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続続・御用猫  作者: 露瀬
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毒剣 胡蝶蘭 17

「猫さん、ちょっと、お話しよっか」


 まだ、そばかすの残る赤毛の少女は、少しばかりの無邪気さを取り戻し、御用猫にそう告げる。しかし、彼の間合いから、半歩外側にしゃがみ込む辺りは、彼女が、普通の少女で無い事を、如実に物語っているだろう。


「……なんだ、珍しいな、フーちゃんから、誘ってくるなんてな」


 井上真改二を杖代わりに、身体を支える御用猫は、額に脂汗を滲ませていた。意識が断ち切られぬよう、太腿の傷に集中し、自らの鼓動を強く確かめるのだ。


「……もしかして、期待してる? なんだか、猫さん、余裕だもん……でもね」


 人差し指を口元に当てがい、フゥーディエは、んー、と小首を傾げるのだが。


「……あの忍者さんなら、もう、気を失ってるよ? 期待しても、助けには来れないかも」


「ら、を抜くんじゃ、ありません、先生に、習っただろ」


 荒い息を吐き出しながらも、軽口を叩く御用猫に、フゥーディエは思わず吹き出すのだ。くすくす、と笑いながら、何か楽しそうに、しかし、油断なく、彼の目を見据えている。


「やっぱり、猫さんは面白いね……そっか、まだ諦めて無いのかと思ったけど、そうゆうんじゃ、無いんだね」


「……フーちゃんは……いや、お前は、誰だ? 何の為に、こんな事をした、正直、訳が分からん」


 これは、御用猫の本心である。目の前の少女が、王女の暗殺を目的としているとは、もう思えないのだが、ならば、何が目当てなのか、と考えても、皆目見当が付かないのだから。


「んー……なに、と言われても……そうだなぁ……この子がね、私とおんなじ力を持ってたから……なんだか、勿体無いでしょ? 誰も気付いてなかったし」


「同じ、力? この、怪しげな術の事か」


 そそ、と彼女は頷くと、制服の裏地から、三十センチ程の針を引き抜いた。黒雀の物と良く似た暗器針である、恐らく、既に毒が仕込まれているのだろう。


「春花の術って、いうんだよ、本当は、粉にした毒を撒くんだけど……私のはね、音を撒くんだ、音の毒、声で撒くんだよ、だからね、こうして喋ってると、猫さんは動けないんだ」


「そいつは、便利だな」


 得意げな笑みを浮かべる少女は、指の先で、暗器針を、くるくる、と弄ぶ。斜陽に照らされた、それ、は、てらてら、と不気味に輝いていた、これは、金属の光沢ではあるまい。


「えへへ、でしょ? だからね、偶然、エディ君を見つけた時にね、これは、教えてあげなくちゃ、って、思ったんだ」


「……それで、仕事が雑だったのか……はぐれ者か、抜け忍か、まったく、迷惑極まりない、奴だな」


「わ、ひどい、私、ちゃんと教育してたのに……エディ君はね、もう少し追い込んだら、立派に壊れると思うんだけどな……猫さんが邪魔しちゃったから、また、最初から、やり直さなきゃ、だけど」


 もう、と口を尖らせる彼女からは、殺意の様なものは、全く感じなかった。しかし、だからこそ、御用猫は確信するのだ、これは、本物の志能便であると、彼女は同級生の、普通の少女では無く、恐るべき暗殺者なのだと。


「あ、忘れてた……志賀村忍者衆が六花仙「春花」の胡蝶蘭、だよ……元、だけどね、初めまして……あと、さようなら? 」


「……本物の、フゥーディエは、どうしたんだ」


「えー、ひどい、私がフーちゃんですぅ、ずっと、そう、最初から、そうだよー……皮だけ、借りてるけどね、えへへ、でも、二年以上前の事だし、もう、本人かなって」


 愛おしそうに、自らの頬を撫でる少女は、いや、もう、少女かどうかも不明であろうか、うっとり、とした恍惚の表情にて、その、若い皮膚を撫でるのだ。


「……そうか……フーちゃん、可哀想に、苦しかったろうな……」


「大丈夫だよ? 暴れたら剥げないから、ちゃんと眠らせてたし」


 御用猫は、私怨にて人を斬らぬと決めていた。例え、心の内に、溶岩の如き怒りが渦巻いていたとしても、決して、それに身を委ねる事はないのだ。だから、これは、哀れな少女の敵討ち、という訳では無く。


「……短い付き合いとはいえ、こいつらは、同級生だ……俺の知り合いに、手を出すと言うなら、ただでは済まさぬ……大人しく、お縄を頂戴しておけ、さもなくば……」


「どうなるの? 」


 さくり、と、御用猫の肩に、針が突き刺さる。顔を顰める彼を、じっと見詰め、フゥーディエは、真顔にて、ただ、その口角だけを、醜く歪めている。


「じゃあね、猫さん、嫌いじゃなかったよ? もう少し押してくれれば、股も開いてあげたのに」


「……お前にやれる機会は、今ので無くなった……おい、勘違いするなよ、お前が、誰かは知らないが」


 野良猫の目が、獰猛な光を放ち始める。しかし、フゥーディエの表情には、余裕があるのだ、肩に刺さった暗器針には、致死性の毒が塗られていたのだから。


「……知らないが、なぁに? 」


 にやにや、と歪む少女の笑いは、御用猫にとって、見るに堪えないものであった筈なのだが、今の彼には、それすらも届かない。


「野良猫はな……手負いの方が、性質が悪いぞ……」


 ゆっくりと立ち上がる御用猫に、少女は、初めて、その顔を強張らせたのだった。





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