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日浅と口論した翌日の朝。
「おはよう」
有言実行。
朝一で教室に入るなり前の席の日浅に挨拶をした。
ちらっとこちらを一瞥してから視線を戻す日浅。
無視かよ!
「おはよう」
だけどめげない。
私は強い子だ。
善は急げ。善は急げ…。
「…」
無反応。
眠いのか?
「おはよう日浅くん、日向くん」
今来たのだろう矢田君がリュックを背負いながらこちらに向かって挨拶してきた。
「おはよう」
「んー」
あ。
反応した。
これは昨日の謝罪をするチャンス…!
「えっと少し話したいことがあるんだけ」
ガタッと席をたち、そのまま窓際に向かって歩いていく日浅。
「あれ…?えっと…」
私と日浅を交互に見ておろおろする矢田君。
何あれ感じ悪い!
いつか日浅がしたように腕をつかんで制止させる。
「………なに」
露骨に不機嫌そうな声を出す日浅。
顔は窓に向いたまま。
「無視とか感じ悪いよ」
「あんたが大好きな矢田と話しとけば良いじゃん。俺と話してもあんたイライラするだけでしょ」
「…何その言い方」
「腕離した方があんたのためだよ」
「腕を離してほしいのは君だろ。自分のためにはならない」
話ながらも日浅は目を合わせてくれない。
こうなったら根比べだ。
まともに会話できるまで腕を掴み続けてやる!
「おーいホームルーム始めるぞ。お前ら早く席つけ」
鳥木先生が教室に入ってきた。
「早く離せって。俺まで罰則対象になりかねないんだけど」
「まともに話してくれるなら手を離すよ」
真っ直ぐに日浅の瞳を見つめながら言葉を放つ。
しかし視線は変わらず一方通行のままだ。
「…またお前らか。おい日コンビ。いちゃついてねえでとっとと座れ。減点すんぞ」
日コンビ!?
何か勝手にコンビにされてるーーー!あといちゃついてないわ!
色々とつっこみたいけど今は別の優先事項がある。
「…構わないです」
「俺は構わなくないんだけど。あんた本当ハルに似てるよね。あんたの我が儘でクラスの時間巻き込まないでよ」
うっ!
入学式の春山を思い出す。
めちゃくちゃだとは思うけどこうなったら後に退けない。
「自分達は立ってるだけなので気にせずホームルームを始めてください」
「いやすげえ気になるから」
…ですよね。
「良いから座れ。ケンカなら後でやれ」
「ケンカじゃないので」
「知らねえよ。どっちでも良いけど私の邪魔すんじゃねえよ」
俺様ーーー!
鳥木先生は生粋の俺様君だ!女だから俺様さん!?あっ!女性だから女王様!?でも何でだろう俺様君の方がしっくりくるな…。
「良いから座れ。日浅お前の腕力なら日向突き飛ばす位できんだろ。巻き込まれてるなら早くそいつひっぺがして座れ」
「…」
確かに。
日浅程の巨人であれば私のこと等訳もなく引き離せる筈だ。それをしないのは何故なんだろうか。
「分かった。言うことを聞かねえならお前ら二人とも大減点だ。5秒だけ待ってやる。ごー、よーん、さーん」
「!!!」
鳥木先生がカウントを始めると日浅が目を見開いた。そして次の瞬間。
グイッと日浅に腕を強引に引っ張られ肩に担がれる。
何これデジャブ!!!
「なっにするんだよ!」
「うるさい」
「にーい」
そのまま席にストンと落とされる。
意外にも丁寧な置き方に驚いた。荒々しく担がれたから席にも投げ落とされるかと思い背中の衝撃を覚悟してたのに。私の腰が感謝してるよ日浅。ありがとう。担いだこと事態は怒ってるけどな!
「ギリギリセーフだな。日向、日浅に感謝しとけよ」
「そうだよ感謝してよ」
うざっ!
「おーし始めるぞー」
結局普段通りのホームルームが始まり、日浅の背中を睨み続ける時間が過ぎていった。
「何なの!もうっ!」
休み時間に話しかけようとする度に離席したり無視をされたりと結局まともに話せないまま、日浅は部活に行ってしまった。
もしかしてしなくても避けられてるよね?
「日向くん。日浅くんとは仲直りできなかったの?僕、何か手伝えるかな?」
「矢田君…」
天使だ。天使がいる。
「日浅くん僕の名前出してたけど二人がケンカしたのって僕のせいなのかな…。二人のグループに僕が入れてもらってるから…」
「いやグループとかじゃないから」
「ええっ!?」
「あと矢田君がいる方が自分は嬉しいよ。だから、そんなこと言わないで」
矢田君の顔が真っ赤になる。
「あっあああありがとう…。僕、そんなこと言ってもらえたの初めてで…嬉しい」
矢田君の目がうるうると涙を浮かべ始めた。
なんてピュアな人なんだろう…。彼のピュアさの十分の一でも日浅にあれば世界は変わると思う。
「僕…僕、本当に嬉しくて…」
「ふふふ。うんうん」
「今の台詞ボイスレコーダーに入れて持ち歩きたい位嬉しいよ」
「それはやめてね!?」
こわいよ矢田君!?
嬉しさは伝わってきたけど表現の仕方が独特すぎる。