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そんなこんなで高校の寮へお引越中。
寮は基本二人一組の相部屋らしいけど、流石に気を遣ってくれて私の部屋は一人空席が出たと言う設定(学校側の都合だけど)で二人部屋を一人で使えるらしい。
ふむ。何か得した気分?
変装と言えるほどでもないが、在学中は眼鏡をかけて前髪を少し長めにしたスタイルで過ごすことにした。
制服は勿論男物。ネクタイには憧れがあったので少し嬉しいと中学時代の女友達である楓とひなたにメールで送るが、二人に女子の制服でもネクタイがあることを教えてもらい複雑な気持ちになる。
よし、聞かなかったことにしよう。
コンコン!
部屋にノック音が響く。誰かが私の部屋に訪れたらしい。めんどくさいから居留守使うか…。
「誰かいる?俺隣の部屋の春山ー。相部屋の奴いなくて暇だから遊ぼう~」
ノック音の後に聞こえてきたのは人懐こそうな声だった。
しかし居留守を決め込むと決めた。私の決意を揺らがすのは何者でもなく私自身だ。諦めろ少年。
「なんだまだ誰もいないのか。まあまだ入学式まで日があるもんな。地方から来て友達いないし友達1号にしてやろうと思ってたのに」
地方からか。ちょっと可哀想なことしちゃったかな。でも整理整頓終わったらもう今日は眠いから寝たいんだ。ごめんね名も知れぬ少年。明日以降なら友達になってあげよう。
「明太子一人で食いきれるかなー。母ちゃん送りすぎだよ。しょうがない次の部屋行」
ガチャッ
「初めまして日向です。すこし居眠りしていました。ご挨拶に来てくださったんですか?」
違う。
決して明太子に釣られた訳ではない。
…好物だけど。
彼の真摯な気持ちと地方から来たという話の純朴さに心が打たれたのだ。
春山と名乗った少年は高身長で180センチ位はあるのではなかろうか。
しかし長身特有の威圧感はなく、短髪黒髪やや童顔な容姿のせいか人を警戒させない雰囲気を持っている。
年上のお姉さま方から好かれそうだな。
「おー!日向!初めまして!俺、春山 健人。よろしくな!中学の時皆からハルって呼ばれてたからそのあだ名でいいよ!」
「よろしく。春山君」
「かたっ!お前結構堅物?日向はフルネーム何?何て呼ばれてた?」
流石に仲良くもないのに急に下の名前を呼び捨てする度胸を私は持ち合わせていない。
「日向渚だよ。男子からは日向って呼ばれてたかな。あんまり関わることもなかったけど…」
「はあ?!なんだお前そのモテ男発言!でも確かに男にしては可愛らしい顔してるな。でもな!そういう発言は敵を作るぞ!気を付けろよ」
しまった!…そうだった。今私は男として生活する環境にいるんだった。忘れてた。
「あ~…、ごめん気を付ける。ありがとう。中学が田舎で、周囲が殆ど女子だったからさ。はは…」
「なるほどな!おっし!そしたら日向!最後の二部屋同級生もう来てるか一緒に探索しよう!」
身長152センチの私は引き摺られるように春山に連行…いや同行させられることになった。