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「さてと。良い時間だな。今日のホームルームは以上だ。来週のホームルームでは各委員を決める」
結構大事だよね。委員会活動。
もしかすると委員会によってまた何かこの学校特有の特色があるかもしれないから気が抜けない。
来週に設定されたのも、敢えてなのかもしれない。情報争奪戦を仕掛けられている気がする。考えすぎかな。
「まあそんな恐い顔すんな。入学式でも説明があったように、学級委員から始まり、その他諸々の委員の…平たく言うと雑用係を決める必要がある」
鳥木先生言い方…。言葉を飾らない先生だな~。
「各自土日の間に何にするか決めてくること。っつーことでお疲れ。今日のホームルームは以上。あ。大事なこと言い忘れてたわ」
ごくりと唾を飲み、鳥木先生に視線が集中する。
「いや凝視しすぎ。こえーよ。あれだ。ホームルーム終わったら部活見学と体験が始まる。うちには特に部活の入部期間もない。だがまあ新入生歓迎モードはだいたい5月位までだから、それまでにメインを決めとくべきかもな」
なるほど。
「まあお前らの場合学業以外の欠陥優等生だし?多分メインはもう決まってるだろうから心配はしてないけどな」
確かに。これが1組~5組になると話は別と言うことか。
「あとは掛け持ちも禁止されてない。結果を残せるなら何でも構わないからな。ほんじゃ以上。解散。良い週末を」
そう言って教室から出ていく鳥木先生。
あ。質問したいことがあったの忘れてた。人前で話すのは苦手だし、廊下でひっそり話せるなら好都合だ。
席を立ち、先生の後を追いかける。
「先生!1つ質問があります」
「んー?何だ?」
「あの…この高校は勉学一本化に絞ってると聞いてたんですが。6組~8組のようなスポーツや芸術面での評価をメインにしたのはいつ頃からなんですか?スポーツ推薦枠とか知りませんでしたし」
「ああ。まあ試験的なものだよ。実績を作って上手くいけば大々的に宣伝する。宣伝した後に失敗したらこのクソみたいな高校の名声に汚れがつくとかだからじゃねえの?」
「…クソって」
「それに勉学一本化に絞ったってのも全部噂だろ?受験生や卒業生の実績のおかげで世間やらマスコミ様が散らばした情報だ」
確かに。今の日本の政治を支える人、科学賞受賞者、高学歴大学出身者は園上高校出身者が軒を揃えている。
「うちの高校は取材一切お断りだしなあ。理念として一番であることについては強く主張してるから色々飾付けられて印象付いちまったのかもな」
「なるほど。」
「アスリートの出身者はまだいねえだろ?」
「はい」
「そこを強化したかったんだろ。で、今画策中。網羅しちまえば完全体になるしな」
「はあ…。」
「…まあ私の口から言えることじゃねえけど」
「?」
「ここの奴等は教師も含めて信用するな。信じられるのは自分だけだ。自分だけは自分のことを絶対に裏切らないからな」
「え…」
「ここは人をそういう思考にせざるを得ないように変える不思議な環境が整ってるって話だよ」
「それってどういう…」
「鳥木先生!」
後方から最上先生が叫ぶ声が聞こえた。
鳥木先生がチッと舌打ちする。
「何だよ」
「職員会議の時間です。さあ早く」
「はいはい。めんどくせえなあ。じゃあな。…日向」
私の横を通り過ぎる瞬間、肩に手をおかれポンポンと叩かれた。そして
「私が言ったこと。忘れんなよ。これは忠告だ」
耳元でぼそっと呟かれた。
鳥木先生と最上先生はそのまま廊下を曲がり、一緒に職員室へ向かった。
何となく耳に残った鳥木先生の言葉が頭の中を反芻していた。