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めっ、めっめんたい~こっここー♪めっ、めっめんたい~こっここー♪
アラームの音で目を覚ます。同時にぶっと吹き出し笑いが耳に入ってきた。
「日向本当うける!何そのアラーム音!うははははっ」
春山だ。
大笑いしている春山をまだ開ききらない目でぼんやり見つめたままこいつ誰かに似てるなと思う。
誰だっけ…。眠い。思考が追い付かない。
「君のお母さんが送ってくれたものと一緒だろ。お母さんに謝れ」
「なんでだよっ!まあでもうちの特産物と一緒ではあるから嬉しかった!お前の明太子への愛を感じたぞ。くくくっ」
「…もういいよ。それよりもうこんな時間か。そうそろ体育館向かうから。またね」
「なんだよつれないな。せっかくなら一緒に行こうぜ!」
なんか大型犬になつかれた感じだ。少し面倒には感じるものの悪い気はしなかった。
「良いけど、何で私の居場所分かったの?春山君ストーカーなの?」
「…わたし?え…?」
!!!しまった!またやってしまった!
「あっ…えと、その…」
「お前まさか…」
ま、まずい!
女性禁制にすることで勉学一本化に集中するこの高校では、私の性別は卒業まで隠し通すことを条件に入学させてもらっている。
もしばれたら兄弟姉妹校への移籍が決まると入学許可証兼契約書に書かれていたっけ…?どうしよう!
「お坊っちゃまか!!!」
「!?」
斜め上の回答が飛んできて違う意味で絶句した。
「いやーなんか妙にお行儀良いから、何となくそうかなって思ってたんだ。でも俺らまだ学生だしさ。せめて俺にだけは肩肘張らず、普通の一人称で接してくれても良いんだぜ。勿論無理にとは言わないけどさ」
なっ!と言って両肩に手を置き、にかっと笑顔を向けてくる春山。
よ、良かった…。ヘマしたのがこいつの前で…。それにしても改めて良い奴だなと思い、少し口元が緩む。
「あー!笑った!!日向初めてちょっと笑ってくれたな。これからも一緒に学園生活楽しもうぜ!クラスも一緒だといいな!」
「そうだね。春山君といたら楽しそうだ。一人称は普段自分って使うんだけど変って思われると嫌だなと思って」
そういう設定にしておこう。
「なるほどな。確かに珍しいかも?あっ!あと俺ストーカーじゃねえし!つーかするなら野郎じゃなくて可愛い女の子にするし俺だって人を選ぶよ!朝ジョギングしてたら変な着信音聞こえてきて辿ってきたら日向がいたんだよ」
「待って。君まさか制服のままジョギングしてたの?」
色々突っ込みたいけど、最も突っ込みたいところだけを指摘する。
「そそ。負荷をかけたり、いつもと違う条件でも全力出せるようにトレーニングしてた!」
「制服高いんだから。傷むよ」
「いやもう主夫かよお前!?うちの母ちゃんみたいなこと言うなよ~」
「お母さんが出してくれた学費で制服買ってるんだからさ。大事に使いなよ」
「分かってるって!俺プロになってビッグになったら家族に恩返しするって決めてるし!」
ほう。中々素晴らしい思考だ。
「へえ。良い心掛けだね」
「だろー!その暁にはお前も友達1号として明太子茶漬おごってやるよ!」
「ありがとうございます」
「急に丁寧だな」
「まあそれは。よし、そうそろ行く?」
うーんと伸びをする。少しすっきりした。
「おう!式の後にクラス発表だっけ?カリキュラム表も配られずにとりあえず入学式の日時と集合場所だけ案内の手紙がくるとか不思議な学校だよな。都会だとみんなこうなのかな」
「どうだろうね?よく分かんないや。とりあえず式まであと15分だ。急ごう」
「おっし!じゃあ肩貸してやる!」
「は?ちょっ…!」
そういうや否や春山にひょいと持上げられ、肩にのせられた。
「この方が早いだろ!」
いやいや目立つよ!何してんのこのサル山!
そんな暴言を心の奥底で叫びつつ、結局肩の上で揺られて春山バスに身を任せる。
案外乗り心地も悪くない。
春山は多分すごく良い奴だ。
不安とプライドでガチガチに固めた気持ちは少し重荷になっていたのかもしれない。肩の荷が少し下りた気がした。