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続続・御用猫  作者: 露瀬
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あやまち 5

「嫌どす」


 いつものように、アルタソマイダスの私室に出頭した御用猫は、入室するなり、きっぱり、と断りを入れたのだ。些か非常識であるだろう、失礼でもあるだろう、しかし、彼は言わずにおれなかったのだ。


「ご挨拶ね、旅から戻ってきたなら、まずは「ただいま」でしょう? 」


「だだいま、アルたそ、今日も可愛いな……だけど、嫌どす」


 野良猫の意思は揺るがない。例え、傍に控えるリリィアドーネから、刺すような視線を浴びせられたとしても、その圧迫感は、山熊もかくやとばかり思われる、アドルパスの太い指にて、両肩を押さえつけられたとしても、である。


「ありがと、それでね、ジュートには、山エルフと草エルフ……つまりはね、全エルフ族、その専属の、外交特使になって貰うから、そのつもりでね」


「まて、嫌だと言った筈だ、あと何で、さり気なく草エルフまで押し付けてんだよ、あっちには知り合いなんて……」


「ツク ソ ナング……だったかな? 良いわね、族長自らのおもてなし、なんてね、すごく名誉な事らしいわね……ねぇ、知ってる? リリィ、草エルフはね」


「慎んでお受け致します」


 なんたる事か、既に、そこまで調べられていたのだ、御用猫は、アルタソマイダスが余計な事を口走る前に、観念して敬礼する。通常の逆、手の平を胸に向けたのは、彼の最後の抵抗であった。


「……まぁ、取り敢えずは報告しろ、全く、余計な事を言うから、話が拗れるのだ……しかし、お前の事だ、今回も、上手くやったのであろう」


 左右から、ばしばし、と叩かれ、御用猫は顔を顰める。相も変わらず、加減を知らぬ男であるのだ、背後に立たれて表情は読めぬが、その声の調子に、久方振りの再会を喜ぶものが含まれていなければ、御用猫は、文句のひとつも付けていたのだが。


「はぁ、とにかく、最初から説明しますよ……」


 御用猫は、少々草臥れた表情にて、今迄の経緯を説明し始めた。




「……むぅ、貴様、それは……おおごとになるぞ」


「まぁ、面倒は面倒ですがね、五党座の族長は中立を表明しました、他の氏族も、それに倣うでしょう、彼女は、近々、王女殿下に御挨拶したいと……いや、あの性格なら、直ぐにでもやって来るな、リチャードかサクラを迎えに出しときますよ」


 なので、後の事は任せると、御用猫は肩を竦める。


「……そうね、後はこちらでやるわ、ジュートは、名前だけ貸してくれれば良いから……いつものように、ね」


 その、意外な言葉に、御用猫は、おや、と片眉を上げ、脳内で思索を始めた。


(やけに聞き分けが良いな……てっきり、立ち会え付き添え、とか言い出すと思ってたが……うぅん、これは、臭いぞ……さては、罠、か)


 御用猫は、そう結論付ける。この、金色の女狐が何を企んでいるかは分からないが、向こうの意に沿うのは、危険であろうか。


「……いや、やはり俺も同行しよう、紹介してくれと頼まれているし、それに、山エルフは、なんというか、言葉が荒いからな……姫様には少々、刺激が強過ぎるかも知れない、俺がとりなした方が良いだろう」


「そう? なら、お願いしようかしら」


 仮面の上からでは、彼女が何を考えているのかは分からない、しかし、これで、悪だくみは防げただろう。


 御用猫は軽く挨拶し、長居は無用とばかりに背を向ける。慌てて二人に会釈し、リリィアドーネが彼の後を追った。



「……なんとまぁ、上手く操るものだ……男を手玉に取るのは、あまり、感心せんがな」


 ぼりぼり、と顎髭を掻きながら、何か、同情でもするかの様に、「電光」のアドルパスは、御用猫の出て行った扉を見詰める。くすくす、と背後で笑う「剣姫」は、楽しげな調子にて、豪奢な椅子を引き、優雅に立ち上がった。


「それは違いますよ、アドルパス様……ジュートは、あれで面倒見が良いのだから……ああして、いつも、言い訳を探してるの……可笑しいでしょう? 」


「それは、お前も同じであろう? ……全く、捻くれ者どうし、もう少し仲良くはできんのか」


 もしも、ここに御用猫が居たならば、お前が言うな、と文句を付けた事だろう。


「そういえば、奴が戻ったならば、式の段取りもあるか……お前はどうする? 都合もあろうし、忙しいならば……」


「いえ、その件についてなのですが、私も参加します……日取りは向こうに合わせるのが良いでしょう、その方が、「安全」ですから」


 アルタソマイダスの言葉に、全てを理解したアドルパスは、その、獅子の如くに輝く眼を、驚きに見開いたのだ。


「……そうか、確かに、そういったお方だ……了解した、しかし、リリィアドーネと、フィオーレか……むぅ、少々、心許ない……これは、駒が足りぬか……おのれ、テンプル騎士を信用出来ぬとは、なんと、歯痒い事か」


 その巨体に見合わぬ、細い息を吐き出し、アドルパスは肩を落とした。度重なる失態にて、彼は自らの部下にさえ、全面的な信頼を置く事が出来ぬのだ、もちろん、栄光のテンプル騎士には、間違いの無い人物が揃っている筈なのだが、団長のアドルパスとて、その全てに親交がある訳でもないのだ、今回に限っては、万に一つの危険も犯す事は出来ぬであろう。


(辛島に、リチャード、ハルヒコにハボックか……良い(おとこ)ばかり、集めたものよ……なんと、悪い冗談か、外部の騎士の方が、安心出来ようとは……)


 これは、綱紀を、粛正せねばならない。


 アドルパスは、心の内に決意するのだ。


 自らに、まだ、力のあるうちに、と。




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