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続続・御用猫  作者: 露瀬
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凍剣 雪中行 26

「……向こうへは、行かなくても良かったのか? 」


「あんなもの、子供の遊びだろう、今は、俺の将来設計の方が大事なのさ」


 そうか、と呟き、パナップは黙して歩みを続ける。


(こいつも、ドラゴンか? 今になって言うことでもあるまいに)


 御用猫とパナップは、ロンダヌス側の出口に向けて、かれこれ一時間程歩き続けていたのだ。しかし、この男が面倒を嫌うというのは、真実であったのだろう、歩き始めてから今まで、会話らしい会話は、先のやり取りが初めてであったのだから。


「なぁ、パナップよ、自分で言うのも何だが、こんな簡単に、俺を信用しても良かったのか? クロスロードから送られた間者の可能性もあるだろうに」


「問題あるまい、俺が話した内容など、そちらは全て把握済みだろう……王女か、バステマ公か、それとも剣姫かは知らぬが、恐ろしく知恵の回る奴が居る……端くれとはいえ騎士なのだ、自国の恐ろしさも知らぬのか? 」


 御用猫は、興味無さげに肩を竦める。酒番衆を自由に扱えるのは、確かにその辺りであろうが、正直なところ、野良猫には、まるで縁も興味も無い世界なのだから。


「剣士は、剣を振ってなんぼだろ、考え事は、他の奴がやれば良いのさ」


「ならば、立身出世は諦めた方が賢明だぞ……面倒事が増えるばかりだ、そんなに、良いものでは無い」


 相変わらずの能面ではあったのだが、御用猫は彼の表情に、何処と無く、疲れた様子を感じ取る。今のは、嘘偽りの無い、心情の吐露であったのだろう。


「まぁ、程々にしておくよ」


「それが良い」


 それきり、会話は無くなった。足音だけが低く反響する無限回廊、そんな錯覚に囚われそうな巨大通路の中を、御用猫達は足早に進んでゆく。


 二人の健脚ならば、大トンネルの出口まで、あと一時間と少しであろうか、外に出た瞬間に襲われる事も考えてはいるのだが、その可能性は低いであろう。ならば、この違和感は何であるのか、御用猫は思索を巡らせる。


(もしも襲われたならば、それはそれで都合が良いと、付いてきたのだが……しかし、理由が分からないな……ロンダヌスとの因縁など、精々バリンデン一家くらいか? まさかに、父の関係者とも思えぬし……サーラとか言う名にも、まるで心当たりは無いのだ)


 これは、堂々巡りであろうかと、御用猫は思考を中断する。考えても始まらぬ事は、無駄にしかならないのだ、ならば、後はいつもの通り、出たとこ勝負しかあるまい、と結論付ける。


(……サクラ達は、上手くやっているであろうか)


 御用猫よりも早く出発した彼女らは、そろそろ勝負を始めた頃であろうか。残りの時間を潰すため、彼は、昨夜にまで記憶を飛ばす。




「……ねぇ、分かっているとは思うのだけれど、ボクは、何の手出しも、するつもりはないよ」


 にじり寄るホノクラちゃんの顔を抑えながら、御用猫は、ちらり、と彼にしがみ付いて眠るサクラに視線を向けた。最後まで打ち合わせと型稽古を続ける彼女に、ひとつふたつ、付け焼き刃の技を指導したのだが、床に入った途端、まるで、落ちるように眠りについてしまったのだ。


「分かってるよ、ホノクラちゃんは、見てるだけで構わない、もう、リチャードには、必要分だけ教えているんだろう? ……それに「役目」は果たして貰うんだ、それだけで、こないだの不埒は許してやる」


 だから、今日は許さない、と、御用猫は、妖艶とも思える表情を少年の顔に張り付ける、ホノクラちゃんの顔を押し戻すのだ。


「おや、覚えていたのかい? ふふ、忘れているなら、もう一度刻んでおこうと思ったのにさ」


「いや、覚えていない、覚えていないが、断固拒否するぞ」


 こんな事もあろうかと、今日はチャムパグンを逆さに乗せているのだ。自爆覚悟ではあるのだが、いざとなれば、その尻から、毒霧を噴出させる事も厭わない。


 その覚悟が伝わったものか、ホノクラちゃんは、すい、と身を離し、片肘をついて半身を起こす。先ほどまでの笑みは、そのなりを潜め、発光する壁面を背に、何処か、影のある顔を作り出す。


「……ボクの友人は、キミひとり、なのだからね、例え、彼女らに危機が訪れたとしても、助ける事は出来ないよ」


「そうか……ありがとな」


 御用猫が感謝の意を伝えると、一瞬、驚きの表情を見せたのち、彼は柔らかな笑顔を見せる。


 おそらく、正しく伝わったのであろう、御用猫の言葉は、彼の苦悩を理解した上で、その裏側にある真心に向けられたものであった事が。


「……これは、どうにも、まいったね……できる事なら、ボクが、本当の身体の時に聞きたかったかな」


「このくらいで良いなら、いつでも言ってやるよ……さ、もう寝るぞ、リチャードの身体も、休ませてやらないとな」


 御用猫は、そう言って眼を閉じる。彼の、伸ばされた右腕の上に、大人しく頭を乗せたかに見えたホノクラちゃんであったのだが。彼は不意に身を起こし、御用猫の唇に、それ、を重ねたのだ。


「っ! お前、やめろっつっただろ! 」


 しかし、くつくつ、と悪戯っぽく笑うホノクラちゃんの顔は、いかにも無邪気であり、毒気を抜かれた彼は、顔を顰めつつも、苦笑する他には無かったのである。


 どうやら今宵は、毒霧の出番も無さそうなのだった。




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