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「あはは。完全に忘れてたって顔だね。僕と日向君は巻き込まれたからね。お互い不運だったね?」
微笑みながら小首を傾げてこちらを見てくる大路。
「はい。まあ…」
…あれ?なんか違和感。何でだろう。まあいいっか。
「日向君は入学式前ぶりだね。覚えてくれてるかな」
勿論です。
「春山君、初めまして。僕は1組の大路涼介。一応壇上でも挨拶したんだけど、個人的な対面は初めてだから挨拶させてもらうね」
「俺は春山健人。えっと…日向も大路も巻き込んじゃったのは本当にごめん。色々かっとなっちゃって…」
素直。春山の長所だ。
「気にしてないから良いよ。でも大勢の人から注目されるの苦手だから、今度からは気を付けてね」
「僕も気にしてないよ。こちらこそ大地が迷惑をかけたね。ごめんね」
「二人ともありがとう。気を付ける!」
「まるで子どもだな」
はあと溜め息を吐いて水を差す佐摩。
「!!!なんだと!」
そして買うな春山。
「まあまあ落ち着いて。時間は有限だからね。で、結局どうするの?校長先生の言ってたように何かしらの勝負をするの?」
間に入る大路。
「俺は構わん。何をしても勝つのは俺だ」
「挑むところだ!」
「で?巻き込まれる僕らもできるような勝負は考案できる?」
「そいつがバスケ得意って言ってんだからバスケで勝負で良いんじゃないか?」
「それなら二人で当たれば早いんじゃないの?僕らが一緒にやる意味ある?」
「校長の意図でチームプレーを求められてたからそれもバスケなら必要だし良いんじゃないか?」
「うーん。まあそうだとは思うけど。春山君と日向君はこの提案どう?」
「俺は良いよ!日向もバスケ部入部するし!」
いやいや私まだ確定はしてないよね?!
「あれ?そうなの?」
微笑みを絶やさない大路には珍しい驚いた表情になる。
「いや、彼にバスケ部の見学引き摺られてるだけで入部は検討中です」
「ふうん。…まあいいや。僕と大地は小学校からの幼馴染みだけど君達はどうなのかな。クラスも違うけど、相部屋?それとも中学が同じとか?場合によってはアドバンテージが必要だよね」
「いや、必要ないね。俺は日向を信じる」
「その子の実力とチームプレーでの連携はまた話が別だよね。問題ないならそれでも良いけど。…日向君は構わない?ただし、皆の面前でプレーすることになるけど」
「嫌です」
「即答かよ!」
当たり前だ。私一応女だし。春山に迷惑が掛かるのも目に見えてる。そう、春山のために断るのだ。友達思いだなあ、私。偉い。それに…
「…春山君。聞いてなかったの?私さっき大勢の人から注目されるの苦手って言ったよね?気を付けるって返事してくれたよね?前から思ってたけど人の話、ちゃんと聞いてよ」
「うっ…。ごめん」
ひとまずこれまでに溜まってた鬱憤が爆発しそうだったのでその前に伝えておいた。すっきりした。…ってあっ!感情的になったら一人称私に戻っちゃったよ…。誰も疑問に感じてないっぽいしこの勢いで一人称私に戻して良いかな?
「えっと。佐摩君はバスケ経験者?」
「そうだ」
「じゃあ春山と二人で1on1でも良いですか?」
すっと目を細める佐摩。
「負けたときにそいつの口実の用意がない状態になるが、それでも良ければ俺は問題ない」
「決定だね」
良かった。私が参加せずに済みそうだ。
「先生には円満解決したって話をつけておくね。そうすれば後から僕らだけでひっそりかつ公正に審判できるよね」
「分かった」
「僕と日向君でジャッジの立合いをするよ」
あれ!?さりげなく巻き込まれた!
私の動揺が目に入っているのかいないのか気付いていないのか、全く気にせずいつもの余裕ある微笑みを含めた表情で大路が続ける。
「日にちはいつにしようか?」