27
入学式翌日。土曜日。学校はお休み。
すごく濃い一日で色々と思い出しては考え、眠りが浅かったのか眠気が続いている。もう一眠りしようと意識が微睡みかけたその時、ノック音が響いた。
「渚ー!!」
春山の声が聞こえた気がする。
「まだ寝てんのかー?」
寝てます。いや、寝ます。おやすみなさい。
「バスケ部行くって約束ー!いーこーおー!!!!」
………………………。
「なーぎーさーーー!!たのもー!」
………あーもう!!
寮だし周りは同じ学生とは言っても、これじゃご近所迷惑だよ!
勢いよく自室のドアを開ける。
「うるさい!」
「うおっ!びっくりした!居留守魔だなー!おはよう!」
「おはようじゃないよ!こっちこそびっくりし…た…」
私が言葉に詰まったのは仕方がない。
昨日色々あり、何となく気まずい相手。本日会いたくない人ワースト3にランクインしている日浅哲之介が春山の隣に連れ立っていたからだ。
正直色々と気まずい。何て声をかけようか迷った挙げ句出てきた言葉は当たり障りのない言葉だった。
「…………………おはよう」
「あんた寝坊助すぎでしょ。髪ボサボサだし」
「はあ!?」
私のおどおどした気持ちも虚しく、日浅は何事もなかったかのような態度で拍子抜けした。
そして一部日浅のせいで寝付けなかったこともあり、誰のせいだよと言いたくなったけど堪えた。
しかも一応華の女子高生(服装は男だけど)。身だしなみの面を指摘されると中々恥ずかしい。手櫛で髪の毛をサッサッと軽く整える。うっ!あほ毛!ぴょこーんと直立してるのが一本あり悪戦苦闘していると、ぶっと日浅が吹き出す。
「…何笑ってるんですか」
「あんたバカなの?」
何だとこの野郎…!
本日何度目かの憤りを覚えていると、能天気な声が会話を遮った。
「哲と渚仲良くなったな!良かった~」
能天気春山は楽しそうに笑っている。これが仲良く見えるなら春山は相当な脳内お花畑だ。
「そう見えるなら相当幸福者だよ」
「え~だって昨日二人で吹奏楽部入部したんだろ?」
「なんでそのこと知ってるの!?」
「なんでって俺の兄貴が吹奏楽部でさ。哲と渚が入部したって教えてくれたんだよ」
あれは春山兄だったのか…。駄犬とか言ってたけどもしかして…。妙に納得。
「ハルの兄貴、ハルのこと駄犬って言ってたよ」
「ええ!?まじ?兄貴ひでー」
「俺へのあだ名も相変わらずだし。何とかしてよ。恥ずかしいし」
それで日浅はあの呼び方に動じてなかったのか。
日浅を見ていると目が合った。そしてスッと指差された。なんだよ。
「その人のことはちびちゃんって呼んでたけど」
「それ、ばらさなくて良いからね。トール君」
「は?」
「うははは。でも兄貴驚いてたよ!俺も知らなかったけど哲ピアノ上手なんだな!今度聴かせてよ!」
「…………別に遊びだし」
「え~俺も聴きたいー!!俺だけ仲間外れにするとか酷い!」
「してないし。しかも言ってたところでハル、バスケ部行こうしか言ってなかったでしょ?」
「そうかもしれないけどさ~。俺も一緒に見学行きたかった!さては二人とも仲良しになったな!」
「直帰するのに抵抗があってたまたま通りかかったら彼もいたんだ。流れで二人とも入部する形になっただけだよ。一緒に入部って言い方は語弊があるよ」
「すげえ行間なく早口で言ってる…。言い訳っぽい…」
謎にいじける春山。寂しがりやか。
「そう。俺その人にストーカーされて困ってるんだけど。ハル助けてよ」
「だからしてないから!」
「あはははっ」
笑い事じゃないよ…。
そんな造作もない話をしながらバスケ部へ向かった。