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1年8組。
クラスから一足出ると他クラスからは好奇の目線を浴びる。校長の説明にはあったが、6組はともかく、7組、8組についてはやはりそう簡単には納得してもらえる訳もない。
6組~8組は学業以外の秀でた才能を持つ。これは非常にまとまった良い言い方だが、表現を変えるとあらゆるジャンルにおいて活躍する寄せ鍋状態のクラスだ。
寄せ集めな上に三軍。恐らくこの高校では最下位のスクールカーストに位置していると認識されるクラスだろう。
そしてここが、私のクラス。
教室のドアに貼られた座席表を見ながら初めて足を踏み入れる私の…1年8組の教室。
自分の座席につく。私の出席番号は12番。正直微妙すぎて覚えにくい。でも机は二列目一番後ろの席に座しているため、中々良い席だ。席替えあるのかな。暫くこのままが良いな。
そんな物思いに耽ってぼーっと教室を見回してると何人かと目が合う。しかし揃いも揃って皆急いで目をそらす。…さっきの入学式で悪目立ちしちゃったもんなあ…。別に平和に過ごせれば何でも良いんだけど、変に浮いちゃうのは嫌だ。浮いてるクラスで浮くとかもう浮きの極み?これが才能なら私6組に編入するんじゃない?あれ!?もしかしてラッキー?
「何あんたやっぱり変な奴なの?」
一人で表情をくるくる変えてしまっていたのだろう。いつの間に私の前の席に着席したクラスメートに話しかけられた。
声の主と視線を合わせる。
椅子に腰かけて肘をつき、頬杖をつきながら私の方を振り返っていた。顔をみると、ボブより少し短めの黒髪。前髪が長いせいで目がみえず、表情も読み取れない。
こいつ前見えてんのか!?もしかして心眼とかそういう才能の持ち主…?こわっ!
「やっぱりって何ですか。初対面なのに失礼な人ですね」
「あー。そっか。初めまして。俺、日浅。あ、あんたの自己紹介は別にいらないよ。入学式の時ので充分過ぎるくらい印象付いてるから」
春山のせいで私は見事印象付いてしまったようだ。
でもそれ、私の自己紹介じゃないから。他己紹介だから。
「…どうも。日向渚です。君の名前は?」
無視して自己紹介する。
「聞こえなかったの?あんたバカなの?」
なんだこいつーーー!!!
すごく相性が悪そうな奴が近くの席になってしまった。
「君こそ、聞こえなかった?質問したんだけど」
「えー。知らない人に名前教えたらダメって教わってるんだけど」
イラッ。落ち着け私。
「そうですか。じゃあもう話は終わりですね。前向いてください。気が散るので」
「何で?あんたの命令に従う義務とかないし」
うおおおおおおおおお!!!
心の中の私が叫んで走り回る。主にストレスが原因で。
「じゃあホームルームまで時間ありそうだから自分が席を移動します」
「あんた一人称自分なの?変わってるね」
なんなの!会話続けたいの?構ってちゃんなの?コミュニケーション苦手なの!?もー!嫌だー!!
「よく言われます」
「ふーん。俺は日浅 哲之介。一応名簿前後だからよろしく。宿題とか写させてね。頼りにしてるよ~」
頼んな!他力本願か!
…というか実は話しかけて貰えて少し嬉しかったのに、ノート写し係として話しかけただけかよ!
前途多難な高校生活の予想はしていたが、予想を大幅に上回りそうだ。とりあえず前言撤回。今すぐ席替えを希望します。
…疲れた。
席を立つ。
「あれ?どこ行くの?」
「ちょっとね。まだホームルームまで時間あるから散歩」
「ふーん」
………ちょっと!!!何でついてきてんのこいつ!?
しかもこいつさっき座ってたから分からなかったけどでかい!春山と同じ位かそれより少し高いくらいだ。
「えーっと…。日浅君、何か用かな?」
「別に?暇だし」
「一人で散歩したい気分なんだ。察して」
「はー?じゃあ行きたい方向が同じなだけだし」
もー!!
「じゃあはい。どうぞお先に」
「今止まってたい気分」
あっそうですか!!!
何度か巻こうと試みたが、身長差による歩幅の違いの哀しきかな。すぐに追い付かれた。春山が大型犬なら、差詰日浅は大型猫…化け猫といったところだ。
…デジャブだけど、疲れた。今日は厄日だ。