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部活終わりに改めて話しに行くことにして私も部活動に向かうことにした。
「あ」
前方から声が聞こえてきて、男子生徒が手を振ってきた。
「今から部活?」
「はい」
大路だ。
今日もきらきらしたオーラを纏いながら眩しいことで。
「前から思ってたんだけど、君はどうして僕に対して敬語なのかな」
「…さあ」
自分の行動を回顧しろ。
さすれば道は拓かれん…。
「もしかして少し虐めたことが尾を引いてるのかな」
「…!」
自覚ありですか…。
くすくすと笑いながらこちらを見つめてくる大路。
「部活は急ぎかな?」
「いえ」
「そっか。調度良かった」
何が?
「実は君と春山くんに話しておきたいことがあってね。春山くんは6組だったよね?大地もいるし調度良いね。一緒に6組まで付いてきてもらっても良いかな?」
「何でそんなこと」
「そう言えば入学式の日に言い争いに巻き込まれて戸惑ってる人を助けてた人がいたよね」
「………行きます」
これからは大路に借りを作らないように注意しよう。
ってあれ?メンバー的に話したいことってもしかして…。
「もしかして今から話すことってあの時の話し合いの結果ですか?」
「察しが良いね」
「じゃあここで言ってくれれば良いのでは?春山くんには佐摩くんから伝えてもらえれば良いと思うし」
「大地が説明すると思う?」
「ああ…しなさそう」
「それに今、君忘れてたよね?」
「…」
結構前のことなんだもん。
一月も経てば忘れるよ。だって、人間だもの。
「君が忘れることを春山くんが覚えてくれてるかな?」
「ああ…」
論破されまくりだ。
あまり面識ないのに見破られてるぞ春山。そして何気に失礼だな大路。
「二人に一回で説明した方が早いからね。質問も含めて一括で答えた方が君達も情報共有できるしwinーwinの関係だよね」
「まあ確かに効率的ですね。分かりました。行きます」
大路は確か1組だったよね。ってことは1組から歩いてきたのか。結構遠いよな。1組…春山…春山兄…あれ?
「以前一度だけ春山くんのお兄さんと大路くんが一緒にいるところを見かけたことがあるんですが」
「ああ?あったね」
「接点がなさそうに見えるんですけどどういう経緯というか…何を話してたんですか?」
「あはは。あれね。入学式の話を誰か伝いに聞いたんだろうね。僕と大地に釘を刺しに来たんだよ」
え?
「弟がお世話になったみたいだねって」
こわっ!
こわすぎだろあのヤンデレブラコン兄!!!
「それにしても本当色々な意味で面白いお兄さんだよね」
「まあ…それに関しては否定しないです」
「ふふふ。春山くんと春山先輩真逆で面白いよね。わざとずらしてるのかな」
「…?笑った顔は似てると思いますけど」
「容姿の話じゃないよ」
「ええ?」
性格が真逆…?
似てそうな部分もあると思うけど。捉え方次第なのかな。
「そう言えば仲良しと言えば最近一人メンバーが増えたよね」
「何のですか?」
「8組メンバー。移動教室とかお昼に見かけたときに前は日浅くんと二人きりだったよね。最近もう一人いるじゃない?」
「あー!矢田くん!」
「日浅くんの大きさがより際立っちゃうよねえ」
「彼はまあ…色々異空間を生きてて理解しにくいですけど」
「ふーん…」
大路が急に距離を縮めてきた。横並びに適度なパーソナルスペースを保ちながら歩いていたのに崩される。
「ねえ。渚」
「…何ですか?こけそうなんですけど。狭いです」
少し距離をとろうと逆側に寄ろうとするも詰められる。
こけるわ!幅寄せか!?道交法違反で訴えるぞ!
「歩みを止めない君が悪いよ。それは置いといて…」
「?」
「前に僕に対して名前の呼び方について聞いてきたことがあったよね。僕も同じ質問をしてもいいかな?」
「?」
「日浅くんと渚は何て呼びあってるの?」
「…何で彼の名前が出てくるんですか?」
「この前春山先輩と話してたときにそんなワードが出てね」
「どんなワードですか」
「聞き方を変えようか」
「何でしょう」
「日浅くんのことは何て呼んでるの?」
「…さあ」
「さあって?」
「名前で呼んだことがないので」
「どうして?」
「あれ?渚と大路だ!」
急に聞こえてきた声に視線を向けると春山がいた。
「…本当間が悪いなあ」
ぽつりと大路が呟く。
「え?」
「いや、何でもないよ。君達に話したいことがあって来たんだ。大地もまだ中にいるかな?」
「佐摩…いた気がするけど」
春山本当に顔に出るよね。
ちょっと露骨すぎるぞ?
大路が佐摩を呼びに行った。
「おっす渚!昨日ぶり!哲とは仲直りできた?」
「…まだかな。むしろ彼許す気あるのかな。このまま一生許さないつもりかもしれない」
「どんだけ怒らせたんだよ…」
「うう…あ。戻ってきた」
大路が佐摩と横並びに戻ってきた。
「お待たせしました」
「おい涼介。勝手に巻き込むなよ」
「この件に関しては僕は巻き込まれた側だと思ってたけど」
同意。
「さて。本題だけど大地と春山くんのバスケの何軍配属かによって優劣を決めることは認めるけど、勝敗の結果で組の異動は認めないっていうのが先生たちの回答だったよ」
「どちらにしろ俺も春山も一軍配属だった。ただ鳥木先生の采配で俺と春山は暫く同じチームでのプレーは珍しいから試合に出るときの順番は勝負して決めることになった。その順番を俺達の勝負にしろということらしい」
あれだけ大々的に二人の勝負を公示しておいて意外にも放任主義だな。
「おそらくあの時の二人のやり取りはパフォーマンスとして最高だったからあんなに目立たせたんだろうね」
「どういうこと???」
春山が困惑した顔で聞いた。
「あの時の二人の言い合いは一軍、二軍、三軍を印象付けるのに最適だった。特に新入して間もない僕らに意識を種付けする必要があったんだろうね。勝者絶対の原則。この高校の校風ともいえるものだよね。だから先生達は黙認していた。言い方を変えると二人とも利用されたんだよ」
「なっ!教師なのにそんなことあるわけ…!」
「それを証拠に僕らが裏で決着をつけようとしたら無頓着だ。勝手にやれってね。勿論勝敗の結果は大事だけど、その結果が高校のレールを外れることは許さない」
「どういうことだ?」
「だから、6組の配属が勝敗によって8組に落ちる部分は認めなかっただろ?何軍配属にするかは恐らく学校にとってキーになる部分。その点をコントロールできるのは先生ってこと。つまり先生と生徒の間にもヒエラルキーがあることを暗示してるよね」
「…訳わかんなくなってきた」
大路の丁寧な説明でも春山は理解が追い付いていないようだ。
「うーん。簡単にまとめると、勝負するのは勝手だけど学校の定めた範囲内でやることって回答かな。あと一軍の上に教師がある。多分生徒よりもこの学校を守ることが一番大事なんだろうね」
「ふーん…。まあいいや!そしたら佐摩!試合の出場順の勝負買った方が一週間なんでも言うこと聞くってのでどうだ!」
「勝手にしろ。俺はお前と違って暇じゃないんだ」
「良いじゃん!この前の試合お前のプレーすごい良かったよ!」
「…なんなんだお前は」
少しずつ仲良くなってるみたいだ。良かった~。