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保健室に取り残され、私はチャラ男と二人きりになった。
チャラ男が近付いてくる。香水の良い匂いがした。
匂いまでフェロモン…匂いがフェロモン…?大混乱だよ…。
「…で?だーれかな君は?」
「………」
「ほら、だんまりじゃ分からないよ」
「……………」
「うーん会話できないんじゃしょうがないね。じゃあ俺は先生が戻るまでもう一眠りしようかな」
「…学内でああいうことしても良いんですか?」
風紀の乱れ!ここにあり!
私が風紀委員ならこいつを厳罰に処す。
「ん?…ああ。あの先生すごくてね」
何がだよ。
「君、初過ぎ。女の子なら可愛いけど男のそれは気持ち悪いよ?」
何だこいつ!色々腹立つ!
あと私女だけどな!
「安心して。今日はキスしかしてないから」
"今日は"って言ったよ!
風紀の乱れダメ!絶対!
「はあ…どっちでも良いですけどTPOを弁えてください」
「何?君、風紀委員?」
「違いますが」
「じゃあ良いじゃん。干渉してくる意味が分からないんだけど」
「いや…委員とか以前に問題あると思うのですが」
「えーでもスリルある方がドキドキするじゃない?」
同意を求めるな。
これ以上話しても時間の無駄だと悟り、撤退することにした。
「…じゃあこれで」
「はいさよなら」
意外にもあっさりとこの場を離れさせてくれたことに少し驚く。
イイトコで邪魔した落とし前つけろとかもう少し因縁をつけられるかと思っていたから。
「…意外とあっさりですね」
「何?罵られたかったの?君、マゾ?」
違うわ!
「何でそうなるんですか」
「ごめんね。君、確かに男としては可愛い顔してるけど、俺女の子しか無理なんだ」
しかも何か勝手にフラれたーーーー!!!
色々な屈辱に苛まれ、しばらく停止してしまった。
「本当にごめんね?君が女の子ならそういうプレイも含めて相手してあげられるんだけど」
「結構です」
いや、本当に。
「そう?女の子なら誰でもウェルカムだから友達で困ってる子いたら教えてね」
教えるか!
「……失礼します」
「はいまたね」
それにしてもまさかこんなところでチャラ男ことフェロモンチャラ男に遭遇するとは。
更に言えばまさか女性に対して貞操の危機を感じる瞬間が生じるとは…くわばらくわばら…。
こうして私は保健室を後にした。
恐怖の余韻が残りガタガタ震えながら教室に戻ると日浅と目があった。
「おかえり。早くない?」
「だたいま」
「何その言語」
悪寒で震えて上手く言葉が発声できなかったんだよ。
「気のせいだよ」
「あっそ。それより保健室行く前より顔色悪いけど」
「…気のせいだよ」
鋭いな日浅。
「ふうん。つーかあんた何か…」
「ん?」
「………くさい」
「ええっ!?」
私昨日もお風呂ちゃんと入ったよ!?何で!?
くさいと言う言葉は結構人を傷付ける言葉だ。私は自分の臭いを確認すべく鼻に腕をあてたりと忙しなく動き回る。
…あっ!もしかしてフェロモンチャラ男の香水の匂いがうつったとか!?
でもあれは良い匂いだったし…。いや匂いって好き嫌いあるからもしかすると…。
頭の中で誰かに責任転嫁すべく記憶をフル稼働する。
「…冗談だし」
「はあ…」
思わず溜め息が漏れてしまう。
「溜め息うざい」
「ごめん。でも今は優しくして。傷心中」
「…何。嫌なことでもあったの」
「主に精神的に。まあでも嫌なことというか何というか…」
「言いたくないなら別に良いけど」
「分かった。黙秘」
「あっそ。でも良いタイミングで戻ってきて良かったねー」
「え?」
何かが起こったことを暗に悟る。そう言えば教室も少し静かになっている気がする。
私のいない間に何かあったのか?そう思い、日浅に目線を合わせると、さっと反らされた。