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「いやあ~気持ちよかった!!!」
昼休憩に入ったらしい。春山がスキップしながらこちらへ向かってきた。
「おかえり」
「超楽しいのに!あっ!お前はえっと…」
「こんにちは。春山君。大路だよ」
「そうだ大路!お前もバスケ興味あんの?」
わくわくした様子で聞く春山。
「僕はあいにく他の部活に入っててね」
「なんだよ~」
「ふふ。ごめんね。大地はどう?仲良くなれた?」
「ダメ!でもさっきチーム練習だったんだけど途中から別のチームにされた。鳥木先生に」
「ふうん」
「春山!こっち来い!メンバーでメシ行くぞ!」
「うっす!…ごめん渚!メシ一緒に行けないし、見学だけでもしあれなら寒いし帰っても大丈夫だよ!」
「了解。ありがとう。頑張ってね」
「うん!頑張る!」
三嶋先輩に呼ばれると春山はチームの方に走っていった。
バスケは好きだけど、4月…まだ寒さの残るこの季節の体育館は寒い。一旦別のところに移動することにした。
「じゃあ大路君さよなら。」
「あれ?どこかにいくの?」
「はい。また来週」
「うん。それじゃあね」
そして私は第2会場へと向かった。
「あらら~!ちびちゃんいらっしゃい。連日来てくれて嬉しいよ~」
「おはようございます」
吹奏楽部。私の青春の舞台になるかもしれないこの部活。
寒いから来ましたって訳ではないよ…?
「春山…えっと、春山健人君のお兄さんだったんですね」
「ん?そうそう~俺、ケンケンのお兄ちゃん~」
両ほっぺを人差し指で押しながらにこっと笑って振り替える春山兄。実の弟すらあだ名で呼ぶのか。徹底してるなこの人。
「ケンケンちびちゃんのこと気に入ってるみたいだから今日もトール君と連行されてると思ったのに意外だね~」
「ご兄弟で仲良しなんですね」
「なかよしこよしだよ~ケンケン大好き」
「はあ…」
「ちびちゃんはバスケ嫌いなの?」
「好きなんですけど、えっと…運動が苦手でして」
「ふむ~それは残念だったねえ。さて。今日は何を弾いてみる?」
「うーん悩みますね」
「なるほど?そしたら悩んでる時間も勿体無いし、ちょうど今から新歓で皆でランチするから一緒に来る?」
「えっ。でも幽霊部員の自分が参加しても良いんですか?」
「いいよ~部員であることは変わらないしねえ」
吹奏楽部かあ。
男子高校生だけで構成される吹奏楽部…。
中学の時は吹奏楽部って女子のイメージが強かったけど、どんな人達がいるのか少し気になる。
「ではご一緒させていただいても良いですか?」
「どうぞ~マドモアゼル」
「マドモアゼルって…」
「ぬふふ~言ってみたかったんだこの台詞~」
フンフンと鼻唄を歌いながら移動を始める春山兄。やっぱり少し変わっている。
日浅といい春山の周りって奇人多くない?類友…?あれ!!?もしかして私もそう思われてる!?
「ほら~ちびちゃんおいで~」
春山兄が手招きする。
近寄っていくと手を繋がれた。
「えっ」
「はぐれないようにね~」
にこにこと笑いかけてくる春山兄。
「懐かしいなあ。ケンケンも小さい頃よく迷子になってねえ。最近は恥ずかしがって逃げちゃうんだけど。しかも昔は小さかったから見つけるのも大変でね~よくこうやってはぐれないように手を繋いでたんだよね~」
私には双子の妹のひなたしかいなかったけど、小さい頃は確かにはぐれないように手を繋いだりしたっけ。結局二人で迷子になって両親に怒られたこともあったな~。
「それは相当仲良しですね」
「そうでしょ~。だからね」
「はい?」
「ケンケンのこと傷付けるようなことしたら許さないよ?」
悪寒。
にこにこ~っと笑顔でこちらを見つめてくるが、この人多分あれだ。
ヤンデレ。しかもブラコンの。
「お返事は?ちーびちゃん?」
「はいいっ!」
「はーい。よくできました~」
思わず声が裏返ってしまった。しかし私の返事を聞くと安心したのか春山兄はふっと笑い頭を撫でてきた。
春山に少し似た笑顔。
少し童顔な顔つきでこの笑顔、このしぐさ。
普通の状態ならときめきがあるのかもしれないけど、なぜだろう。
恐怖!!!!
「じゃあランチ行こうか~」
こうして私は春山兄に連行された。
デジャブ…。
春山家の特性として将来誘拐犯とかそんな犯罪を侵さないか非常に心配になった。