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放課後。
教室をでて、人通りの少ない渡り廊下の壁を背にもたれかかる。部活に向かう生徒をボーッと見つめていたが、気が付けばスマホを握りしめていた。
『…なっちゃん?』
電話越しにひなたの声が聞こえる。
「ごめん。今忙しいかな?」
『ううん。大丈夫だよ。今帰るところ。どうしたの?』
「…ちょっとね。滅入っちゃって」
『うん』
「男の子と関わること今までなかったからよく分からないんだけど怒る原因になることが性別によって違ったりするのかなと思って」
『プライドを傷付けちゃったりとか?』
「無意識にってこと?」
『どんな感じの人にもよるよね。私もそんなに分からないからなあ…人脈広い楓ちゃんの方が良いアドバイスできるんじゃないかな』
「楓だと色々突っ込んでくるかなと思って。軽い相談だからさ」
『そっかあ。うーん…どんな感じの人でどういう経緯で怒ってると思ったのかな?』
「毒舌で不器用だけど優しいよ。経緯…急に不機嫌になるから怒るポイントも分からずって感じかな。気分屋なだけだとは思うんだけど」
『そっかあ。大変そうだね。ちなみにその人にはなっちゃんの秘密知らないんだよね?』
「うん」
『…じゃあ違うかあ。早く仲直りできると良いね』
違うって何が?
「話聞いてもらったら少しすっきりした。ありがとう」
『ううん。何もできなくてごめんね。また連絡待ってるね』
「うん。ひなたもしんどくなったら相談してね」
『ふふっ。ありがとう!夏休みとかは帰ってこれるのかな?』
「どうだろう?多分帰れるんじゃないかな」
『やったー!待ってるね!』
「うん。ありがとう。じゃあまたね」
『うん。またね』
電話を切る。少し気分が軽くなっていた。
考えても分からないなら本人に直談判しに行くしかないか。…とは言っても私が話を切ったのに掘り返すのもおかしい気もする。明日の休み時間に軽く聞いてみようかな。
「彼女と電話?」
「うわあっ!?」
真横から急に声をかけられ驚く。
きょとんとした顔で春山がこちらを見つめている。こいつ忍者か!?いつの間に隣に立ってたんだ…。びっくりした。
「否定しないってことは本当に彼女なんだ!」
「違うから」
「険しい顔してたけど大丈夫?」
あれ。もしかするとこれ春山に聞いてみると正解もらえたりするんじゃ…。でも春山も部活で忙しいよね。
「大丈夫だよ。春山君こそ部活あるんじゃないの?まだここにいて大丈夫なの?」
「うん。行きたいのは山々なんだけど哲がいなくて。探してるんだけど、渚知らない?」
「…」
「もしかして哲と何かあった?」
「あったようななかったような」
「どっち!?」
「…二人は仲良しなんだっけ?」
「うん!」
こういう時に即答する春山が本当に羨ましい。
「ケンカとかすることってあるのかな?」
「うーん?あんまり無いかな?そもそも哲熱くなるの好きじゃないから、感情の動きが大きくなりそうになると一人になりたがる傾向あるかも」
…それは少し納得。
「じゃあその嫌いな感情の動きがあった上でケンカしたことはあるのかな?」
「あるよ」
「…内容は聞いても大丈夫かな?」
「正確な内容は言えないけど、哲も人間だからさ。色々あるんだと思うよ。でも哲はどうでも良い人間に対して感情移入しないタイプだと思うから、もし渚とケンカしたならやっぱり渚のこと大切に思ってるからだと思うんだ」
まあ親友の春山の友達だしね。
「でも怒ってる原因が分からないと謝りようがないよね」
「うーんそこは話し合い!」
…ですよね。
「話し合いの途中で一回話切っちゃった場合ってどうしたら良いかな」
「え!?何で切っちゃったの!?」
「………その場で議論を続けても堂々巡りになりそうだし時間の無駄だと思ったから」
「時間の無駄って…そう思っちゃったことから謝らないとダメだよ!哲にそんなことしたの!?」
「…まあ」
「俺も一緒に付いていってあげるから謝ろう!」
「それは悪いから良いよ。それにその前に彼が怒った理由が分からないし、根本的な部分の理解をしてから謝りたいんだ」
「そっかあ。分かった。善は急げっていうからさ!ひとまず俺も今探してるところだし一緒に探そう!」
「…分かった。ありがとう」
「気にすんな!友達だしな!」
「ところで今のところ探した場所と彼がいそうな心当たりのある場所ははどこかな」
「えー?順番に回ってる」
体力勝負だな!
でもそっか。春山の体力は尋常じゃないもんな。被害者の私が思うんだから間違いない。
「以前春山君と少し口論した後は音楽室にいたけど、そこは見た?」
「え!そうなの!?まだ見てない!」
「じゃあとりあえず行ってみる?もしくはお兄さんの電話番号知ってるなら電話して所在確認してもらった方が動きに無駄がないけど」
「えー…兄貴に電話かあ…」
嫌なのかよ。
反抗期か?
「…じゃあ直接行こうか」
「うん!」
あれ?
これ体よく日浅探し手伝わされてる…?