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続続・御用猫  作者: 露瀬
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毒剣 胡蝶蘭 6

「フーちゃんよ、あれは何だ? 」


 給食が終わり、各々が自由時間を満喫する中、校庭に目を向けていた御用猫は、奇妙な集団を発見するのだ。彼の呼び掛けに応え、とてとて、と走り寄ってくるフゥーディエの背に、先程まで楽しげに会話していた級友達から、何か囃し立てるような声がかけられる。


「もう、やめてったら! そうゆーのじゃ無いから」


 恥ずかしそうに否定する彼女は、二つに結わえた赤毛を揺らし、それに負けぬ程の紅潮ぶりである。御用猫は知らぬ事であったのだが、年頃の少年少女にとっては、横抱きにされたまま教室に入って来るなど、さぞかし衝撃的な光景であった事だろう。


「うー、猫さん、その、フーちゃんって呼びかたなんだけど……」


 加えて、この親しげな愛称である。御用猫の学級では、今朝からこの話題でもちきりであり、フゥーディエは登校した瞬間に、女生徒に囲まれもしたのだ。


「うん? いや、あれだ、あの校庭の怪しげな集団なんだがな」


 ぴっ、と指差す御用猫の、それ、を、彼女は素直に追いかける。


(なんかこいつ、犬みたいだな)


 リチャードのような忠犬とも違う、少々間の抜けた従順さに、彼は好感を覚えるのだが、しかし、これでは、些か将来が心配だろうかと、御用猫は案じるのだった。


「あ、あれはね、まじないの練習だよ、私もそうだけど、平民出の人は、まじないの得意な人が多いんだ……あれは、昨日のエディ君の学年かな、星が見えないから、よくわかんないけど」


「星? 」


「これだよ」


 入学年齢の決まっていない、この学校では、在学年数に応じ、星型の襟章を増やしていく事で、おおよその学年が区別されている。御用猫の制服にも、金メッキされた星型の小さな襟章が一つ、ピンで留められていた。


 四年で最上級生となり、その時点で成人しておらぬものは、在学を選択する限り、そのまま星だけ増えて行くのだ。その為、同じ学級ではあるが、フゥーディエの制服には、襟章が三つ付けられている。


「ひとつだけ、赤色なのは? なんか意味あるのか」


「これは……えへへ、おしゃれ、だよ」


 少しだけはにかみ、フゥーディエは頬を掻いた。平民出の彼女にとって、これが、自己主張できる限界の制服改造なのだろう。


「へぇ、なかなか、可愛いじゃないか」


「そ、そう? ありがとう」


 普段通りの御用猫の軽口に、聞き耳を立てていた女生徒達から、嬌声が上がる。男子生徒は、にやにや、と笑いながら、揶揄う機会を伺っているようだ。


 もしも、フゥーディエが、もう少し美しい外見で、もう少し生まれが良かったならば、途端に嫉妬の視線を向けられていたのであろうが、良くも悪くも、彼女は至って、普通の少女であったのだ。


「しかし、エディ君か……お、居たな、いや、居たのは居たが……なんか、端っこだなぁ……うぅん、あいつは、いつも、ああ、なのか? 」


「それは……」


 答えようとして、フゥーディエは、何か口ごもると、御用猫の耳に唇を寄せ。


「……あとで」


 小さく呟いたのだ。


 再び沸き上がる嬌声に、彼女は、いーっ、と顔をしかめ、それを否定する為に、輪に戻って行った。




「……ふぅん、去年、この学校で、生徒が一人、死んだのか」


「うん……それがね、エディ君の、いちばんの友達で……何だか、それから、元気ないみたい」


 御用猫とフゥーディエは、並んで歩きながら、下校中である。彼女の家は北町の二十二番街とかで、通学するには、かなりの距離であるのだが、学費を捻出するので精一杯であり、移動手段は、専ら、徒歩であるという。


「成る程ねぇ、確かに、それは辛いかもな……ひょっとして、虐められてるのは、それと関係あるのか? 」


「うぅん、ショーさまは、前からあんな感じ」


 成る程ね、と繰り返し、御用猫は顎をさする。若者の見せる仕草では無かろうが、彼は十四歳と自己紹介していた為、学級内では最年長であるのだ、子供にとっては、一つ二つの年齢は、大きな違いとなるだろう、彼が転校早々に、一目置かれているのも、その年齢と、大人びた態度が理由であった。


