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46.5(閑話)

 僕の名前は矢田博明(やだひろあき)


 細身で背も小さく、顔もパッとしないせいか昔から気の強い連中に絡まれることが多かった。


 この日もそうだった。

 部活動の帰り道、同じ部活の1年6組の3人組に絡まれていた。


「やだ~ヤダヤダ~イヤーンヤダくう~ん」

「かっ返してよ!僕のリュック!」

「高校生にもなってダサすぎだろ!形もふるー」


 リュックの型は確かに古かった。僕の使っているリュックは今は亡き母が僕が高校生になったときのために用意してくれていたプレゼントだった。

 母は僕が小さいときに交通事故で死んでしまった。そのため、母の記憶はあまりない。だけどそんな母からの思い出の品ということもあり、いつもは諦めて帰る僕も必死に取り返そうと躍起になっていた。


「それはっ!大切なもので…うっ!」


 思いっきり脇腹を蹴られる。


「8組の癖にさ。三軍が一軍にタメ語使ってんじゃねえよ」

「ううっ…」

「だっせー」

「お願いします!返してください!」

「ちょー必死じゃん」

「お願いします!それは…そのリュックは!」

「高校生の癖にこんだけ泣きじゃくってさ~このリュックズタボロにしたらもっと面白くなりそうじゃね?」

「良いね~名案」

「やめてください!そのリュックは僕の母から貰った大切なもので…!」

「きっも!こいつマザコンじゃん!」

「うっわあ~きもさの骨頂!」

「ぎゃはははっ!うえっぷ!?」


 笑っていた3人組のうちの一人の顔にバスケットボールがぶつかった。


「いってーな!誰だよ!」


 振り向くとすごく大きな人が立っていた。


「あんたこそ誰」

「はあ!?」

「どうでも良いけどうるさくて寝れないんだけど」

「どこで寝てんだよお前!あと何組だよ!」

「あんたさ、俺の質問が聞こえないの?」


 大きな彼は一歩、こちらに歩みを進める。

 3人組の身体がびくりと震えるのが視界に入る。自分の身体も震えていたことに気付いた。すごい迫力だ…。


「ねえ。聞こえなかった?」


 そう言うと、僕のリュックを持っている6組の生徒に近付いていく。


「ひっ!」

「そのリュック置いてさっさと帰ってくれる?」



 ビリビリと怒気が伝わってくる。




 こわい。




 僕に投げ掛けられた言葉じゃないのに。



「お、おまえなんかっ」

「うざいよお前。怪我したいの?」


 先程よりもツートーン程低い声音で凄む大きな彼。


「ひいっ!!すっすみませんでした!!!」


 彼の凄みに負けて呆気なく退散する3人組。

 いや、負けるに決まってる。あんな怒気を放たれたら僕なら失神してたかもしれない。


「待って」

「ひっ!?」

「リュック置いていけって言ったよね?俺」

「あっ!はひいっ!」


 そう言うとリュックを大きな彼に渡し、3人組は帰っていった。


「あ…の」


 恐る恐る話し掛ける。声が震える。でも大切なリュックだから。


「はい」

「あっありがとうございます!本当にありがとうございます!これは母の形見で…っ!ううっ…こわかったよおおお」

「…」


 思わず泣き崩れる僕を見つめて、泣き止むまで側にいてくれた大きな彼。



 震えが止まり、落ち着きを取り戻し泣き止んだときにぽつりと彼が一言呟いた。


「聞こえてたよ」

「えっ?」

「そのリュック」

「え?」

「…俺も」


 …?


「えっと何の話…?」

「…忘れて良いよ。じゃ」

「あっ!待って!日浅くん!」

「なに。つかあんた何で俺の名前知ってんの?こわいんだけど」

「僕っ!同じクラスの矢田です!あのっ…この恩返しをさせてください!僕、ここにいる間は日浅くんの舎弟になります!」

「は?いらないし」

「ええっ!?」

「こわいよあんた」

「でも僕っ!」

「舎弟って何?クラスメイトなのにその関係性おかしくない?」

「あ…じゃあえっと…」

「なに」

「あっの…もし…僕の自意識過剰でなければ…その…」

「早く言ってよ。日が暮れる。もう暮れてるけど」

「僕と友達になってください!!!」

「なんで?」

「ええっ!?」


 こうして僕たちは友達になった。

 この経緯を日向くんに話したとき、「こうしてってどういう流れで友達になったのか全然分からないんだけど!?」と驚かれた。僕的には充分なんだけどなあ。

 日浅くんが他人に対しての攻撃的な威圧感をあそこまで露にしたのはリュック事件…あの一度だけだ。怒ったのは不機嫌だったのか偶然だったのかもしれないけど、とても嬉しかった。


 8組に配属された当初は毎日憂鬱だった。だけど今はそんな8組に配属されたことを好ましく思っている。それは彼等のおかげかもしれない。


 日浅くん、日向くんは僕の数少ない友人だ。彼等は少し似ている。

 二人とも僕と違って整った顔立ちをしているのに何故か前髪で顔を隠している。近くで見ると端整な顔立ちをしていることは一目瞭然だ。日浅くんは背も高くてクールで涼しげな顔立ちだし、日向くんは美少年って言葉がぴったりだ。勿体無いなといつも思う。昔読んだ本におでこを隠す人は何か隠し事をする癖があるって読んだことがあるけど何か隠し事があるのかな?でも皆隠し事くらいあるよね。僕だっておへその形が変なこと皆に隠してるし。


 そして僕は彼等の秘密を知っている。

 日向くんを見る日浅くんの眼差し。日向くんも満更でもないみたいだ。日浅くんに無視をされた直後、彼のことをじっと熱のこもった目で見つめていた。

 彼等は禁断の愛を育もうとしているに違いない。僕はそのキューピッドになろう。だって日浅くんは僕の恩人で日向くんは僕の大切な友達だから。

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