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続続・御用猫  作者: 露瀬
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あやまち 6

「おう、久しぶりだな、元気にしてたか? 」


「残念ながら、肉体的には、何とも頑丈な生まれなのですよ……ご無沙汰しております、猫の先生」


 見上げ門をくぐった御用猫は、ハボックと、軽い挨拶を交わす。しかし、彼自身の言ったこととはいえ、こうして冗談を混じえた会話が出来るようになったのは、ハボックにとって良い傾向であろうかと、面の傷をなぞりながら、御用猫は思うのだ。


「猫の先生、お久しぶりです、でも、あんまりリリィアドーネに寂しい思いをさせると、捨てられちゃうんだからね? 」


「おう、気をつけるよ、しかし、そっちは寂しく無さそうだな」


 ちら、と御用猫は、ハボックに視線を送る、ニムエは、彼の腕を取り、隙間など許さぬ、とばかりに、互いの身体を密着させていた。しかし、幸せそうに頷く女の方とは違い、男の表情には、少々の翳りが、見て取れるだろうか。


「えへへ、もちろんよ、ハボックは、何処にも行ったりしないものね」


「……そうか、ハボック、か……ふむ、なるほど、ニムエの美しさに磨きがかかってきたのは、そういう事か」


 その内心は、おくびにも出さず、御用猫は、にやり、と笑う。赤くなった彼女は、しかし、満面の笑みにて、ことん、と頭を、ハボックの肩に預けるのだ。


「また言った! 」


 突然、背後から上がった言葉は、リリィアドーネのものであった。珍しく御用猫の報告に同席していた彼女であったのだが、教会の視察という名目で、今日は非番になったらしい。


「私は! まだ、聞いていないぞ! 」


 真面目な彼女にとって、当然ではあるのだが、城内では殆ど言葉を交わさず、そして、見上げ門を出てからは、姿を見るなり、御用猫に飛び付いてきたみつばちを引き剥がし、今の今まで、背後でじゃれ合っていたのだ。しかし、ずかずか、と肩を怒らせ彼に詰め寄るリリィアドーネの姿は、確かに久しぶりの光景であり、彼は何か、奇妙な安心感すら、覚えるのであった。


「ん、なんだ、何か言い忘れてたか? 」


「ぐっ……何か、と言われれば、なんにも無いのだが、いや、しかし、私にも、あって然るべきであろう! 」


 はて、と御用猫は首を傾げる。礼儀にうるさい彼女の事である、そこは、挨拶もきちんと交わしていたのだ。


(ならば、土産でも強請っているのか……いや、サクラじゃあるまいし、それは無いか? )


 皆目、見当もつかない御用猫であった。リチャード少年でも居れば、また話は違ったのであろうが、彼ひとりでは、どうにも、彼女らの心は、推し量り難いものであろう。


「悪いが、土産は用意できなかったよ、山エルフの装飾品は無骨なものばかりでな、可愛いリリィには、似合いそうもなかったのだ、すまない」


「……うん、もういい」


 軽口で逃れようとしただけなのだが、何故か、上機嫌になるリリィアドーネに、再び、御用猫は首を傾げる。しかし、理解出来ぬものを考えたとて、答えは出まい、機嫌を直したのなら、それで構わないだろう、と、彼はハボックに向き直るのだ。


「んじゃ、行くか……ニムエ、悪いけど、ハボックを借りて行くぞ? 男同士で、少し、話がしたいのだ……時間がかかるから、もし良ければ、リリィに付き合ってやってくれないか」


「それはいいけど……先生? 悪いお店は、駄目、ですからね、念のために、ね」


 目を細めたニムエに、若干の恐怖を覚えながら、御用猫は何度も頷く。


(普段は丸っこい顔のくせに、こういった時には、妙に迫力のある奴だな)


 彼女に比べれば、隣で睨むリリィアドーネなど、子供のむくれ顔、であろうか。しつこく振り向いて手を振る二人を、笑顔で見送ると、御用猫は、こきこき、と首を鳴らし。


「お前もだよ」


 すぱん、と、みつばちの後頭部を、はたいたのだった。



「先生、どうして、私が二人で話したいと……相談事があると、お分かりに? 」


「前にも言ったろ、お前は、自分で思うよりも、顔に出るんだよ……んで、ニムエの事か? ハボックと呼んではいるが、いや、呼ばせているのか、ならば、回復した訳でも無さそうだな……まぁ、分かる話だよ」


 御用猫とハボックは「つる草のドレス亭」にて向かい合い、少しばかりの香の物を肴に、昼間から酒を酌み交わしていた。明るい内は、唯の小料理屋であり、しかし、その性質上、個室ばかりのこの店は、こうした話をするのには、まさに、うってつけ、と言えるであろう。


「恥ずかしながら、その通りです……おそらく、お気付きでしょうが……」


「あぁ、それは良いさ、俺が言った事だしな、恥じる必要も無いだろう」


 くい、と猪口を傾け、御用猫は、水で割った酒を喉に流し込む。まだ、日が高いからであろうか、酔い過ぎないように、こうした薄酒を出す店も多いのだが、これは、あまり、御用猫の好みでは無いのだ。


(……抱いてる最中に、他の男の名前を呼ばれたのでは、正直、堪らないだろうしな)


 いかな精神力の持ち主といえども、我慢の限度、というものがある。改名だと説明でもしたのか、ハボックは、己とニムエを守る為に、ぎりぎり、許容出来る妥協点を、見出したのであろう。


「はい……しかし、今日の相談は、そちらではなく、いや、そちらにも、心痛はあるのですが……」


「遠慮するなよ、吐き出せる時に吐き出しておけ、他人を巻き込んで逃げ道を作るのも、中々に、有効なのだと、言ってた奴がいる……まぁ、相手は、良く選んだ方が良いがな」


 肩を竦める御用猫に、ハボックが、少しだけ笑顔を見せる。


「常道ですな……実は、私も、そう言って聞き出したのですよ」


「ん、他人の悩みか? あぁ、さては、スキットの所か、なんだ、その分だと仕事も、ちゃんとしてるみたいだな」


 少しだけ、御用猫は驚いてみせる。ハボックの能力ならば、商いとて問題ないだろう、とは思っていたのだが、同僚から相談を受ける程度には、職場にも馴染んでいるようだ、変人も、なりを潜めたものである。


「流石、ご明察の通り、ですが、商いではなく、その、女絡みでして」


「ふぅん……なるほどね、それは、良い考えかもな、だが、構わぬのか? あまり、余所に漏らして良い話ではあるまいに」


 痴情の縺れならば、醜聞であろう、彼に相談した人間も、あまり広めて欲しくは無い話であろうが。


「そこは、まぁ、他ならぬ辛島殿なのです、その名を信用しての、事ですよ」


「嫌な信用だなぁ……まぁ、良いか、時間はあるのだ、だが、うっかり話し込んで、嬢が雪崩れ込んで来やしないか、ちょいと、心配ではあるな」


「なんと、それは困りますな……ならば、その前に、込み入った話だけは、終わらせるよう、努力しましょう」


 二人は笑い合い、小さな猪口をかち合わせると、少々物足りぬ、薄酒を喉に流し込むのであった。





明日は帰宅出来そうに無いので、お休みします。


ごめりんこ

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