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続続・御用猫  作者: 露瀬
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毒剣 胡蝶蘭 13

「呪い師は火を吹かぬ、水を吹くのがお仕事よ、素人灯りに丁稚の炊事、身体を拭いて一丁前(いっちょまえ)


 これは、クロスロードで呪術師を目指す子供達が、最初に覚える歌である。(まじな)いについての、こうした教え唄や、寓話のようなものは、世界中に散見されるのだが、その多くは、呪いでの直接的な攻撃を、否定するものであった。




「えー、このように、人が呪いを行使する際には、魂とも、イドとも呼ばれる、未知の領域を使用する。そこに、精霊や神の残滓と言われる、不可思議な存在を流し込み、自らの生命力を燃料に、森羅万象に影響を与えるのだ、しかし、これには……」


(……やはり、なんか、良く分からんな)


 授業を受ける御用猫は、相変わらずの、ぼんやり、とした呪いの説明に首を傾げるのだ。何とも曖昧で、いい加減にさえ思える仕組みであるのだが、分かる者には分かるのであろう、事実、このクロスロードにおいても、呪い師は、その力を存分に発揮しているのだから。




「うぅん、ここに来れば、使えるようになるやも、と思ったのだが、やはり、才能の無いものには、理解できぬ世界であるようだ……」


「あはは、それで、初等学級の授業に参加してたの? もう、言ってくれれば、教えてあげたのに」


 机を並べ、昼食をとりながら、御用猫とフゥーディエは、楽しげに談笑している。同級生達も気を利かせたものか、最近では、食事の間に、彼等に近寄る者も無い。


「あぁ、呪いならば、何度か教わった事もあるのだ、しかしな、これが、どうにも難しくてな……いや、難しいと言うか、もはや理解不能だ」


「そうなの? でも、そうだね、使えない人も沢山いるし、猫さんは、そうなのかも……でもでも、その代わり、猫さんは強いんだから、いいじゃない、私としては、そっちのほうが羨ましいかなぁ」


「馬鹿よせ、これ以上ゴリラが増えるのは、御免だぞ」


 なにそれ、と楽しげに笑うフゥーディエの唇の端に、米粒を見つけ、御用猫は、それを、ひょい、と摘まみ上げる。彼はそれを、そのまま自身の口に入れるのだが。


「あっ! 」


 それを見たフゥーディエは、箸を棒握りに俯くと、真っ赤になって縮こまるのだ。


「まったく、行儀の悪い奴め、笑いながら食うから、そうなるのだぞ」


 自身も笑いながら言う御用猫に、離れた机から、女生徒達の嬌声が上がる。地団駄を踏みながら、抗議に向かうフゥーディエの背中を眺め、彼は、その首筋に、薄っすらと、傷痕がある事に気付くのだ。


(あぁ、あの二つ分けは、傷隠しだったのか……)


 両の襟元から、両の耳裏へと向かう傷は、何かの手術を受けたものであろうか。女性の傷には敏感な御用猫である、この事には触れまいと決め、他の考えに浸る事にしたのだ。


(今日は、エディと話してみるか)


 御用猫としては、やはり、彼こそが、この事件の犯人であろうと予想する。何しろ、あの、子供と思えぬ程の殺気である、あれは、殺人を経験せねば、決して出せぬ程の濃密さであるのだ。


 しかし、彼が暗殺者とは思えない。仮にそうだとしたならば、とんでもない無能者であろう、あれだけ強烈な殺気を放てば、自身の居場所を、大声にて吹聴するも同然である。


(警護の騎士達は、あれに引かれて、エディに絡んだのやも……しかし、倒した相手は、テンプル騎士と志能便衆……とどめが毒針だとしても、一撃の訳がない、その前に何かした筈なのだが……果たして奴に、それ程の呪いが使えるものだろうか)


 そもそも、呪い師とは、戦いに向かないのだ。もちろん、そういった呪いも存在するのだが、対面して攻撃の準備をする間に、剣で斬られてお仕舞いだろう。


 予め呪いを用意して、不意打ちするにしても、動く標的に命中させるには、それなりの技術が必要であるし、一撃で相手を倒す威力となれば、かなりの体力を消耗するだろう。やはり、教え唄の通り、呪い師は、補助に徹するのが効率的なのだ。


 クロスロードでは、癒しの呪いが最も重要視され、次いで製水、軽量化の順である。戦時において、医療と兵站を支えるのが、彼等の役目である。


 故に、御用猫は、呪い師を怖れない。


(まぁ、チャムやホノクラちゃん辺りになると、話は別なのだがな)


 規格外の力を持つ二人であるが、あれ程の術師は、世界中を探したとて、そう何人も居るとは、思えないのだ。


 何にしろ、もう一度、エディと接触するべきだろう。複数犯の可能性も捨てきれぬが、もし、其奴らに襲われたとしても、それはそれで、話も早いのだから。


 御用猫は、大きく、伸び、をしてから息を吐き出す。結局は、いつも通りの場当たり対応とも言えるだろうが、所詮は野良猫、これ、の他に、遣りようを知らぬのだ。


 午後の授業は、先程よりも進んだ、呪いについての内容である。当然に、彼には理解の及ばぬ話であったのだが。


(まぁ、子守唄には、丁度良いか)


 御用猫は、目を閉じる。


 これはこれで、都合が良いだろう、などと考えながら。





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