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部員達の目が一斉に体育館入口に集まる。
「おはようございます!!!」
大きな挨拶の声が鳴り響く。
「おはよう。練習を続けろ」
鳥木先生!?
「鳥木先生はバスケ部の顧問らしいよ」
大路がこそっと教えてくれた。
「何で知ってるんですか?」
「昨日生徒会で知り合った先輩が教えてくれてね」
「なるほど」
私と大路の存在に気付いたのだろう。鳥木先生の目線がこちらに向けられる。
「ん?お前ら組違うのに知り合いなのか?」
「はい。残念ながら僕は嫌われてるみたいなんですけど」
「はははっ!そら頑張れ」
なんか私が悪者みたいな流れになろうとしてる!やめてよ!印象操作反対!
「違います!嫌いではないです。普通です」
「その回答も正解とは言い難いだろ」
ごもっともです。
「で?お前ら体験しないのか?百聞は一見にしかずって言うだろ」
「僕はバスケ部に入部する気ないので」
「ほー。日向は?マネージャーでも構わんぞ」
「いやいや。このレベルに付いていけるかって話ですよね」
「ついていけるかじゃねえよ。ついてくるんだよ」
スパルターーー!!
「鳥木先生もバスケされてたんですか?」
話題を変えて逃げることにした。
「そらもうな。上手いなんてもんじゃねえよ。まあでも…いや、いい」
「…?」
「つか日向はバスケしないのかって話だろ。なに話すり替えようとしてんだ。大人なめんなよ」
…ばれてたか。ちっ。
「ちょっくらやってみっか?」
「わっ!」
鳥木先生がボールを投げてきた。驚きつつもキャッチする。
「やめてくださいよ。…もうできないので」
「できない?ケガとかか?」
「そうです。過度な運動は医者から止められてるので」
「おっと。そら悪かった」
軽いなあ。でもその軽さに今は少し救われた。
私の深入りしてほしくないポイントだから。
「で?文化系のお前らは誰の応援してんだ?日向はラブラブな日浅か?」
「日浅…?ってあぁ。あの子か」
何故か大路が割り入ってきた。
「先生、その表現死語です」
「うははははっ」
「鳥木先生!」
バスケ部キャプテンの先輩の声が聞こえた。声のした方に視線を向けると、先輩がこちらに向かって走ってきた。
「おー三嶋。組分けはできたか?」
「はい!」
「上物は?」
「今年はすごいです。豊富ですよ」
「お前がそこまで言うのも珍しいな」
にっと笑う鳥木先生。
バスケ部のキャプテンの先輩…三嶋先輩は嬉しそうに笑って頷いた。少し顔が赤い。練習で代謝上がったのか?熱いな~。
「ひとまず分けてチーム連に移ります。全軍回って再編成の方お願いします。俺の目だけで組分けするのは少し荷が重いので」
「お前を信頼しての組分けだ。だがそうだな。見落としがないとも言えない。皆に指示を出せ。適当に全軍見て回る」
「はい!」
先輩がバスケ部員達の群れに戻っていき、チーム分けをてきぱきと行っている。鳥木先生はその光景を見て満足げにうんうんと頷いている。
「鳥木先生の右腕…副顧問って感じですね」
「日向。お前良い表現使うな」
「そうですか?」
「あいつ…三嶋はバスケ部のキャプテンだ。技術は勿論だがチームを従える確かな才能がある」
…才能。ぴったりな言葉だ。人を動かす能力は天賦の才能が左右する部分も大きい。
「チームを従えるやり方は様々ある。そしてそのキャプテンの方針によりチームのメンバーの成長の方向性も変わる。…これはバスケに限らず言えることだけどな」
「鳥木先生は三嶋先輩なら良い方向に部員達の成長を促してくれると期待されてるんですね?」
「そうじゃなかったら指名しない」
「もし該当の生徒が見当たらない場合はどうされてきたんですか?」
「知りたいか?」
「…やめておきます」
何となく聞いたら後に引けない気がして踏み込むのをやめておいた。
「鳥木先生!組分け終わってます!」
三嶋先輩の声が響いた。
「分かった!練習続けさせとけ」
「はい!よしお前ら!チーム毎にアップ始めろ!」
「うっす!!」
「なるほどね」
大路がふふっと笑った。何が?
「何がなるほど?」
「渚は分からないだろうね」
はい?
「青いねってことだよ」
あおい…?青い…
あっ!
そう言えば明日青いバランスボールが届くんだった!楽しみだな~。