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緊迫な空気が漂い、皆の意識が鳥木先生に集中する。
鳥木先生の視線が教室中を見回した後、口を開いた。
「トータルポイント。それはお前らの評価の集積だ。よって時価評価の意味は成さないが、そのトータルポイントを使って校内での買い物が可能だ。仕送りがきついならこれを活用するのも手だ」
評価機能としては直結しないが、自分の評価で貯めたポイントが金銭面で生活を豊かにしてくれる。これは確かに便利そう。有効活用させてもらおう。
「グレードポイント。これは全学期分を加味しての学年毎の最終的な総合評価だ。この評価が2年時の組分けに影響してくる」
周りからごくりと唾を飲み込む音が聞こえる。一年間の最終評価ポイント。この評価が自分のステータスに直結する。敗者復活も可能ということだ。
「次にターンポイント。これは後程説明するデイリーポイントに対応して翌日更新される。つまり学期毎の自分の評価だ」
自分の成績が日毎に可視化される。シビアだな~。
「最後にデイリーポイント。これはお前らの当日の行いにより加減されるポイントだ。多分殆どの奴等がそのポイントは現状ゼロだろう」
なるほど。デイリーポイントを駆使すれば成績向上の鍵が握れるという訳か。
「既に察してる奴もいるかもしれんが、ポイントの加減の明確な基準は教えられん。そこを探るのもお前らの役割だ」
私の予想は正しそうだ。
「さーて。ここでホームルームの本題に戻る。このクソみてえな高校のルールに基づいて、委員会への参加はポイントの高い奴順に決定権がある。活動に参加しないことも含めてな」
春山がまた喚き散らしそうな話題だ。
「挙手制で聞いていく。希望の委員会があれば手を挙げろ。被った場合はさっきの基準で決まる。今回の基準はグレードポイントを適用する」
ターンポイントではなくグレードポイントってことは入試の結果を優先するってこと…?
ともあれこの委員会決め。
これは心理戦だ。
プライド…尊厳を守るための。
被ってしまった場合、その相手と優劣がつけられる。運良く前に皆が挙手して委員会に参加しないで済む可能性もあるけど、最後に残る委員会活動は恐らく面倒なものが多いだろう。そこから余った生徒の優劣戦に巻き込まれるわけだ。
「挙手は回数制限ないからなー。んじゃまずは図書委員」
挙手!!!
勢い良く手を挙げた。猪突猛進!電光石火!
「8人か。結構挙がったな」
心理戦…苦手かもしれない…。
「あーポイントの優劣でみると……ん?」
え?
「…………あ、いや悪い。日向と吉田。お前ら二人が図書委員で決定だ」
鳥木先生のリアクションは少し気にかかるが、思ったより私は良い成績だったのか?
いや、確かに入試の出来映え完璧だとは思ってたんだけど…。8組になって自信喪失しかけてたこともあり、良い自己肯定感が芽生えた。
「さてどんどん決めるぞ」
順番に決められていき、日浅は結局どこにも手を挙げなかった。馬鹿なの?
じーっと見ていると視線を感じたのか日浅がちらっとこちらを振り向いた。そしてボソッと言葉を紡いだ。
「あんた自分の能力信じてないんだね」
!?
「俺は自分を信じてるからどれもやらない」
むかつく!
この天狗の鼻を誰かがへし折ってくれ。
残る委員会は学級委員。
やったらやったで思い出になるし楽しいとは思う。
でも学級委員の皆の立候補を妨げているのは仕事が大変そうという理由だけではないかもしれない。
考えられる理由の1つとして8組の学級委員だから。
この高校の汚名の代名詞である8組の代表に誰が進んでなりたがるのか?
じりじりと挙手が求められる中、結局誰も挙手せず、結果的に先生の口からクラスの最下位2名が発表される形になった。
結論から述べると、日浅は学級委員にはならなかった。
日浅の成績がクラス内上位だったのか?
心理戦に勝利したのか?
答えは分からないが、いずれにせよ日浅は委員会活動決めの戦に勝利した。