 結局、御用猫は彼女を家まで送り届けた。情報収集の為には、他愛のない世間話も、交える必要があったのだ。





「先生、まさかとは思いますが、子供に手を付けるような真似は……いたた、痛い痛い、ごめんなさい」


 がっし、と、みつばちの顔面を握る御用猫である。こめかみにめり込む指先には、かなりの力が加わっているのだ。


「うぅ……先生、何だか、いつもより、握りが強いような……」


「そうか? 普段通りのつもりだったのだが……加減が効いてないのかな、まぁ気にするな、殺す気なら、とっくに潰してる」


「なるほど、愛ですね……あ、ごめんなさい、いたた、痛い、ほんとに痛い! 」


 再び顔面を掴むと、少しだけ力を強めながら、御用猫はみつばちに指示を出す。


「調べ物を、ちょいと追加するぞ、サルバット ショー バルタン、それに、エディという平民の生徒だ、去年、校内で死人が出てるらしい、そこも合わせて頼む」


「了解です、しかし、いたた、その殺人についてなら、多少、調べはついております」


「ん、殺しなのか? 」


 御用猫は、みつばちを解放し、猪口の中身を空にする。アドルパスに、ゆっこや黒雀の教育に悪いからと、人前での飲酒を禁じられ、今はこうして、間借りした自室にて、隠れ酒であるのだ。


「はい、被害者も平民であった為に、噂にはならなかった様ですが……おそらく、毒殺かと」


「アルたその部下と、同じ、か……臭いな、しかし、手練れの志能便にしては、やる事が雑だな……護衛の二人は死体を隠したというのに……そもそも、殺す意味が分からん」


 御用猫としては、そこが気掛かりなのだ。もしも暗殺者が、王女を狙うならば、護衛だけを殺すなど、全く以って無駄どころか、徒らに警戒されるだけ、逆効果であるだろう。


「ですが、その腕前こそが、恐るべし、です……テンプル騎士と酒番衆を、同時に始末したのですから……手口は、毒針にて一撃……口で言うのは簡単ですが、それ、を行うとなると……正直、黒雀でも困難かと」


「うぅん、これは、放し飼いかもなぁ……しかも複数人かも知れぬ……まったく、迷惑極まりないな」


 通り魔的愉快犯であるならば、王女が狙われる可能性も下がるだろうが、今度は、仕事に終わりが見えなくなってしまうのだ。アルタソマイダスは学校内に暗殺者が居ると言ったが、こうなれば、護衛が殺されたのが、校内だからといって、犯人もそうだとは言えなくなってしまうだろうか。


「はぁ、ただでさえ、無駄にでかい学校だというのに……外まで手は回らぬぞ」


「先生、許可が頂けるのならば、雀蜂を動員いたしますが……」


「……それはやめとこう、なんか、こっちが暗殺者に仕立て上げられそうだ」


 今は遊撃騎士団所属とはいえ、黒雀を扱うのでさえ、良い顔をされぬのだ。王女の通う学校に、暗殺専門の部隊を投入など、剣姫が許そう筈もない。


「はぁ、もう、今日は寝るか」


 面倒事に頭を悩ますのは、ここまでにしようと、御用猫は立ち上がり、ベッドに移動する。さも当然の様な顔をして、みつばちも彼に続き、布団に潜り込んだのだが。


「痛ったぁッ! 」


 ぴょいん、と尻を押さえて、飛び出してきた。仰向けに寝そべる御用猫は、不敵な笑いを顔に張り付け、頼もしい護衛の頭を撫でる。


「よしよし、可愛いやつめ、その調子で頼むぞ」


「駆除する、悪い虫、つまの、ぎむ」


 布団の中から頭を出した黒雀は、呻くみつばちの尻に、二本目の針を投擲した。


「いッ! 」


 痛みにのたうつ彼女を見て、少々、やり過ぎかとも思ったのだが、たまには、良い薬なのだ。この黒い死神に、多少、イドは吸われるかも知れないが、穏やかな睡眠には代えられぬ。


 もう一度だけ、少女の頭を撫でると、御用猫は安堵のうちに、眠りに落ちたのだった。


 



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