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6組から出ようとすると、一気に視線を感じた。
いや、そうではない。多分日浅に気をとられていて気付かなかっただけで、最初から私たち二人、8組から来た異物は注目されていた。
「8組の癖に6組に気安く入ってんじゃねえっつーの」
「問題児同士気が合うんじゃね?類は友を呼ぶっつーじゃん」
小さく野次が聞こえた。
その後にクスクス笑い声が聞こえる。
…何か嫌な感じだな。
「お前ら何て言った!?俺に文句言うのは別に良いけどこいつらは関係ないだろ!」
春山が吠えた。
「こえー!超野蛮じゃん」
嫌な空気が広がる。
「何か言った?」
低く冷めた声が響いた。
日浅の身長の高さのせいで、背中に覆い隠されよく見えないが、一気に教室の温度が下がった気がする。
しかし、この大きさの男に威圧されたら迫力は凄まじいことは容易に想像できる。
「…あ、いや。何でもない、です」
思わず謝ってきた野次男子。
「…早く歩いてよ。あんたがさっさと出ないと、俺出れないし。ホームルーム遅刻しちゃうんだけど」
「わ、かってるよ」
「分かってるなら早く行ってよ。邪魔」
口は悪い。
でも確かに優しさを感じた。私を背中で隠して、この悪い空気から先に逃がそうとしてくれている。
「…なんか、ありがとう」
少し後ろを振り返りながら話しかける。
「何が?気持ち悪いんだけど」
「多分、私が一人で行ったらバッシング…タコ殴りされると思って付いてきてくれたんだよね。だから、そのお礼」
「別に。ハルと話したかっただけだし。付いてきたのあんたでしょ?」
なるほど。
少し春山の言ってた意味が分かったかもしれない。私一人だとあの視線は耐えきれなかった。確実に。
教室を出ると、急に後ろに引っ張られた。
「いっ!った…。急に引っ張らないでよ!」
後ろを歩く日浅の胸に背中から思いっきり倒れ込んでしまった。
衝撃で倒れた時に日浅の前髪が浮き、一瞬目が合った。そして、その目が驚きで一瞬見開かれていたように見えた。
「…?」
「…あんた、さ」
「…何?」
「歩く時は前向いて歩けって子どもの時教わらなかったの?」
「はあ!?」
「邪魔」
前方から声がした。前を向くと佐摩が立っていた。
どうやら佐摩とぶつかりそうになっていたらしい。日浅、感謝。
「あ…すみません。」
とりあえず揉めるのは面倒なので謝っておく。
佐摩はチラッとこちらを見ると、興味のなさそうな顔で目線を戻し、6組に入っていった。
また何か喧嘩を売らないかハラハラしていたが、意外にも日浅は何も気にしていない様子であった。それどころか私に早く歩けと催促してきた。良かった。
8組に戻ってきて席につく。少しの安心感に満たされる。
数日にして濃厚な高校生活。春山に会いに行ったときの周囲の目は暫く忘れられそうにない。
予鈴がなる。
「あ~。もうホームページの時間か」
「いや、ホームルームね」
「あんた姑みたいだね」
「君が間違えるからだろ」
「今のはわざと。ナイスボケって誉めてほしいんだけど」
「はいはい」
「何その流し方つまんない」
「…さっきのボケがわざとだとしたら全く面白くないから」
「うざい」
「そうだね。うざいね。ごめんね」
日浅の扱い方が少しずつ分かってきた気がする。友達が、一人増えた。