いです?」
八木先輩の手が頬に触れる。
「本当に男には見えないな…」
「…女に見えるんですか」
「いや。女ならこんなことはしない」
…………こんなこと?
「…えっと?先輩?」
「日向…」
「!?ちょっ…!」
八木先輩の顔がそのままゆっくりと近付いてきた。
必死に顔を背けると頬に熱いものが押し当てられた。
「ちっ…避けるなよ」
「!?」
避けるわ!
「いや本当に何してるんですか!」
「お前もそんな顔してるんだ。今までだって経験あるだろう?男子校に入学してくる位だし」
何言ってんのこの人!?
「いいいいいいやいやいや!無理です!むり!」
「煽ってるのか?」
ダメだ会話が成り立たない!
その前にこの人、私のことを男だと思ってこの行動を起こしてるの!?尚更理解不能だし何この…えええっ!?
「いやいやいや!本当に無理なので!!」
胸板を押して距離をとろうとすると両手首を捕まれ頭上に縫い止められた。…縫い止められた!?
待ってこれ女としてやられてるなら少しときめくのかもしれないけど、男だと認識された上でやられてるなら色々と複雑すぎるんですが!?
「嫌がられると益々燃える」
へっ…へんたいだーーーー!!!!
…………落ち着け私。
このままだと色々なものを失ってしまう気がする。
冷静になれ。この状況を打開する方法を考えるんだ。
「せせせ先輩はっ!彼女とかいますよね?こんなことしたら嫌な思いさせちゃいますよねえっ!?」
「ふん。自分のことより俺の心配か。安心しろ。女には興味がない」
余計安心できないわ!!!
会話もさっきから全く噛み合わないよ!
先輩の左手が本棚に手をつき右手が顎をとらえて顔を固定される。
危機感マックス…!
「やっ…めてっ!私っ女です!!!」
気付いたときには大声で叫んでいた。